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第28話 武器なんか捨ててかかってこい

天井を警戒したまま、三人は部屋の奥へ視線を滑らせる。


静寂。


さっきの奇襲が嘘みたいに、空気が重いだけ。


のっそりと影が動いた。奥の暗がりから、ゆっくり出てくる。


一回り大きい。肩幅が違う。

皮鎧じゃない。金属の当て物が混じっている。

そして、金属製のハンマー。


床に引きずる音が、嫌に響く。


ほのかの喉が鳴った。


「あれ、普通のゴブリンじゃない」


ミコトが短く答える。


「ホブゴブリン、上位個体ですね」


しずくは盾を上げたまま、目を細める。


ホブゴブリンの後ろから、ぞろぞろと出てくる影。


取り巻きゴブリン、3匹。


短剣が1。

棍棒が1。

弓っぽいのが1。


「これが本命。多分、巣穴の主」


コメント欄が一気にざわつく。


『ホブだあああああ』

『ハンマーやばい!即死武器!』

『取り巻きは地獄』

『巣穴の主きた』

『撤退ライン意識!』


ホブゴブリンが、こちらを見た。


目に知性がある。

狂ってない。仕事で殺しに来る目。


そして、低い声で唸る。


「ギィ」


取り巻きが広がる。弓が後ろへ。

短剣と棍棒が左右へ。


ミコトが一歩だけ下がり、はっきり言った。


「広場で戦わない。通路へ誘導します」


ほのかが即答。


「賛成。ハンマーは狭いところだと振りにくい」


しずくは短く頷く。


「釣る…」


「取り巻きから落としましょう」

「弓を最初に。ホブは最後」


ほのかが弓を上げる。


「しずく、前出すぎないで!」


しずくは盾を上げ、通路の入口へ半歩下がる位置を取る。

詰まりを作れる位置。


(ここなら、横から来ても盾で塞げる)


ホブゴブリンが、ハンマーを持ち上げた。


空気が重くなる。

まだ振ってないのに、圧でわかる。


当たれば終わる。


戦士型のHPが、心の余裕になる。


(でも、被弾していい相手じゃない)


ほのかが腰から双剣を抜く。


「先手必勝!」


《ダンシングソード》


双剣が踊る。風を起こし砂埃が舞う。

弓ゴブリンが左手で目を覆った、その時。

がら空きの胴体を風の刃が、交互に切り裂く。

口から赤いものを吐き出しながら、ゆっくりと倒れた。


ミコトが言う。


「来ます!」


棍棒を握りしめて、ゴブリンが駆けて来る。


しずくが盾を構える。


もう一匹のゴブリンが、しずくへ短剣を投げる。


予想外の行動に、しずくの反応が遅れた。


ぎりぎり銀盾で弾く、そこへ棍棒が迫る。


《ホーリーロープ》


聖なる紐が、棍棒持ちの腕に絡む。

動きが止まる。


短剣を投擲したゴブリンが、床におちた弓へ走る。


「この!させるか!」


ほのかが、即反応しコンパウンドボウを向ける。


《ダブルショット》


矢がゴブリンの頭を射貫く。


しずくは体制を整えると、拘束された棍棒もちの顎を銀盾でカチ上げる。

たたらを踏んだゴブリンへ、ロングソードを刺しこんだ。


取り巻きは片付けた。残るは本命。


ホブゴブリンが、ようやく動く。

少しだけ口角が上がる、遊び相手を見つけたように。


こちらに向け踏み込む、のっそり、確実に。


そしてハンマーを振る予備動作。


しずくの背筋が冷たくなる。


(来る)


「通路へ。今です」


しずくが盾を構え直し、じりじり後退。


ほのかとミコトも同時に下がる。

三人の“型”が揃う。


ホブゴブリンが、通路に入る。


ハンマーが振りにくい広さ。

詰まりができる地形。


勝負はここだ。




通路に入った瞬間、空気が変わった。


「よし、狭い。ハンマーは振れ…」


ほのかが言いかけた、その時。


ホブゴブリンが、躊躇なく。


ハンマーを捨てた。


金属が床に落ちる音が、通路に響いた。

重い。鈍い。嫌な音。


しずくの脳が一瞬止まる。


(え?)


次の瞬間。


ホブゴブリンは、空いた両手を握り込んだ。

関節が鳴るみたいに、筋肉が盛り上がる。


そして、前に出た。


速い。


のっそりじゃない。

一歩目だけ、爆発的に速い。


視聴者が叫ぶ。


『え!?捨てた!?』

『格闘ホブだああああ』

『武器捨てるタイプ一番怖い』

『素手のが強い奴やんけ!』


ほのかが思わず声を漏らす。


「は!?」


ミコトも目を見開いた。


「武器を…捨てた?」


ホブゴブリンが、低く唸る。


「ギィィ!」


そして、剛腕が振るわれた。


殴るというより、崩す動き。

拳圧が、空気を押し潰す。


しずくは反射で盾を前に出した。


衝撃が、全身を貫いた。

腕だけじゃない。肩、背中、骨に響く。


(なにこれっ!)


