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第25話 ランチタイムは静かな場所で

翌日、学校。


スマホを開いた瞬間に、心臓が跳ねた。


【2層 撤退戦】盾しずく殿!捨て奸発動!ギャル弓の射線が神すぎた【救助】

【阿鼻叫喚】ゴブリン増援→撤退→最後の押し返しが映画


切り抜き。もう出てる。

早い。怖い。すごい。


コメントも流れている。


「殿、かっこよすぎ」

「ギャル弓が惚れる」

「ヒーラー守ったの熱い」

「これどこの学校の子?」


(最後のやつ、やめて)


しずくは、そっとスマホを閉じた。


教室に入る。

いつも通りの空気。

いつも通りのざわめき。


なのに、自分だけ別世界にいるみたいで、足が少し重い。


その時。


視線の先で、金髪のサイドポニーが揺れた。


ほのかが、いつも通りの顔で、いつも通りの距離で。


「おはよう、しずく」


それだけ。


それだけで、しずくの肩の力がふっと抜けた。


(あ、日常だ)


しずくは言葉が出なくて、でも今日は、会釈だけじゃ終わらせない。


小さく、息を吸って。


「おはよ…」


ほのかが、にっと笑った。


「言えた。えらい」


「…えらい…言うな…」


しずくの小声のツッコミに、ほのかが笑う。


教室が少しだけざわめく。


“また挨拶してる”

“空気の子と神宮さん”

“え、仲いいの?”


しずくは耳が熱くなる。

でも、ほのかの「おはよう」が、盾みたいに前にある。



昼休み。


しずくは、心臓がうるさかった。


(友達と…昼ごはん…)

(なにそれ…イベント?)


ほのかと一緒に歩いているだけで、すでに変な感じがする。


そこへ、白いローブじゃない制服姿のミコトが現れた。

小柄で、相変わらず小学生に見えるけど、目がしっかりしている。


「お二人ともこちらです」


「よければ、図書準備室でお昼を食べませんか?」


しずくが固まる。


(図書準備室)

(静か、人いない)


ほのかが即答した。


「行く行く!ミコト天才!」


ミコトは少しだけ照れた。


「私、図書委員なんです。なので準備室が使えるんです。先生にも許可を取ってありますよ」


(優等生…!)


三人は校舎の端へ。

図書室の奥、普段はあまり人が来ない小さな扉。


鍵を開けて入ると、そこは紙の匂いがする小部屋だった。


段ボール。新刊の束。ラベル。

古い机と椅子が三つ。


ミコトが小さく言う。


「ここ、落ち着くんです。静かで」


しずくは頷いた。


「うん…」


(落ち着く)

(生きていける)


ほのかが椅子に座って、お弁当を置く。


「うわ、秘密基地じゃん」


ミコトも座って、丁寧に弁当袋を開く。


しずくは、座っただけで嬉しかった。


(友達と、同じ机)

(友達と、昼ごはん)

(人生で初)


しずくはちょっとだけ、泣きそうになった。


「ねぇ、昨日の切り抜き見た?」


「み、見た…」


ミコトが申し訳なさそうに言う。


「私の悲鳴も入ってました。少し恥ずかしいです…」


ほのかが箸を振る。


「恥ずかしくない!あれはガチで生死!」


「てかミコト、昨日から今日の切り替え早すぎ。優等生のメンタル強い」


「…反省して、次に活かします」


ほのかが笑う。


「授業みたいw」


しずくが小さく言う。


「…でも…助かった」


ミコトが、少しだけ嬉しそうに笑った。


しずくは弁当を開く。

手が少し震えるけど、箸は持てる。


三人で、同じタイミングで「いただきます」を言った。


ミコトは丁寧。

ほのかは元気。

しずくは静か。


でも、同じ空間で、同じ時間。


しずくの胸が、じんわり温かくなる。


(うれしい)


