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第19話 踊り子の双剣

協会、企業、特定が怖い、認識疎外、ファンタジー装備。

頭の中がずっと忙しかった。


(試したい)


踊り子の双剣。


投げて戻る短剣とか、ロマンが過ぎる。

触らないまま大事にしまうのは、違う気がした。


しずくとほのかは、約束していた。


「土日、2層。ちょっとだけ。様子見」



探索者協会。

受付カウンターの向こうで、受付嬢が二人を見て眉を上げた。


「…来たわね。今日は何層?」


ほのかが胸を張る。


「2層!土日だし、軽く!」


「軽くって言う奴ほど死にかける。2層はゴブリンがメインよ」


「ゴブリンなら、ラットよりは」


ほのかが言いかけたところで、受付嬢が目を細めた。


「ゴブリン、なめたらだめ」

「武器使う、連携する、逃げるフリして呼ぶ。あと、巣みたいなエリアがある。そこで増える」


しずくの喉が鳴った。


(犬より、頭いいやつ…)


受付嬢はしずくの手首、祝福の紋をちらっと見て、声を落とす。


「認識疎外させてるから」


しずくが小さく頷く。


「よし。じゃ、行ってきなさい。帰ってこれる範囲で」


ほのかが敬礼みたいに手を上げた。


「了解っす!」




しずくの視界にいつものウィンドウが浮かぶ。


《職業:放浪者》

《本日の型:斥候型》

《初期装備:短剣/短弓/革鎧》

《補正:AGI↑/STRやや↓》


《斥候固有スキル:軽業》

軽快でアクロバティックな動きに補正が入る。


「軽業…」


しずくが短剣を握った瞬間、体がふわっと軽くなる。

足首、膝、腰。全部の関節の遊びが増えたみたいに、動き出しが速い。


ほのかが隣でにやっと笑う。


「うわ、今日のしずく、絶対強いじゃん。双剣と相性良すぎ」


しずくは頷いて、リュックの中を確認した。


ロック装備、踊り子の双剣。

銀のバックラー。


(盾は背中。今日は避ける)



1層の湿った獣臭じゃない。

煙と、油と、汗の匂い。生活の匂い。


壁に、雑に削られた落書きみたいな記号。折れた矢。骨の飾り。


「住んでる…」


ほのかが声を落とす。


「ゴブリン、いるわ。これ」


軽業が効いて、歩くのが静かだった。

自分の足が忍者みたいに動くのが分かる。


(やば、楽しい)


その時、ほのかの気配察知が反応する。


「来る。左前方、2…いや3」


影が揺れる。


小柄な人型。肌は緑がかった灰色。

ボロ布と革、手には錆びた短剣と棍棒。


ゴブリン。


1体がこちらを見て、笑った。歯が汚い。


「ギャギャ」


次の瞬間、1体が石を投げた。

投げ方が無駄に上手い。狙いが顔。


「っ!」


ほのかが反射で身を引く。

石が頬の横をかすめる。


(こいつら、頭いい…)


しずくは息を吸って、一拍。体が勝手に動いた。


(試す)


踊り子の双剣。


両手に吸い付くように収まる。

軽い。薄い。刃が風を含んでいる。


コメントが沸く。


『2層きた!』

『双剣試運転回!』

『ゴブリンなめるなよ!』

『軽業www 似合いすぎ』


ゴブリンが一体、しずくに突っ込んでくる。

棍棒が下から跳ね上がる。


しずくは、少し腰を落とし、体の位置をずらす。

軽業のおかげか、いつもより滑らかに足が動く。


勢いを殺しきれずに、ゴブリンの体が流れた。



体制を崩したゴブリンの懐に入り、左の刃を振り下ろす。。

風を纏った刃が、右肩にすっと入る。

手首を返すと、風が肉を切り裂きゴブリンの肩が弾けた。

棍棒が、床に乾いた音を立てて落ちる。


だが、もう一体が後ろから回り込もうとする。


しずくは振り向かず、右手の短剣を…投げた。


≪ダンシングソード≫


短剣が風を纏って回転し、弧を描いて飛ぶ。

ただの投擲じゃない。刃が踊る。


ゴブリンの首を裂き、風の刃がぐるっと回る。

そのまま、ねじ切きるように渦を巻いた。

重しを失った体が、ゆっくりと倒れる。


刃はそのまま、再度弧を描いて、しずくの手に戻った。


『投げたぁぁぁぁ!』

『戻ったwwwww』

『完全にファンタジー!!』

『風エフェクトかっけえ』


返す刃で、ひるんだ目の前のゴブリンを×の字に切る。

風が鳴る音がする。


ゴブリンが何か叫ぼうとするが、裂けた首から空気が漏れるだけだった。


残ったゴブリンが、背中を向ける。


「仲間を呼ぶ前に、仕留める」


ほのかの矢が飛ぶ。


《ダブルショット》


2本の矢が、無防備な背中を穿つ。

ゴブリンが前のめりに転がった。


ゴブリン達が光りなって消える。


魔石が小さな音を立てて、床に落ちた。


しずくは肩で息をしていた。

怖い、早い、でも…。


(双剣、強い…)


ほのかが目を輝かせる。


「しずく、今のやばい!投げて戻るやつ、戦術の幅えぐい!」


しずくは頷いた。

言葉は少ないけど、顔はちょっとだけ明るい。


魔石をリュックに回収しようとした時、遠くで甲高い声がする。


ほのかが弓を上げて、囁く。


「しずく。巣が近い」


受付嬢の言葉が蘇る。


巣みたいなエリアがある。そこで増える。


しずくは双剣を握り直して、ほんの少しだけ視線を上げた。


(試したい)

(でも、無理はしない)


土日の目的は、帰ってこれる範囲。


しずくが小さく言った。


「…どうしよう…ほのか」


「行けそうか覗く。やばかったら引く。撤退合図、覚えてる?」


「…下がる、下がる…!」


その声が思ったよりはっきり出て、二人とも少し驚いた。


ほのかがにっと笑う。


「よし。じゃ、巣の入口まで。偵察だけね」


しずくは前髪の奥で、小さく笑った。



油。汗。生臭い臭い。

遠くで金属が擦れる音と、甲高い声が混じって聞こえる。


足音を殺し、ゆっくりと進む。


ほのかが小声で言う。


「ここ、近い。偵察だけいこ…」


その瞬間。


「うおおおおおお!」


大きな声と足音。

チャラい男が二人、全力疾走でこちらに向かってくる。。


髪を立てて、軽装で、顔が青い。武器を持ってるのに、構えてない。


(何…?)


しずくが一瞬だけ固まった。

ほのかが弓を上げる。


男たちは、しずくとほのかを一瞥して、


そのまま、走り去って行く。


「え?」


ほのかの声が素で出る。


男の片方が、こちらに首だけを向けて言った。


「マジ無理!あれ無理だから!!」


もう片方は振り向きもしない。


「巻き込まれんなよ!」


…は?

巻き込まれんなよ、って。


しずくの背中が冷える。


(まさか…)


気づいた瞬間、遠くから——小さな悲鳴。


「…っ!」


悲鳴の方向は、巣の中。

誰かが、ゴブリンの巣穴に取り残されている。


二人が顔を見合わせる。

言葉はいらない。


ほのかが頷く。


しずくも頷いた。

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