体が後ろへ滑る。

ブーツが床を擦る。


戦士型の耐久がなければ、ここで崩れてた。


しずくのHPバーが、目に見えて削れた。


ほのかが叫ぶ。


「しずく!HP!」


見える。だからこそ怖い。


ミコトが即詠唱に入る。


長い詠唱。でも今は、必要。


しずくは歯を食いしばって耐える。

盾を落とさない。


(殿じゃない、今は壁だ)


ホブゴブリンは止まらない。

二発目が来る。


しずくは、受けるじゃない。角度を変える。


銀盾で拳の軌道をずらす。


それでも、重い。

でも直撃じゃない。耐えられる。


その瞬間、ほのかが矢を放つ。


《ダブルショット》


肩に刺さる。でも止まらない。


「効いてない!?」


ほのかが歯を食いしばる。

(この狭さじゃ、風を起こす双剣は使えない…)


ミコトの詠唱が通った。


光がしずくに降りる。


《HP回復(中)》


息が戻る。痛みが少し遠のく。


ミコトがホブゴブリンを凝視しする。


「格闘タイプ、最初からハンマーは見せ札だった可能性が」


ほのかが青い顔で笑う。


「悪い冗談、わざと狭い通路に誘ったってこと…?」


コメント欄、阿鼻叫喚。


『拳でHP削るのおかしいw』

『盾が壁じゃなくてサンドバッグになってる』

『格闘ホブ=初心者殺しの上位互換』

『しずく耐えてるのすげぇ』

『ミコトのハイヒール間に合った!』


ホブゴブリンは、前しか見てない。

最短で“壁を壊す”ことだけ考えている。


しずくを抜けば、後ろが死ぬ。

それを理解している動き。


しずくは、奥歯を噛んだ。


(このままじゃ、押し切られる)


身体が叫ぶ。


(押し返せ)


しずくは盾を一度引き、踏み込んだ。


盾で押すんじゃない。

肩から当てる。


ホブの体が、ほんの少しだけ揺れた。


(効く!)


ほのかが、その瞬間に合わせる。


《ダブルショット》


同じ場所に刺す。

筋肉の奥に、ダメージを通す。


ミコトが叫ぶ。


「足を止めます!」


《ホーリーロープ》


光の紐がホブの足首に絡む。

完全には止まらない。

でも、一瞬踏み込みが鈍る。


その一瞬。


しずくが、剣を振る。


盾の隙間から、膝を狙う。

倒すじゃない。動きを奪う。


ホブが唸る。


「ギィッ!」


効いた。確かに効いた。


ほのかが息を吐く。


「やれる。やれるけど、これ長期戦やばい」


ミコトも冷静に言う。


「はい。撤退も視野です。宝箱は…最悪捨てます。まず生還」


しずくは盾を上げ直した。


(逃げてもいい)

(でも、ここで引いたら、また来る)


ホブゴブリンは拳を構えたまま、ニヤリと笑ったように見えた。


ホブゴブリンの拳が唸る。

通路の空気が押し潰される。


しずくのHPは戻った。

でも、殴られればまた削れる。


長期戦は不利。

ミコトのMPも、少しずつ減っている。


その時。


しずくの脳裏に、ふと、言葉が刺さった。


祖父が帰り道で、何気なく言った一言。


「格闘、素手の相手なら…合気だ」


(合気)


しずくが盾越しにちらりと二人を見る。


「合気…使う…」


ほのかが叫ぶ。


「は!?合気!?ここダンジョン!!」


しずくは、一拍だけ止まった。


そして。剣を鞘に納めた。


視聴者が一斉に叫ぶ。


『え!?剣しまった!?』

『なにしてんの!』

『盾しずくが?』

『合気ってまさかwww』


ほのかもミコトも、目を丸くする。


「え?なにその…構え」


しずくの背筋が伸びる。

足が自然に開く。重心が落ちる。


前髪の奥の目が、いつもと違う。

ガンギマリの冷静。武人の血。


両手は、ふわりと前に。

押し返すんじゃない。受けるんじゃない。


導く手。


コミュ障のくそ雑魚なめくじは、いない。


いるのは、佐倉忠義に叩き込まれた“型”。


ホブゴブリンが笑ったように唸った。


「ギィィッ!」


拳が飛ぶ。一直線。破壊の拳。


しずくは避けない。


一歩、半歩、入る。


拳の外側を撫でるように受け、肘に軽く触れる。

力の方向をずらす。


拳が、壁に突き刺さる。

衝撃が通路を揺らす。


ホブゴブリンの体勢が、前に崩れる。


(今)


しずくの左手が、ホブの腕を“引く”のではなく、落とす。

右手が肩に触れて、重心を抜く。


合気は力じゃない。タイミングと軸。


ホブゴブリンの巨体が、前につんのめる。


「ギ!」


その瞬間、しずくの足が動く。


払う。


膝の裏を刈る。ホブゴブリンが膝をつく。


通路に膝が落ちた。


視聴者が発狂する。


『合気キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』

『崩したあああああ!!』

『盾しずく、別ジャンル始めたwww』

『これがリアルスキルだ!』

『ホブ膝ついたwww終わりだwww』


ほのかが半分叫び、半分笑ってる。


「え!なにそれ!強すぎ!!」


ミコトも目を見開いたまま、息を呑む。


「本当に…合気…」


そして——しずくが、剣に手を掛けた。


鞘から抜く音が、静かに響く。


ホブゴブリンの首筋に、刃が吸い込まれるように入った。

深い。確実。


ホブゴブリンの体がぐらりと揺れて、崩れ落ちた。


ほのかも、ミコトも、視聴者も言葉を失う。


しずくは剣を振って血を落とし、鞘に納める。


そして、いつものように、少しだけ震える声で言った。


「か、勝てた…?」


コミュ障が戻った。


ほのかが爆笑した。


「戻るの早いw いや、でも…今の何!?」


ミコトもようやく息を吐く。


「…佐倉さん、いまのは合気道ですか?」


しずくは前髪の奥で、ぷるぷる頷いた。


「…おじいちゃん…の…合気」


コメント欄はもうお祭り。


『リアルスキル最強!』

『合気でホブを崩すJKwww』

『剣は納めるためにある(違)』

『ほのかの「え?なにその構え」草』


ホブゴブリンの巨体が消え、ドロップが落ちる音がした。


巣穴の主は倒れた。


宝箱は、きっとこの先。

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