第27話 角待ち
時間がない。
ミコトが即断する。
「強行!短時間で終わらせます!」
ほのかがもう一本、矢を放つ。
弓ゴブリンの喉元に刺さって、声が途切れた。
しずくがその隙に踏み込む。
戦士型の補正で、足が重くない。むしろ安定する。
棍棒をゴブリンが振り下ろす。
バックラーで受けずに流す。
空いた脇に剣が入る。浅く、でも確実に。
もう一体が回り込もうとする。
ミコトの杖が光る。
≪ホーリーロープ≫
聖なる紐が、ゴブリンの足に絡みつく。
動きが止まる。転ぶ。
「ミコト、ナイス!」
≪ダブルショット≫
転んだゴブリンの頭を2本の矢が射貫く。
残り二体。
短剣持ちが、しずくの足元に潜ろうとする。
しずくは前に出ない。
盾でゴブリンの頭を強く押す。
体勢が崩れた瞬間、ほのかの矢が刺さる。
短剣持ちが、そのまま前のめりに倒れる。
最後の棍棒持ちが、大きく振りかぶったところで、しずくの剣が横薙ぎに走った。
重みがそのまま刃になる。
無防備な胴を赤い線が走る。そのまま刃を返し、胸の中心を突く。
口を赤く染めながら、ゴブリンは後ろ向きに倒れた。
広場の4体が、数十秒で沈黙した。
三人のHP/MPは、ほぼ減っていない。
「連携、完璧じゃない?」
ミコトが即答する。
「はい。今のは理想形です」
しずくは頷くだけ。
でも、胸の奥が少しだけ誇らしい。
ドロップが落ちる。
魔石。素材。いつもの。
そして。
《ローグライクドロップ:カニ缶 ×3》
カニの缶詰。食べると一定時間、防御アップ(中)。
「カニ…?」
しずくが小声で呟く。
ほのかが耐えきれず吹き出した。
「ちょ、カニwなんでw」
ミコトが真顔で言う。
「食料系バフアイテムは合理的です。…でもカニは予想外です」
コメント欄が即、祭りになる。
『カニwwwwwww』
『ローグライクさん、急に現実寄りw』
『防御中って普通に強いの草』
『盾しずくに食わせろw』
『ミコトの真顔が想像できるw』
『カニ缶でゴブリン巣穴攻略は草』
ほのかがニヤニヤしながらカニ缶を掲げた。
「ねぇしずく、これ食べたら“カニしずく”になるの?」
「…ならない…」
即ツッコミできた。
しずく、自分でも少し驚く。
「巣穴攻略前に食べるのは有効です」
「ただし、奥の増援が来る前に食べる時間は取りにくい。撤退ライン確保してからにしましょう」
ほのかが頷く。
「了解、参謀」
しずくは広場の奥、通路を見た。
静かだけど、静かすぎる。
(奥、いる)
ほのかも同じ方向を見る。
「来るね。奥、動いた」
「次。通路で迎撃して詰まりを作りましょう。広場に留まらない」
しずくが銀縁バックラーを上げる。
「うん…」
カニ缶は一旦、ポーチへ。
宝箱へ行くには、まだ先がある。
でも、入口の制圧は成功。
通路の奥は暗い。
広場の匂いより、湿っていて、土と獣の匂いが濃い。
三人は走らない。
足音を殺して進む。
「角で待ち伏せの可能性が高いです」
「しずくさん先頭、私は中央、神宮さん後ろで」
しずくはバックラーを上げ、剣を握り直す。
戦士型の身体が、静かに熱を溜めている。
(角が怖い)
角の怖さは全人類共通。
通路の終わりが見える。
右に曲がる影。
しずくは一歩ずつ、距離を詰める。
あと3歩。
あと2歩。
ほのかの気配察知がピクリと反応する。
「今、動いた!」
言い終わる前に。
角から、影が飛び出した。
「ギャッ!!」
ゴブリン2匹。
一体は短剣。もう一体は棍棒。
狙いは、先頭のしずく。
しずくは反射で盾を置く。
体が勝手に動く。
棍棒が振り下ろされる。
衝撃が腕に走るが、戦士型の耐久が支える。
受けない。流す。
バックラーの縁で角度をずらす。
棍棒が空を切った瞬間、短剣が喉元を狙う。
銀縁が短剣を弾く。
《パリィ:成功》
短剣ゴブリンが体勢を崩した、その瞬間。
ミコトの声が通る。
「ホーリーロープ!」
光の紐が伸びて、短剣ゴブリンの腕に絡みつく。
動きが止まる。もがく。
ほのかが後ろから、もう弓を引いている。
≪ダブルショット≫
縛られたゴブリンの胸に二本。
