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50話 再挑戦

 ――イルネに確認したところ、既に魔物の件はメイド長とマーマレードが伝えていたようだった。

 ただ、物凄い形相で「絶対に広めるな」と言われた。


 まだ早朝で、少しはずれた場所だったので大きな騒ぎにはならなかったのが幸運だった。この秘密がいつまで続くかはわからないが。



 そして現在、天賦たちは炎砲の家で作戦会議をしていた。今すべきことのすり合わせである。


「呪源が何したいのかイマイチ分かんねェんだよなァ」

「そうなのか? 住民を隔離したいのだろう?」


「何のためにそうしてんのかって話。最初は鉱石呪源みたく町を守ってンのかと思ったけどよォ、食える魔獣ならともかく魔物まで送り込む必要ねェしなァ」


「自分からわざわざ危機を作ってますよね。でも魔物で町を滅ぼすならとっくにできてるでしょうし……」


 天賦の頭では呪源の行動原理を探ることはできなさそうだ。そういうのはカルメやファティに任せる。


「それは俺も変だと思ってたんだ。俺、呪いのせいか魔力に敏感で、町を囲ってるやつがどんな風になってるのか分かるんだけど……」


 炎砲はその場にあった小石を手に持ち、「これが町だとすると」と言い、それをコップの中に入れた。


「こうやって、外から囲い込んで、町の下を通ってるんだよ」

「え、じゃあこの下掘ると呪源がいるの」

「そういうこと。下から来れば俺らなんて簡単に殺せるだろ?」


 クェンターレは思ったより頑丈な檻に入れられているようだ。一度「穴を掘って脱出する」という考えを思いついていたが、それは無理そうだ。


 カルメは「だからか」と腕を組んでいた。カルメの目が正しく作用しないのは真下に呪源がいるからだろう。


「少なくとも、住民を急に皆殺しにすることはないと思う」


「呪源が何をしたいのか分からない以上、この場で斃し方を探るのは不可能でしょうね」


 結局、呪源の斃し方のヒントになりそうなものはない。僧侶オーガンの情報も、使った魔法と出立ちぐらいしかないので困ったものだ。


 頭を悩ませていると、カルメが「とりあえず」と口にした。


「目下の課題は、嬢ちゃんがめっちゃ弱くなってるコトだな」

「めっちゃ、って何」


 再生師も大きく頷いた。確かに自分でも酷い動きをしている自覚はあるが、いざ他人に言われると傷つく。


「元に戻すには剣を取り戻すほかないってことですよね」

「だが、どうやってそれを奪還するんだ?」

「……炎砲が魔法でばーんってやる」


 天賦の大雑把すぎる発言に皆が苦い顔をした。

 あの光で魔物たちを一掃したのを見たから、もしかしたらできるのではと思ったのだ。


「ばーんってやってどうすんだよ。アイボーごと焼き尽くしたらどーすんの」

「それはやだ!」


 考えうる限り最悪の結末だ。そんな光景を目の前にしたら耐えられる自信がない。

 車が破損してもなんやかんや立ち直ったファティを少しだけ尊敬した。


「俺が囮になる、とか」


 炎砲の提案は意外なものだった。彼は「死なない範囲」と言ったはずだが、それは1番危険な仕事だ。


「その、大切な剣がないと呪源を斃せないんだよな」

「斃せない」

「オイ」


 カルメがきっぱりと断言した天賦の背中を軽く叩いた。

 真実なのだからどうしようもない。


「だったら、住民の俺が気を引いてる間に取り戻すとか」

「炎砲、どのくらい動ける?」

「えっと、体力には自信がないな……」


 自分から言っておいてなんだが、無理な提案だったかもしれないと炎砲は謝った。

 スルの姿を思い出す。【疾風(ウィンド)】は魔術師も自在に動ける便利な魔法だったのだなと思った。


「あ!」

「どうしました?」

「良いことを思いついたぞ!」


