第24話 3人パーティー!
受付カウンターの空気が、冷えた。
さっきまでの「おつかれさま~」みたいな柔らかい雰囲気が消える。
受付嬢の目が、完全に現場の目になる。
「白澤さん。落ち着いて、時系列で話して」
「いつ、どこで、誰に、どう誘われた?」
「言われた言葉も覚えてるならそのまま」
ミコトは一度息を吸い、優等生の声で淡々と答える。
「はい。協会ロビーで声をかけられました」
「『初心者なら連れてってあげる』と。パーティ申請を急かされ、断れませんでした」
受付嬢がペ端末を叩く。
速い。迷いがない。
「相手の特徴は?」
ミコトが答える。
「二人組。大学生くらい。髪を立てて、軽装で…片方はピアス。名前は…本名は分かりません。配信名みたいなのを名乗ってました」
「分かった。ログと照合する」
受付嬢はしずくとほのかも一瞥した。
「あなた達は、現場を見たのよね。“置き去りにされた状態”を確認して、救助した。合ってる?」
ほのかがきっぱり言う。
「はい。二人が全力疾走でこっちに走ってきて、私たちを一瞬見て、そのまま逃げました」
「直後に悲鳴がして、ミコトがゴブリンに囲まれてました」
しずくも、小さく頷く。
「見た…」
その瞬間、受付嬢が小さく息を吐いた。
「重大案件です」
声が低い。
怒りというより、冷たい判断。
「探索者協会の規定で、パーティ行動中の故意の置き去りは重大な規則違反」
「それだけじゃない。未成年を強引に誘って危険区域に連れて行き、置き去りにして危険に晒した。状況によっては…」
受付嬢の目が細くなる。
「刑事事件の可能性が高い」
ミコトの顔色が変わる。
でも、背筋は崩れない。
しずくの心臓が跳ねる。
刑事事件。
ネットの世界じゃなく、現実の言葉。
ほのかが唇を噛む。
「やっぱり」
受付嬢はすぐに続けた。
「ここから先、協会の安全管理担当と警備を呼ぶ」
「あなた達は証言者。私は記録係。いい?」
三人が頷く。
その時、ロビーの入口から、騒がしい声。
「ちょ、待てよ!」
チャラい男二人が、カウンターへズカズカ歩いてくる。
片方が机を叩きそうな勢いで叫ぶ。
「俺は悪くねぇ!あいつが勝手について来ただけだろ!?」
もう片方も声を荒げる。
「こっちは助けようとした!でも無理だったんだよ!死ぬとこだったんだぞ!」
空気が一気に凍る。
ミコトが、びくっとした。
しずくの手が無意識に握られる。
ほのかが一歩前に出そうになる。
受付嬢が先に出た。
立ち上がらない。
声も荒げない。
ただ、視線が氷みたいに冷たい。
「あなた達、今すぐ声を落として。ここは公共の窓口。威圧行為は規定違反。続けるなら警備を呼ぶ」
男が言い返す。
「はぁ?俺らが被害者だろ!?」
「被害者かどうかは、ログと証言と規定で決まる。あなたの感情では決まらない」
ほのかが横で、小さく息を吐いた。
(強い、受付さん強い)
受付嬢は男たちに視線を固定したまま、さらに続ける。
「パーティ登録の履歴、入退場ログ、位置情報ログ、通報の有無。全部残ってる」
「それを確認するまで、あなた達の弁明は、今は聞かない」
男が叫ぶ。
「置いてってねぇ!勝手に遅れただけだろ!」
ミコトが震えた。
でも、ここで本来のミコトが戻ってくる。
ミコトが一歩前に出て、はっきり言った。
「違います」
声が通った。
ロビーのざわめきが、少し止まる。
「私は“早く”と言われました。追いつけないと分かった瞬間、あなた達は振り返りもせず走りました」
「私は囲まれて、死にかけました。助けてくれたのは、佐倉さんと神宮さんです」
受付嬢が、決定打を打つ。
「はい、今ので十分。あなた達は別室へ」
「警備。窓口に規定違反の当事者が来ています。別室誘導お願いします」
男たちの顔が青くなる。
「お、おい…マジかよ…」
「俺ら悪くねぇって!」