残りの棍棒持ちが怒りの形相を見せた。
しずくが一歩前に出る。
出すぎない。押し込む。
盾で押して距離を潰し、剣の柄で鼻先を撃つ。
棍棒が振れない距離を作る。
ゴブリン後ずさった瞬間、剣を横に凪ぐ、そのままスライド。
空いた射線に、ほのかが矢を放つ。
喉元に矢が突き刺さる。
何かを叫ぼうとしたが、声はでない。
こちらをひと睨みにして、ゴブリンは崩れた。
しずくは角の向こうを見ないまま、息を吐く。
「今の…囮?」
ほのかが気配察知に集中して、顔が青くなる。
「うん。奥、まだいる。今ので、動きが増えた」
「慎重に進みましょう、待ち伏せも考慮します」
釣って、削って、また釣って。
同じ手順を繰り返して、ゴブリンの数が目に見えて減っていく。
通路はもう、さっきほどの圧がない。
ドロップ確認。
魔石。素材。通常だけ。
ほのかが肩をすくめる。
「さすがに、カニ缶ないか」
『通常ドロップだけか』
『まあ安全が一番よ』
『ダンジョン産のカニか』
そして、奥。
ほのかが気配察知に集中する。
「奥の部屋、気配薄い。いるにはいるけど、数は少ない。さっきより全然」
ミコトが即、釘を刺す。
「隠れている可能性があります」
ほのかが一拍置いて、目を見開く。
「あ、角待ちみたいな?」
しずくは盾を上げて、ゆっくり息を吸う。
(静かな部屋は、怖い)
扉のない部屋の入口に立つ。
しずくが先頭。
バックラーを前に出し、剣は低く構える。
戦士型の重心が、床に吸い付く。
ミコトが小声で言う。
「入ったら三歩で止まって、確認します。ほのかさんは射線確保。私は」
その瞬間。
部屋に踏み込んだ、一歩目。
影が落ちた。
天井。
張り付いていた何かが、音もなく剥がれて落ちる。
「ギャッ!!」
ゴブリンが天井に張り付いていた。
しかも狙いが悪い。
前衛のしずくじゃない。
ほのかとミコト、後ろの二人に向かって跳びかかった。
『うわ天井だ!!』
『天井ゴブリンいるのかよ!?』
『後衛狙いは終わる!!』
ほのかが反射で横に跳ぶ。
「っ!!」
髪が揺れて、弓を抱えたまま体勢を崩さない。
運動神経、化け物。
でもミコトは避けが遅い。
小柄で、足が短い。
杖を握ったまま固まる。
ゴブリンの短剣が、ミコトの胸元へ——
しずくの視界が、一瞬赤くなった。
(やらせない)
しずくは、叫んだ。
「ミコト!!」
コミュ障の声じゃない。戦闘の声。
しずくが踏み込む。脚が鋭くが床を蹴る。
銀盾を置くんじゃない。体ごとぶつける。
ゴブリンの体躯は子供並み、女子高生の本気の体当たりで浮く。
短剣の軌道がずれる。
切っ先がミコトのローブ襟を掠めるだけで済んだ。
ミコトが息を吸い直して、すぐに詠唱する。
「ホーリーロープ!」
光の紐が、浮いたゴブリンの足に絡む。
動きが止まる。空中でバランスを失い墜ちる。
ほのかが立て直した瞬間、もう弓を引いていた。
≪ダブルショット≫
二本の矢が、縛られたゴブリンの胸を貫いた。
一体目、処理。
天井から、もう一つ影。
「ギャギャッ!」
二体目が、今度はほのかへ。
距離が近い。弓を引けない間合い。
ほのかが腰のホルダーに手を伸ばす。
踊り子の双剣、出さない予定だった切り札を、必要だから出す。
風が走る。落下してくるゴブリンを二つの刃が切り刻む。
部屋に、静けさが戻る。
ミコトが胸に手を当てて、はっきり言った。
「天井。盲点でした。次から確認します」
ほのかが苦笑い。
しずくは、まだ盾を上げたまま天井を睨む。
「まだ…いる?」
ほのかが気配察知に集中する。
顔が少し硬い。
「薄い。けど、いる」
「今のは番兵っぽい。奥に本命がいるかも」
コメント欄が盛り上がる。
『天井ゴブリン反則w』
『盾しずく反応速すぎ!』
『ミコトロープ神』
『ほのかの切り替ええぐい』
『ここから宝箱か!?』
三人は、改めて部屋の中に視線を走らせた。
静かな部屋は、だいたい罠。
それでも今の連携なら、罠でも踏み抜ける
続きが気になる方は、ブクマお願いします!
また、少しでも面白いと感じた方は評価お願いします!




