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第23話 白澤ミコトは同級生

ロビーの空気は、現実の匂いがした。


でも、しずくの体はまだダンジョンにいるみたいに熱い。

腕が痺れて、脇腹がじくじくする。


ミコトがふらふら立ち上がって、杖を握り直した。


「し、しずくさん…傷…」


しずくは反射で首を振りかけて、でも途中で止めた。


(今は遠慮しない)

(次に備える)


「お願い…」


ミコトが涙を拭いて、詠唱する。


≪ハイヒール≫


淡い光がしずくを包む。

熱が引いて、痛みがほどけていく。

血の匂いが薄れる。


しずくが小さく息を吐いた。


「ありがとう…」


ミコトは顔を赤くして、必死に首を振った。


「こっちこそ…ありがとう…ございます」


その横で、ほのかは腕を組んで、ずっと眉間に皺を寄せていた。

怒りがまだ消えてない顔。


ほのかがミコトに、できるだけ優しい声で聞いた。


「ねぇ、ミコト。さっき逃げてった男二人。…あれ、誰?」


ミコトの肩がびくっと跳ねた。

視線が落ちて、杖を握る手が震える。


「…たぶん…大学生の…二人組」


「知り合い?」


ミコトは小さく首を横に振った。


「…協会で…声かけられて…“初心者なら連れてってあげるよ”って」


ほのかの目が細くなる。


「強引に?」


ミコトが、ちいさく頷いた。


「強引に…誘われて…わたし…断れなくて…」


しずくの胸がぎゅっとなる。


(断れない)

(わかる…それ、わかる…)


ほのかが、唇を噛んだ。


「最初は順調だった?」


ミコトは思い出すみたいに、ゆっくり話す。


「…最初はほんとに…1層は…ラットだけで…二人が前で戦って…わたしは回復して…」


「1層ボスは?」


「倒せました…ワーラット…二人とも、ちょっと自慢してた…“俺ら才能あるわ”って…」


ほのかが鼻で笑いそうになって、こらえた。


「で、2層」


ミコトの声が、少し震える。


「2層に入って…ゴブリンが…思ったより…頭良くて…」

「石を投げてきて…後ろから回ってきて…」


ミコトは自分の腕を抱く。


「…最初は…1、2体ずつで…なんとか…でも…巣の近く…通った時」


息を吸う音が小さく震えた。


「…いっぱい…出てきて…急に…増えて…」

「二人が…“やばいやばい”って…わたしのこと…置いて…走って」


しずくの手が、無意識に握られる。

盾を握るみたいに。


ほのかが低い声になった。


「置いてったんだ」


ミコトは涙をこぼしながら頷く。


ほのかが一歩近づいて、しゃがんで目線を合わせた。


「ミコト。悪いのはミコトじゃない。断れないのも、遅いのも、関係ない。置いてくやつが悪い」


ミコトが泣きながら、何度も頷く。


しずくも、小さく言った。


「ひどい…」


ほのかが立ち上がって、深く息を吐いた。


「あいつら、協会に報告しよ。“初心者狩り”か、ただのクズか、どっちでも危険」


ミコトが顔を上げる。


「ほ、報告…して…いいんですか…?」


ほのかは即答。


「いい。てか、する。しずくも一緒に言える?無理ならうちが言う」


しずくは一拍置いて、頷いた。


「言う…」


コミュ障だが。

守られたぶん、守る側にもなる。


ミコトは目を擦って、小さく言った。


「…わたし…もう…潜るの…怖い…」


ほのかが少しだけ笑った。


「怖くていい。怖いまま、ルール作って潜ればいい」

「で、ミコト。もしよかったらさ」


ほのかがしずくをちらっと見る。

しずくが前髪の奥で固まる。


「次から、ソロで入るのやめよ。うちとしずくと、三人で安全第一でやろ」


しずくの心臓が跳ねる。


(友達…増える?)


