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第17話 ほのかのお宅訪問(但しお屋敷)

放課後。

ほのかと並んで歩きながら、しずくはずっと手のひらを握ったり開いたりしていた。


(家に友達を連れてくる)

(人生で初めて)


曲がり角を二つ、住宅街の奥へ入る。

そして、突然“家格”みたいなものが現れた。


大きい。和風。門が立派。石畳。手入れされた庭。

「佐倉」の表札が渋い。


ほのかが、足を止めた。


「しずく、家…これ…実家…?」


声がワントーン下がってる。

びびってる。軽くびびってる。かわいい。


「うん…」


「うそ…お屋敷…?」


「家…」


砂利を踏む音が、やけに大きく聞こえる。

ほのかは背筋を伸ばして、急に礼儀正しいギャルになる。


インターホンを押す前に、玄関の引き戸が音もなく開いた。


出てきたのは。


武人。


いや、ほんとに。


年齢は高いのに、姿勢が真っ直ぐ。肩幅がある。首が太い。

髪は短く整えられ、目が鋭い。

作務衣か道着の上着みたいなのを羽織っていて、腕まくりの前腕が“現役”だった。


「しずく。帰ったか」


低い声。短い言葉。無駄がない。


ほのかが、完全に固まった。


(イメージが違う!)

(もっとこう、優しげで、丸くて、おじいちゃん!って感じを想像してたのに!)

(武人が出てきた!)


「客か」


言わなきゃ。


「と、友達…神宮ほのか…さん」


紹介の声が小さく震えた。

でも、言えた。


ほのかは反射で深くお辞儀した。


「は、はじめまして! 神宮ほのかです! 今日はお邪魔します!」


「佐倉忠義だ。よく来た」


その“よく来た”が、歓迎なのに威圧感もある。

ほのかの脳内に「入隊面接」みたいな文字がよぎる。


忠義の視線が、ほのかの手元に落ちた。

弓の弦を引く指の、薄いタコ。

矢筒の擦れ跡。


「弓手だな」


「えっ」


ほのかの声が裏返った。


「な、なんで…」


忠義は当たり前みたいに言う。


「指でわかる。あと立ち方」


ほのかが心の中で叫ぶ。


(こわっ、プロファイリング能力高っ)

(このおじいちゃん、絶対ただ者じゃない)


しずくが小声で補足する。


「おじいちゃん…元、自衛官」


「元、じゃない。魂は現役だ」


即答。

ほのか、さらにびびる。


忠義は二人に向かって顎をしゃくる。


「立ち話は終わりだ。入れ。茶を出す」


“茶を出す”と言われたのに、命令に聞こえる。

でも、あったかい。


玄関に上がる。廊下が広い。畳の香りがする。柱が太い。

静かで、落ち着く。


ほのかはキョロキョロしながら、声をひそめた。


「しずく、ほんとに家、でかい」


「うん…」


(ほのかが小声になるの、かわいい)


座敷に通されると、忠義が湯呑を置いた。

所作が無駄なく綺麗で、逆に怖い。


「さて。協会から“話がある”と言ってきたそうだな」


しずくが息を止めた。


「え…なんで…」


忠義は淡々と答える。


「保護者は俺だ。連絡が来るのは当然だろう」


その言葉に、しずくの胸の奥が少しだけ軽くなる。

怖いけど、守られてる。


「す、すみません! 私も一緒に来てしまって!」


忠義はほのかを一瞥して、意外なほど柔らかく言った。


「友達だろ。良い。むしろ、一人で抱え込む方が悪い」


その瞬間、ほのかの緊張がほんの少しだけ解けた。


忠義は湯呑を置いて、言葉を切る。


「それで。双剣だな」


しずくがびくっとする。


「うん…」


忠義の目が、少しだけ細くなる。


「懐かしいな。…その手のファンタジー装備は、昔から厄介だ」


ほのかが思わず身を乗り出した。


「…昔、から?」


「まれにだが、落ちる」


忠義は、さらっと爆弾を落とした。


「俺も探索者だった。自衛隊のな。わりと有名だった」


しずくは(聞いてない!)って顔になった。

ほのかは(そういうオチ!?)って顔になった。


座敷の空気が、少しだけ重くなった。

お茶の湯気が細く揺れている。


しずくが小さく言う。


「でも…公式には…素材と魔石しか」


忠義は湯呑を置き、首を横に振った。


「公式は“そう言う”」


短い。断言。武人の言い方。


ほのかが思わず身を乗り出す。


「え、じゃあ…双剣みたいな“ファンタジー装備”って、他にも存在するんですか?」


忠義は、まるで天気の話みたいに言った。


「する。…ただし」


忠義の目が鋭くなる。


「普通はもっと下だ。20層より先」

「そこでようやく“例”が出る程度。現場の上澄みか、協会の一部しか知らん。国は知ってる」


しずくの背中がぞくっとした。


(国…知ってる…)


忠義が続ける。


「だから、だ。1層で出たのがまずい」


しずくの喉が鳴った。

偶然。運。バズ。主人公補正。

そういう軽い言葉で流せない種類のやつ。


忠義は、しずくの手首、祝福の紋に目をやる。


「観測者10,000。強化ボス撃破。祝福に変換。…条件が揃いすぎている」


ほのかが小声で言う。


「じゃ、協会とか企業が動くのも…当然?」


「当然だ。企業は欲しい。協会は管理したい。国は把握したい。そして悪いのは奪いたい」


言葉が刃物みたいに並ぶ。


しずくが震える声で言った。


「私…ただ…友達が…」


忠義は、そこで少しだけ目を和らげた。


「分かっている。だから守る」


その一言が、しずくの胸に落ちた。

怖いのに、息ができる。


ほのかが、恐る恐る尋ねる。


「忠義さんって…どこまで」


忠義は少し視線を遠くに置いた。


ほのかが言いかけて、忠義の空気が変わったのを感じて黙る。


忠義は話せないではなく、今話さないという顔をした。


「その話は後だ。今は現実の対処をする」


そして、机の上に紙を一枚置いた。

メモ用紙に、太い字で三行だけ。


現物は外に出すな


即答するな(書面)


配信は守りに切り替えろ


「明日、協会に連絡する。面談は俺が同席。相手が企業でも、協会でも、やることは同じだ」


ほのかが、思わず背筋を伸ばして言う。


「はい!」


忠義は頷く。


「…配信…どうする…?」


「認識疎外を最大にする、俺が許可を取る。配信越しのお前たちと学校でのお前たちは結び付かん」


しずくが顔を赤くして俯いた。


ほのかが、しずくの横で小さく言う。


「認識疎外…そんなのあるんですが」


「ある。普通の者は知らん。」


忠義が湯呑を持ち上げる。


「よし。今日はここまで。二人とも、腹を決めて茶を飲め。腹が決まれば、負けん」


しずくは湯呑を両手で包んで、温かさを感じた。


(1層で出ちゃいけないものを、引いた)

(でも、味方がいる)


武人の祖父。

友達のほのか。


コミュ障だが、もう一人じゃない。

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