昨日は死にかけたのに、今日はこんなに平和だ。


平和が、うれしい。


これは確かに青春だった。



図書準備室は静かだった。

三人がお弁当を食べ終えたタイミング。

ミコトが箸を置いて、背筋を伸ばした。


「お二人に、提案があります」


ミコトは真面目な顔で、でも押し付けがましくない声で言った。


「よければ、佐倉さんも、神宮さんも、図書委員に入りませんか?」


「図書委員?」


ほのかが目を瞬く。


ミコトは頷く。


「はい。ここ…準備室で、ダンジョンの事とか、いろいろ相談できますし」


しずくの心臓が跳ねた。


(相談できる場所)

(静か)

(人少ない)

(神の提案)


ミコトが少しだけ笑って、声を落とす。


「それに…」


しずくとほのかが同時に顔を上げる。


ミコトの目がきらっとした。


「お茶とお菓子も、ありますよ☆」


そう言って、すぐ後ろの棚から…。


上等なティーセット。

艶のあるカップとソーサー。

そして、かわいい袋に入ったクッキーを、さりげなく見せた。


ほのかが一拍置いて叫ぶ。


「え、何それ!?ここ貴族の部屋!?」


しずくは言葉が出ない。

カップが、上品すぎる。

この準備室、そんなポテンシャルあったのか。


ミコトは照れたように頬を赤くして言った。


「…クッキーは、手作りです」


ほのかが身を乗り出す。


「手作り!?え、ミコト、女子力高くない?」


ミコトは当たり前みたいに頷く。


「料理は…好きです。お菓子もよく作ります。得意です」


“得意です”が、謙遜じゃない言い方だった。

本当に上手い人の言い方。


しずくは内心で(勝てない…)って思った。

コミュ障だが、クッキーには弱い。


ミコトが話を戻す。


「図書委員になると、昼休みにここを使いやすくなります」


「それに…変な噂が立っても、“図書委員で集まってた”って説明がつきます」


ほのかが目を丸くする。


「え、そこまで考えてるの?策士?」


ミコトはきっぱり言った。


「はい。昨日の件で学びました。安全な場所と理由は必要です」


しずくの胸がじんわり温かくなる。


(ミコト、優等生だけど、ちゃんと私たちのこと考えてる)


ほのかがしずくを見る。


「しずく、どうする?」


しずくは喉が詰まりかけた。

でも、準備室。お茶。クッキー。相談。

全部が助かる。


しずくは小さく頷いた。


「…入りたい…かも…」


ほのかがにっと笑う。


「うちもいいよ。てかクッキーで釣られたでしょ、しずく」


「…釣られてない…」


釣られている。


ミコトが嬉しそうに微笑んだ。


「よかった。では、先生に私から話します。手続きは簡単です」


ほのかが手を上げる。


「はい委員長!」


ミコトがきょとんとする。


「委員長ではありません…」


「いや委員長だよ、ここまで段取り完璧だもん」


しずくが小声で言う。


「…委員長」


ミコトが小さく咳払いして、ティーセットを開き始める。


「では。まず、お茶を淹れますね」


ポットから湯気が立つ。

クッキーの袋が開く。

甘い匂いがふわっと広がる。


ほのかが感動した声を出した。


「ねぇ、ここほんとに学校?」


しずくは、湯気の向こうで笑った。ほんの少しだけ。


(友達)

(静かな部屋)

(お茶とクッキー)

(作戦会議ができる)


上等な紅茶の香り。

ミコトの手作りクッキー、ガチでうまい。ほのかが秒で3枚消した。


「これ、店の味じゃん」


「家庭の味です」


「家庭強すぎ」


しずくは黙って二枚目に手を伸ばした。


そして、クッキーが落ち着いたところで。

ミコトがノートを開き、ペンを持つ。


「では。今後の方針と、ローグライクの情報共有をお願いします」


「私はまだ知らないことが多いので、整理しておきたいです」


ミコト、優等生モード。


ほのかが姿勢を正す。


「よし、真面目タイム」


しずくは息を吸って、できるだけ順序立てて話す。


しずくの青春、ちゃんと色がついてきた。


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