しずくはちょろい。

でも今日は、すぐに答えない。学んだ。


一拍置いて、ゆっくり頷いた。


「ミコト…嫌じゃなければ」


ミコトは涙目のまま、でも少しだけ笑った。


ロビーの喧騒の中で、小さなパーティが一つ増えた。


そして、ほのかの目はまだ怒っていた。


(あの二人、逃げ得にさせない)



ロビーの隅。

ベンチに座って、ミコトがもう一度深呼吸する。


さっきまでの震えが、少しずつ引いていく。

涙も止まって、背筋が戻ってきた。


“気が動転してただけ”。


本来の彼女は、優等生タイプ。

はっきり喋れる子だ。


ミコトは膝の上で手を整えて、二人に向き直った。


「助けていただき、ありがとうございます。落ち着きました」


声が、さっきと違う。

通る。芯がある。


ほのかが目を丸くする。


「え、ミコト、急に声強くなった」


ミコトは少しだけ頬を赤くして、でもきちんと頭を下げた。


「改めまして。自己紹介します」


彼女はフードを直す。

小学生みたいな顔立ち。

でも、その動きは落ち着いた高校生のそれだ。


「白澤ミコト。高校一年生です」


しずくが固まる。


「え…」


ミコトが、困ったように笑う。


「…よく言われます。小学生に見えるって」


ほのかが吹き出しそうになって、口を押さえた。


「ごめん、言いそうだった」


ミコトは続けた。


「実は、クラスは違いますが…お二人と同じ学校です」

「それと、家は神社で…修行の一環としてダンジョンに入っています」


しずくの目が前髪の奥で丸くなる。


(同じ学校…)


ミコトは端末を2人に見せつつ、淡々と説明する。


「職業はヒーラー、レベル2」

「固有スキルは魔力調律レベル1。魔力の扱いが繊細で、消費MPが軽減されます」


ほのかがうなずく。


「燃費いいタイプ。いいね」


「ヒーラーとしてのスキルです」


・ヒール:単体回復(小)、短い詠唱。

・ハイヒール:単体回復(中)、長い詠唱。

・ホーリーロープ:聖なる光の紐が敵を縛る。行動阻害(中)。※ボスには効果薄


ほのかが目を輝かせる。


「ホーリーロープ、撤退戦にめっちゃ刺さるじゃん。止められる」


ミコトは頷いた。


「本来は、そういう運用が理想です」

「今回は動転してしまって…反省しています」


しずくが小さく首を振る。


「…反省、いらない…」


ミコトが一瞬、驚いて少し笑う。


「ありがとうございます」


ほのかが、親指で自分を指す。


「じゃ、うちも。神宮ほのか。高校一年。アーチャー、レベル4」

「固有は鷹の目、アーチャー欲張りセットみたいなの」


「レベル4…」


ミコトが目を丸くした。

そして一拍置いて、納得したみたいに頷く。


「確かに、動きが…」


ほのかが胸を張る。


「えへへ」


しずくの番。


しずくは、喉が詰まりかけた。

自己紹介は、戦闘より難しい。


でも、二人が待ってる。


しずくは小さく息を吸って言った。


「…佐倉…しずく…高校一年…放浪者…レベル4」


ミコトが目を見開く。


「放浪者…ユニーク職」


しずくは頷く。


「固有…ローグライク…なんか気まぐれなスキル」


ほのかが横から補足する。


「盾しずく。パリィ職人。普段は喋れない」


「補足、しないで…」


しずくのツッコミが小さく出て、ミコトがくすっと笑った。


(ミコト、笑った)

(よかった)


しずくはちょろい。


自己紹介が終わったところで、ほのかの目がまた鋭くなる。


「で。あのチャラ男二人」


ミコトの肩が少しだけ縮む。

でも、もう卑屈じゃない。ちゃんと頷いた。


「はい。報告、した方がいいと思います」


ほのかが立ち上がる。


「よし。協会に言おう。二人とも一緒に来て。無理ならうちが言う」


しずくは小さく頷いた。


「…行く…」


「はい。事実を話します」


三人は受付カウンターへ向かう。


受付嬢が、こちらに気づいて眉を上げた。


ほのかが一歩前に出る。


「受付さん。報告」

「2層で、初心者のヒーラーを置き去りにして逃げた二人組がいます」


受付嬢の表情が、すっと冷たくなる。


「名前、特徴、分かる範囲で。ここで聞く」


ミコトが一歩前に出て、背筋を伸ばした。


「白澤ミコトです。被害者として、状況を説明します」


しずくはその横で、盾を持つ時みたいに静かに立った。

言葉は少なくても、そこにいるだけで“証人”になる。

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