 再生師はそう言って勢いよく立ち上がった。何をするのやらと見守っていると、再生師はおもむろに炎砲の背後に移動し、そして彼を軽々と抱き上げた。


「おわっ」

「私がこれで移動するのはどうだろうか!」


 再生師はぶんぶんと尻尾を振る。


 立派な成人の女性が少年を抱えているようにしか見えないが、実際は成人したてが年上の男性を抱き上げている絵面だ。脳が混乱する。


「私なら手が塞がっていても尾で自在に移動ができるぞ!」

「まァ、適任ちゃ適任か」


 片手でもいけるぞ!と炎砲を左手に抱え右腕をぐるぐる回す。自分でいいアイデアを考えついたことがよほど嬉しいのだろうか。


「炎砲が酔わなければ、完璧」

「なるほど、実践してみよう!」

「実践って……うわ!?」


 再生師は玄関を開けると、炎砲を抱えたまま壁を蹴って高く飛んだ。空から炎砲の驚く声が聞こえてくる。


「え、ウワ、マジか」


 カルメとファティと共に外に出た。再生師はアクロバティックな動きを繰り返して跳んでいる。確かに不自由はなさそうだ。

 再生師の笑い声が聞こえる。彼女が楽しそうにしていると不思議と安心する。


 その光景を眺めていると、背後から「ぎゃあ」という声がした。キシャがずり落ちそうになった眼鏡をくいと上げている。


「ちょ、ちょっと何してるんですか!?」

「作戦会議」

「うわっ、お兄ちゃ、見てらんない……」


 キシャは指の隙間からチラチラとその様子を見ていた。流石に再生師なら落とすことはしないだろう。


「本当に大丈夫かな……」

「大丈夫。キシャは守る」


 キシャの背中を叩く。よくカルメがしている動作だ。

 よろけるかと思ったが、キシャの背筋は伸びたままだ。病弱なやつはこんな体幹してないだろう。

 キシャは天賦の言葉に目を動かし、眼鏡を上げた。


「お願いしますよ、本当に……」

「まかせて。……再生師、まだかな」


 再生師はまだ空を跳び回っている。もう炎砲の声も聞こえてこない。もういい頃だと思うのだが。


「姉ちゃん、もう降りてこーい」

「ああ!」


 カルメの声を聞くと再生師はすぐに戻ってきた。髪が色んな方向にはねている。

 炎砲もすっかりボサボサだ。目を大きく開いて縮こまっている。


「炎砲、どう?」

「……ちょっと、面白かった」



――――――――――――――――――――――――――



 ――見渡す限りの熱砂。喉を通る水が一段と冷たく感じる。


「よーし、チャチャっと済ませるぞ」


 天賦、カルメ、再生師、そして炎砲は町の外に来ていた。目的は勿論、"相棒"の奪還である。

 炎砲と再生師が囮となり、その隙に天賦とカルメが"相棒"を探し、取り戻す。大雑把な計画はこうだ。


 ちなみに、ファティから本当に行くのかと散々聞かれたのだが、しつこかったので無理やり来た。


「炎砲、それ、たくさんは無理なんだよね」


 天賦は炎砲の手袋を指差す。事前に聞いていた話だが、一応。


「10回も使えば終わりだと思う。連発はできないな」

「把握した! 無駄に消費しないように立ち回って見せよう!」


 再生師は自分の明確な役割が与えられて嬉しそうだ。張り切っているせいか、まだ呪源には遠いのに炎砲を片手に抱えている。


「てか嬢ちゃん、本当に見つけられンのかァ?」

「任せて。相棒なら分かる」


 "相棒"の位置は定かではない。しかし自分ならどこに"相棒"がいるかすぐに見つけられるという自信があった。


「それって魔道具? だったら俺が探知してみようか?」

「相棒は相棒。私が見つける」

「ごめんな(あん)ちゃん、この子そういう子なんだわ」


 "相棒"が魔道具かどうかなんて考えたこともなかった。ただ、魔力で探すよりも自分との絆で探した方がずっと早いはずである。


「……む?」


 再生師が足を止めた。先の方には湿った砂の境界線が見える。そろそろ呪源と対面することになる。

