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30話 彼女はどうして

 天賦はふと目を覚ました。

 下がりそうな目をこすり、周囲を確認する。カルメは隣で羽を丸めながら寝ている。運転席ではファティが足を宙に浮かせながら寝ていた。ひどい寝相である。


 どうやら、今はまだ夜のようだ。闘技場でも、たまにこうして起きてしまうことがあった。その度、どうやってもう一度眠りにつくか悩んでいた。


 ふと見ると、天賦は再生師の尻尾が揺れているのに気がついた。その先を覗くと彼女はデッキの柵に手をついて、ゆるやかに尻尾を振っていた。再生師もまた起きていたようだ。


「再生師?」


 再生師はゆっくりと振り向いて天賦の顔を見ると、にこりと笑った。随分穏やかな笑顔である。


「天賦。起きたのか。」

「何してるの?」


 再生師は空を指差した。

 天賦が見上げると、そこには一面の星空が広がっていた。今まで何度も見てきたような空だが、やはり星は綺麗だ。


「好きなの?」

「誰だって美しいものは好きだろう?」


 明日はルチカナイトを斃しに行く日だ。既に明日ではなく今日なのだが。

 たった3人での挑戦だが、これはただ単に天賦や再生師に並ぶ実力の持ち主がいないからだ。もしいたとしても相手は呪源。既に呪われている人間ではないと、もし「即死の呪い」なんてあったら対処のしようがない。


 それに加えて、まずあの洞窟に入った時に腕を失う覚悟をしなくてはいけない。再生師がいれども、そんな覚悟を持った人材は中々いない。


「……その相棒のために呪源を斃したいと言っていたな。」


 再生師は"相棒"を見つめてそう言った。


「天賦とその剣には、私たちでは理解しきれないような深い関係があるのだろうな。」

「再生師、ずっと"相棒"のこと気にしてる」


 彼女は眉を下げて笑う。

 その時、天賦は彼女の爪の異変に気がついた。指先が赤黒く変色していて、獣のように鋭くなっている。


「再生師、それ」

「ん?……ああ。失礼。」


 再生師は腕を広げ、それを自らの尻尾で切断した。

それが【再生(レプロ)】で治ると、再生師の指は元の美しい、ただの人間の指に戻っていた。

 実際に天賦が再生師の異変を目にするのは初めてのことだった。彼女は切断した手を柵にくくりつけてある拡張袋に入れ、【着火(イグニション)】で燃やした。

 天賦が知らないだけで、その袋は既に彼女の体でいっぱいになっていたようだ。

 その作業が終わると、再生師は咳払いをした。


「すまんな。剣の話だったか。ただ……少し考えていたんだ。呪源を斃したいと願う、その原動力を。」

「……再生師はどうして呪源を斃したいの」


 再生師は魔獣の呪いという恐ろしい呪いにかかりながらも、彼女の技術でそれを無いようなものにしている。それどころか大きな力としているのだ。

 命を賭してまで呪源を斃そうとするその気持ちはどこから来ているのか分からなかった。切るのが鬱陶しいから、なんて理由でそこまでしない。


「そうだな……世界を救い、それで……「人になるため」であろうか。」

「人に?」


「少し、昔の話をしてもいいだろうか?」



――――――――――――――――――――――――――



 幼い頃、私にはある友人がいた。どこにでもいるような英雄志望の子供だった。

 私も彼女も裕福な魔術師の家に生まれた。

 私よりも魔法が上手で、誰よりもずっと自信家だった。

 そして、ずっと頭が良かった。私は頭が鈍いから、彼女の後をついて回っていた。

 ある日、彼女に言われた。


 「魔獣狩りをしないか」と。


 なんでも、彼女の家が()()()に行くというらしいのだ。目的は彼女にもわからないそうだが、近くの森には近寄るなと言われたようだ。

 ということはその森には危険な魔獣がいるのだと考え、自分の力をよく知る彼女はそこにいる生き物を倒して私に自慢をしたかったらしい。

 私は強い彼女が好きだったから、それを了承した。


 そして、呪われた。

 彼女も、私も。


 呪源がいるなんて知らなかった。

 そして、よりにもよって「魔獣の呪い」に揃ってかかるなんて、1番の最悪だった。

 たった1つの幸いは私が【再生(レプロ)】を使う家に生まれていたことだ。

 これなら処分されることもない。そして彼女の力になれる。ずっと憧れていた彼女を助けることができる。



 ――しかし、それが私と彼女の転換点だった。



 尻尾も生えていない頃だ。どうやって腕や足を切断する?