受付嬢は一切ぶれない。
「あなた達が悪いかどうかは、今ここで叫んでも変わらない。別室へ」
ほのかはしずくの袖を軽く引いた。
「大丈夫。ここは大人に任せる」
しずくは小さく頷いた。
(守られる)
(でも、ミコトが言えた)
(強い)
ミコトは震えながらも、顔を上げていた。
心の芯が戻ってきた目。
受付嬢が三人にだけ小声で言う。
「よく報告してくれた。これ、放置したら次が出る。その前に潰す」
しずくの喉が鳴る。
怖い。でも、正しい。
別室へ連れて行かれる男二人の背中が、ロビーの奥へ消えていく。
警備員の足音が遠ざかる。
張りつめていた空気が、少しだけ緩んだ。
「とりあえず、今日はここまで」
「白澤さん、保護者に連絡はできる?協会からも状況報告を入れる。未成年案件だからね」
ミコトは背筋を伸ばして頷く。
「はい。家に連絡します」
ほのかが小さく息を吐く。
「よかった…」
しずくも、やっと肩の力が抜けた。
戦闘より疲れるやつだった。
ミコトが二人に向き直って、深く頭を下げる。
「改めて。本当にありがとうございました」
さっきまでの動転が嘘みたいに、言葉がきれいに並ぶ。
まっすぐな、透き通った声。
「私、あの場で…多分、助からなかったです」
「置いていかれた瞬間、頭が真っ白で」
「でも、お二人が来てくれて…撤退戦の判断も、殿も、全部」
ミコトは言葉を区切って、もう一度頭を下げた。
ほのかが照れくさそうに手を振る。
「いやいや!困ってる子置いてけないし。うちらも撤退戦の練習になったし?」
しずくが小さく言う。
「…うん…生きて帰れた」
ミコトは顔を上げて、少し迷ってから、でも覚悟を決めた目になった。
「だから、お願いがあります」
しずくの心臓が跳ねる。
お願い、って言葉に弱い。
「私を、パーティーに加えてくれませんか?」
一瞬、空気が止まる。
ほのかが目を丸くする。
「え、いいの?ミコト、うちらで?」
ミコトははっきり頷く。
「はい。今日みたいなことは、もう二度と嫌です。一人で潜るのも、知らない人と組むのも…怖い」
「でも、ダンジョンから逃げたいわけじゃありません」
白いローブの袖を握る手が、少しだけ震える。
ミコトは言葉を飲み込んで、最後だけ少し弱い声になる。
「お二人なら、信頼できます」
ほのかが、しずくを見る。
どうする?の目。
しずくは喉が固まる。
パーティー。仲間。友達。
嬉しい。怖い。責任。色んなのが一気に来る。
でも、今日学んだ。
答えから逃げない。
しずくは一拍置いて、言った。
「ミコト…一緒に…潜りたい」
声は小さい。
でも、それは“YES”だった。
ミコトの目が、ぱっと明るくなる。
「本当ですか?」
ほのかが、にっと笑って肩をすくめる。
「うちも賛成」
「前衛+後衛+ヒーラー(ミコト)って、普通に最強編成じゃん」
しずくが小声で補足する。
「…撤退戦も…強い」
ミコトが嬉しそうに頷く。
ほのかが指を立てる。
「じゃ、条件」
1つ目:危ないときは即撤退。
2つ目:個人情報は守る。
3つ目:嫌なことは嫌って言う。無理しない。
ミコトははっきり答えた。
「はい。守ります」
しずくも、頷く。
「うん…」
ほのかが受付嬢の方を見て言う。
「受付さん、パーティ登録、できますか?三人で」
受付嬢は少しだけ笑った。
「できる。いいわね、まともな子達で組めて」
ほのかが苦笑い。
ミコトが小さく笑って、しずくを見る。
「佐倉さん。学校で会ったら、声かけていいですか?」
しずくの心臓が跳ねる。
でも、今日は言える。
「…うん…大丈夫」
しずくの世界が、少しずつ広がっていく。
ほのか、ミコト。
しずくが守りたいものが、また増えた。
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