 しかし、再生師には他に思うところがあったようだ。


「何か……近くないか?」

「近い? なにが」

「この円だ。……ああ、やはり以前よりも近づいているな。」


 確かに、前来た時よりも早く端に着いたと思っていたが、円の大きさについては特に気にしていなかった。彼女はこんなことまで覚えているのか。


「呪源が近づいてる? そんな話聞いたことないぞ」

「でも確かなんだ。……むう、思ったよりも限界がすぐそこまで来ているのかもしれん。」


 天賦たちが来るまでは魔物が町の中に出たことなんてなかったし、この円が近づいてくることもなかったはずだ。町の住民からそんな話は聞いていない。


 何かが動き出しているのは確かだった。


「……どうする? 始めてみっかァ?」

「うん、やる」

「え、いいの?」


 ただ、天賦にとっては些細な問題だった。既にすぐそばに"相棒"がいるのだから。

 再生師に視線をやり、行動を促す。


「その、一応呪源を刺激しすぎないようにな?」

「わかってる」


 メイスを右手で握り、周囲を警戒する。今回は何が来るか分かっているから反応が遅れることもない、はずだ。

 顔についた砂を拭う。


「じゃあ、頼む」

「任せてくれ!」


 再生師は炎砲の腰をきつく抱き、一歩、一歩と前に進む。その足に迷いや恐れは見られない。

 そして、変色している砂を踏んだ。


 ――ぱしゃ。

 この大地の印象からかけ離れた音が天賦の耳に響く。

 瞬きの間に、海の浜辺に来てしまったのかと錯覚する。しかし、そうではないことは乾ききった空気が証明していた。


 先日見たものと全く同じ色、姿。

 "相棒"と炎砲を除けば、前回と全く同じ構図である。


 あの時は呪源がどこを見ているのか分かった気がしていたのに、今は分からない。ただのなんでもない水にしか見えなかった。


「では、上手くやってくれ!」


 再生師はその場から駆け出した。外側をぐるりと回るように足跡を残していく。それを追って、液状スライムはずるずると移動していった。

 さすが呪源と言うべきか、動きはとても速い。彼女でなければ囮の役目は完成しなかっただろう。


「よーォし嬢ちゃん、早いトコ見っけてくれよォ」

「見つけた」

「はやっ!?」


 実は、呪源が出現した時から目に捉えていた。"相棒"がどこにいるかなんて目を瞑ってでも分かる。独特の煌めきが水の中で輝いていた。

 ただ、場所が問題だ。


 "相棒"は一際大きな塊の中に取り込まれている。位置も悪い。他の塊を掻い潜ってあそこまで行く必要があるのだ。もしまた取り込まれたら困難である。


「カルメ、飛んでいってよ」

「え?」

「鳥になって、丸まって」

「う、うっそォ」


 嫌だ嫌だと拒否するカルメを無理やり丸めようとした時、呪源がぼこぼこと泡立ち始めた。

 そこからいくつかの液体が地面に投げ出される。水色のそれは何度も波打って黒く変色し、歪な形を成していった。


「わ、なんか知らない魔物」

「え、嬢ちゃんも?」


 相手は魚のような頭を持った四つ足の何かだ。目がどこも見ておらず、狂気を感じる。


「でも、頑張る」


 メイスを持ち直し、魚の群れに向かう。元々狙いは住民の炎砲なので、こちらの数は少ない。


 魔物の口から水色の液体が大量に吹き出る。触ってはいけない、きっと酸か何かだ。

 こんなものに恐れを成すほど弱ってはいない。それらをかわし、胸らしき部分を適当に殴る。


 ただ、天賦は一つの疑問があった。


「弱い……」


 相手は呪源が作りだした魔物だ。あのグリフィンにも及ばない敵をよこしてくるのは意味不明だ。


「じょ、嬢ちゃん、アイボーはどーすんの」

「早く鳥になって」

「う……わかったよォ」


 カルメはしぶしぶ黒鳥の姿に戻った。……何か違和感がある気がするが、今は関係ない。

