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第22話 一人じゃない

ゲートが見える。


見えるのに遠い。


壁の角を曲がって、直線になった。

直線は走りやすい。

だが直線は、撃たれやすい。


矢が飛ぶ、石が飛ぶ、大波が迫る。


銀盾が鳴る。いつもと違う、嫌な音。


弾く。流す。受ける。


でも、数が多い。

角度が悪い。


銀盾をすり抜けた石が、額を割る。

矢が右腕を抉る。

血が目に入る、痛みで短剣を落としそうになる。


「…っ!」


大振りの棍棒が迫る。


流す隙がない、受けるしかない。


左腕が痺れる、衝撃で体が後ろに飛ぶ。苦しいが有り難い。


下がったところへ、粗末な槍が突き出される。


狙いは足、盾が間に合わない。


左足を上げ、ブーツの厚底で受ける。


そのまま体重を掛け、地面を踏む。折れた穂先を潰す。


顔を上げ、目の前の大波を睨む。

絶対に負けない意志を示す。


(お、落ち着け…)

(ここで自棄になったら…みんな終わる…)


ミコトの必死な詠唱が耳に届く。


「…ひ、ヒール…ヒール…!」


光は出る。

でも回復量より、HPの減りが早い。


ほのかが後ろで叫ぶ。


「しずく!無理しないでって言ったのに!…くそ、数が!」


無理しないと、死ぬ。

でも無理すると、死ぬ。


撤退戦のいちばん嫌なやつ。


視界が、血で少し狭くなる。

鼓動が耳に響く。指先が冷たい。


(やばい)


その瞬間。


視界に、見慣れた無情なウィンドウが割り込んだ。


いや、今日は無情じゃない。


《ローグライクアナウンス》

撤退戦の条件を達成。


《放浪者 固有スキル取得:捨て奸》

撤退戦時、攻撃・防御・スタミナに補正(大)

HP自動回復(中)


「…捨て…がまり…?」


言葉が、喉から転がり出た。


捨て奸。

祖父が昔、酒の席でぽつりと言った言葉。


“退くために、死ぬ覚悟で前に出る役目”


でも…。


今の私は、死ぬためじゃない。生きて帰るために、それを使う。


体の奥が、熱くなる。


血が止まる、痛みが薄れる。足が軽くなる。


息が、通る。


盾が、腕に吸い付く。


(来た、これが…捨て奸)


視聴者が叫ぶ。コメントが滝になる。


『捨て奸きたああああああ!!』

『撤退戦スキル!?熱すぎ!!』

『ローグライク神かよ!!』

『殿専用スキルだろこれwww』

『しずくのためにあるスキル!!』

『生きて帰れえええええ!!』


ほのかが一瞬、目を見開く。


「…スキル来た?」


しずくは頷いて、息を吸う。


「…うん…撤退戦…強くなる…!」


ミコトが涙目で言う。


「…すごい…!」


すごいのは、スキルだけじゃない。

怖くなくなっている。恐怖が薄れている。


ガンギマリ。冷静。

コミュ障のくそ雑魚なめくじは、一旦しまう。


しずくは盾を前に出した。


「ここで、一回、止める!」


自分でも驚くほど声が通った。


ゴブリン達が突っ込んでくる。

数が、圧が、押し潰しにくる。


でも、盾が沈まない。


棍棒を受けても、腕が折れない。

足が踏ん張れる。スタミナが残る。


短剣が来る、矢が来る、石が来る。


しずくは受けるじゃない、返す。


銀縁のバックラーが、刃の中心を捉える。


《パリィ:成功》


矢を短剣で弾く、顔を僅かにずらす。


相手の体勢が崩れた瞬間、ほのかが叫ぶ。


《ダンシングソード》


「今!!」


風を纏った双剣が一直線に飛ぶ、衝撃波が広がり、波が割れる。


ほのかは即弓を構える。


《ダブルショット》


二本の矢が風に乗り、奥にいた大柄なゴブリンの額を貫いた。

波が揺れる、振り返る、一瞬だけ引く。


しずくが叫ぶ。


「…下がる!下がる!!」


ゲートが、近づく。


ミコトが必死にヒールを飛ばす。


「ヒール…っ!」


光が間に合う。

補正で耐える時間が増えたから。


ほのかが、笑うように歯を見せた。


「しずく、今めっちゃ“武人”じゃん!」


しずくは前髪の奥で、ほんの少しだけ笑った。


(おじいちゃんゆずり)


武人の血。

そして、ローグライクがくれた“殿の牙”。


ゲートまで、あと少し。


あと少しで生還。


ゲートが、目の前に来た。


白い光の膜。


あと数メートル。


でも、そこで一番危ない。


ゴブリン達も分かっている。

逃がしたら終わり。

だから最後だけは、全部を投げてくる。


甲高い叫びが重なる。


「ギャギャギャギャッ!!」


しずくの捨て奸が、体の芯を燃やしていた。

頭の中が驚くほどクリアだ。

残っているのは、判断だけ。


(最後)


しずくは盾で押す。


銀縁を前に突き出し、踏み込む。


「っ!」


突っ込んできたゴブリンの顔面に、盾を押し付ける。


体ごと押し返す。


一体じゃない。前の二体ごと。


捨て奸の補正が、踏み込みを支える。

スタミナが切れない。


押し返されたゴブリンたちがよろけて、一直線に、ほのかの射線に乗った。


「ほのか!」


しずくの声が、短く響く。合図。


ほのかはもう引いていた。


コンパウンドの滑車が回り、弦が鳴る。


「ダブルショット!!」


二本の矢が、押し返されたゴブリンの喉と胸に刺さる。

一体が崩れ、もう一体も倒れる。


ほのかが叫ぶ。


「今!飛び込む!!」


ミコトが泣きそうな声で頷く。


「…うんっ!」


しずくは盾を最後に一度だけ上げて、背中に来た投石を弾く。

置き土産とばかりに、短剣を投擲した。


痛みが腕を走る。

でも、止まらない。


三人は、同時に走った。


ゲートへ。


光が視界を飲み込む。


足が床を蹴る感覚だけを頼りに、飛び込む。


白。


そして、次の瞬間。


冷たい空調の風。石の床。

協会ロビーの音。現実の匂い。


「…っ、はぁ…っ」


生還。


しずくが膝に手をついて呼吸する。

ほのかも弓を下ろし、肩で息をした。


ミコトはその場にへたり込んで、泣いた。


「…こわかった…ありがとう…ありがとう…」


しずくはまだ息が整わなくて、でも小さく言えた。


「…帰って…これた…」


ほのかが笑う。お日様の笑顔。


「帰ってこれた。これが勝ち」


コメント欄は、歓声と安堵で埋まる。


『生還!!!!!』

『撤退戦、勝った!!』

『殿しずく神!!』

『ほのかの射線完璧すぎ!』

『ミコト守り切ったぁぁ!』

『捨て奸、熱すぎるだろ!』

『神回!神回!』

『ゴブリンざまぁぁぁぁぁwww』


しずくは前髪の奥で、ほんの少しだけ笑った。


怖かった、痛かった、でも。


(私、友達を一人にしなかった)

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