 私が最も賢いと思ったアイデアは「肉切り包丁を使う」だった。力の強い冒険者たちも、子供の腕を切るなんて仕事を受け付けてくれなかった。なら、私がやるしかない。


 自分のことを切るのは辛かったが、耐えられた。生きるための行為だから。

 でも、彼女はそうじゃなかった。

 彼女は激痛に耐えられなかった。私を拒絶して、拒んだ。

 当たり前と言えば当たり前だ。幼い子供なのだから。彼女は胴体に侵食しそうなぐらいまで黙っていることもあった。


 そして、言われたのだ。


「どうせもう化け物なの、私()()は!」


 ……衝撃だった。

 あんなに知的で、私の中の「人間」の象徴の彼女が、自分で自分のことを化け物だと言ったのだ。

 その瞬間、私の中の「人」の象徴が崩れていった。


 私は間違ったことをしていたのか?彼女を守るためにしていたことが間違っていたのか?私は……化け物なのだろうか。


 気がつくと、彼女がいなかった。――逃亡したのだ。

 彼女の家にも、街にもいない。私は心底焦った。

 そして後日、郊外に"魔獣の呪い"が出たという知らせを聞いた。ある家族を襲ったという一報を。


 ……祈った。それが彼女では無いことを。

 彼女を知性なき化け物にしたのが自分では無いことを。

 魔獣の呪いに私の人間性というものが蝕まれているような感覚だった。

 私は私を安心させたかった。「あなたは人間だよ」と。


 私が「人間である」と完全に証明できる時、それは私の中から魔獣の呪いが消えた時しかない。


 世界を救えば、私は人だと証明できるのだ。


 ――彼女を救おうとした自分は間違っていなかったと。


――――――――――――――――――――――――――


 自らの過去を話している時も、彼女は口元に笑みを浮かべたままだった。

 彼女はずっと自信満々で、悩みなんてなさそうな人間に見えた。再生師にそんな経歴があったなんて全く――。

 天賦はなんとなく、彼女が痛みなく体を切断する方法を身につけた理由が分かった気がした。


「だから、人たりうる証拠を身につけようと思ったのだ。たくさんの知識をつけて、そして堂々と胸を張っていれば、おのずと人は私を知性ある人間として扱うだろう?」


 彼女の目はいつもは炎のように輝いているが、今の彼女の瞳はいっとう輝く星のようであった。夜の闇の中であまりに綺麗に光るものだから、それから目を離せなくなった。


 彼女はきっと悲劇を語っているとは思っていない。これは再生師の決意表明のようなものだ。


 天賦は己を"強さ"で象徴しようとしている。彼女のように"知性"で表明することは考えたこともなかった。

 呪われた者にとって、名前で自分を証明できない以上、自分を形作るテーマは「名」そのものだ。

 天賦が実戦で己を研磨したように、彼女は知識で己を研磨した。


「再生師、英雄っぽい」


 再生師は目を丸くした。

 天賦は、英雄は劇的なものを持っているものだと思っている。それは戦い方だったり、成り方だったり。

 再生師の「成り方」はまさに英雄らしかった。口にしようとした訳ではない。つい、自然と出てしまった。


「――ははは! 英雄っぽいか! 良い意味であることを願うよ。」


 再生師は天賦の背をばしばしと叩いた。

 天賦は尻尾で叩かれると思っていたが、彼女は自分の腕を使って天賦の肩を持った。

 再生師は強い印象を受ける顔立ちをしているが、満面の笑みで笑う彼女は子供のようでちょっと可愛い。


 すっかり眠気が覚めてしまった天賦は、予定の時間になるまで再生師と談笑して過ごした。空が明るくなるのにつれて呪源と戦う緊張が解れていく。

 星の輝きが曖昧になった頃、彼女の大きな笑い声でファティがぼんやりと目を覚ました。あの寝方では疲れが溜まるのも当然である。


「天賦、カルメは寝起きが悪いのか?」

「首を掴みながらでも寝てた。悪い」

「ふあぁ……2人とも起きるの早すぎでしょ……お腹減ってますか?」

「減ってる」

「腹ペコだ!」


 彼女たちは世界を救うには能天気すぎるかもしれない。

 だが、呪源を斃すには充分な理由を持っている。

再生師の使う【再生】は世界中探してもほんの一握りの人間しか使えない魔法です。


繁忙期に入るので3/5まで投稿話数が減ります。申し訳ありません......

いつも読んでくださってありがとうございます!

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