 前回も天賦を助けたのはカルメの突撃だ。今回もいい働きをしてくれることを期待する。


 そうしている間にも呪源は魔物を作る。端を一瞥すると再生師が大量の魔物から逃げていた。天賦の方とは比較にならないほどだ。

 天賦たちに向かった魔物が弱かったのは再生師たちが気を引いていたおかげかもしれない。


 彼女は器用に移動しながら尻尾でそれらを斬りつけている。炎砲が吹っ飛ばされることもないだろう。


「じゃ、カルメ、おねが――」


 瞬間、背後から砂が吹き出した。――正しくは、水の音。

 それはどんどん天賦に近づいてくる。前方からは魚の魔物が迫っていて、逃げ場がない。それに加えて、カルメを降り上げている体勢のせいで行動の選択の幅が狭いのだ。


 本当に、普段ならもっと周囲を警戒できたはずなのに。

 足を食われること承知で前に無理やり踏み出すしかない。そう心に決めた。


 ――止まれ


「――え?」


 そんな声が、どこかから微かに聞こえた。思わず足を止める。そして――呪源が、魔物が吹き飛んだ。

 黒い液体がそこらに広がり、砂に溶けていく。なにが起きたのかと辺りを見回すと、炎砲がこちらに向かって手を伸ばしていた。


「うおっ、やるねェ(あん)ちゃん」


 手のひらにはかすかに光が残っている。援護射撃をしてくれたのだろう。魔法に優れているとはいえ、彼は一般人だ。それにそぐわない咄嗟の判断に感謝する。

 やはり彼の力を借りれば呪源を完全に斃せるかもしれない。


 気を取り直して、カルメを振りかぶり、投げた。

 丸まったカルメは相変わらずよく飛ぶ。そのまま他の塊を掻い潜り、1番奥に位置する呪源に勢いよく衝突した。


 ざばん、と水に飛び込んだ時の音が大地に響く。中がどうなっているかは泡でよく見えなかった。

 ハラハラしながら見守っていたが、黒い塊が液状スライムの中から大きな音を立てながら出てきた。


「おっしゃあ! 取り返してやったぞボケェ!」


 呪源を前にするとカルメの口が悪くなる。やっぱり恨みがあるのかもしれない。

 カルメは人間体になり、"相棒"を抱えて喜んでいた。……しかし、一つ問題が残った。


「……え、待て。コレオレどうやって帰ンの?」

「……あ」


 そう、カルメが出たのは呪源の()()だ。町を取り囲む円の外。あそこからこちらに戻ってくる方法を、天賦たちは考えていなかった。


 少し考えれば、投げ出した方の反対側に出ることなんてすぐに分かる。ただ、天賦は"相棒"を取り出すことに必死で、その「少し」を考えていなかったのだ。


 もしこの場にファティがいたら「なんでそんなことも考えていなかったんですか」とか言われていただろう。


「うェ? わ、どわっ!」


 カルメを叩き殺す勢いで呪源が迫る。飛べばもっと楽に逃げられたかもしれないが、今の状況で悠長に剣を持ち直している暇なんてなさそうだった。


「たっ、助けて嬢ちゃん!」

「わ、わかんない……」


 呪源は二つに分散した。

 片や炎砲を出させまいと追いかけ、片やカルメを殺そうと荒ぶっている。そこまでして"相棒"が欲しいのか。

 もはや天賦は置いてけぼりの状態だ。完全にノーマークである。だが、何をすべきか思いつかない。普段ならふっと良いアイデアが思いつくものなのに。


「天賦! 何があった!」

「カルメが向こう行っちゃった! どうしよう!」


 傍から見れば間抜けな状況だ。

 上手く行くと自信に満ちていたのに、こんな失態をかますとは。

 この際再生師でもいいから知恵を貸して欲しい。


「お、俺が! 道を作ってみる!」


 炎砲が再生師の腕の中から顔を出し、手のひらを出して構えた。それなら一時的にこちらに戻ってくる隙間ができるはずだ。


「カルメ! こっちに向かってきて!」

「はいよォ、なッ!るべく早めに! 頼む!」


 カルメは長い足をわたわたと動かして呪源から逃げ続けている。最悪カルメが負傷してもいいから、なんとしても"相棒"を守り抜いて欲しい。


「炎砲、お願い!」

「やってみる!」


 炎砲の手袋が光る。

 甲高い音が鳴り、【砲撃(ショット)】の輝きが飛んだ。それはびゅうと渦巻きながら飛び、呪源の壁に激突した。

 【砲撃(ショット)】を受けたところからスライムは弾け飛ぶ。門のような穴が空いた。


「嬢ちゃん、コレ頼んだァ!」

「わわ、ちょっとぉ」


 カルメの腕から"相棒"が飛ぶ。そんな雑に扱わないで欲しいのだが。

 黄金の煌めきが風を切った。急いで前に跳び、それをしっかりと手にした。


 夢にまで見たそれは、普段よりも一段と輝いて見えた。ひんやりとした金属の感触が甘美である。天賦は思わず目尻に涙を浮かべた。

 長い間1人にしてごめんよ。もうこんなヘマはしないから。


「よし天賦! 早いところ撤退するぞ!」

「うん!」 


 もう、これで今日ここに止まる理由は無くなった。早いところ退いて、この喜びをしかと感じたい。

 足が軽い。とっととクェンターレに戻ろう。


「よっしゃ! これで上手いコト行くだろ!」

「本当に良かったな、天賦!」


 心から歓喜に満ちている。もうこれでソエルソスに帰っても満足かもしれない。


「……なあ、なんかおかしくないか?」

「あァ? なんかって何だよ」


 炎砲が背後を見ながら呟いた。何を気にしているのかと思った。そこには呪源が追ってきているだけで――


 ――()()()()()()()


「え、え、なんでまだ来るの」

「もう(あん)ちゃんも出ようとしてねェだろォ!? 何が不満なんだよ!」


 もしかして、"相棒"を強引に取り返したから?そのせいで追ってきている?


 混乱が続く中、不意に前から気配がした。――その勘通り、目の前から液状スライムが突出した。

 そうだ、ぐるっとこの町を囲んでいるのなら町に逃げても下から向かってくるじゃないか。


 それを振り払うため、闇雲に"相棒"を振った。


 ――じゅう。


 そんな感覚がした。液体を斬るとは違う感触。熱々に熱された鉄を魔物に振った時のような、そんな感じ。


 なぜそんな感覚がしたのかは分からない。それをすぐ処理する能力は、天賦にはなかった。


 なにはともあれ、状況が好転した訳ではない。このまま逃げ続けたら町に被害が行くだけだ。

 頭を悩ませていた時、カルメが大きく頭を振った。


「ああ、もう、しゃーねェなァ!」


 カルメはそう声を荒げ、指から黄金の指輪を引き抜く。そして、それを大振りで背後に投げた。


「ちょ……!」


 金色の光が宙を舞う。なぜか、その光景がゆっくりと、ゆっくりと天賦の目に焼きついた。

 呪源はそれを追い、天賦たちを追うのをやめて弾き戻った。とぷんと砂の中に沈む部位もある。


 天賦が足を止めても襲いに来るものはいなかった。獰猛に見えたそれは嘘のように冷静に、何事もなかったみたいに消えていった。


「カルメ、それは……。」

「マジ感謝しろよ。重すぎなこの身体で過ごさなきゃいけねェンだからな」


 彼は鉛のように重たいため息をついて手を払った。あれ無しでは自在に変身できない。人間体を嫌うカルメにとっては酷だろう。


「ありがとう。相棒帰ってきた、うれしい……」

「これで天賦も不自由なく戦えるな!」


 "相棒"に頬擦りをする。故郷に帰ってきたような気分だ。

 再生師に下された炎砲がその様子を見つめる。そして、気まずそうに泣きぼくろを掻いた。


「あ、あのさ、一個聞きたいんだけど……さっき、どうしてカルメが鳥になってたんだ?」

「……あ」


 天賦たちはそのことをすっかり失念していた。

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