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18話 元いた場所に返してきなさい

「ダメです」


 少し前。

 天賦は再生師を紹介するために、ファティの術力車に向かった。もう日が暮れる頃で、ファティも店じまいをしていた。

 再生師を見るなり、彼は素っ頓狂な声を上げてその場に座り込んだ。彼女の尻尾に驚いた、というよりは彼女の存在に驚いていた。


 そして再生師のことを紹介し、旅に加えてもいいかと聞いた返答が、最初のアレである。


 そして、現在に至る。


「え、ちょっとなんで」

「いや、俺も分かってますよ。2人ぽっちで呪源を斃すなんて無理だってこと。それに、あなたのことも知ってますよ。"あの家"の長女の方ですよね。ムーナウーヴァではよくあなたの噂を聞きます」


 ファティは彼女の評判を知っていたようだ。それを早く教えてくれたらよかったのに、と天賦は思う。

 再生師の実力を知っているのに、なぜかファティは首を縦に振らない。


「ならどうして」

「お金がないからです」


 天賦は頭を殴られたような衝撃を受けた。


「俺、ハンマー買ってあげましたよね。その時にコツコツ貯めてた貯金がほとんどなくなったんですよ」


 てっきり、ファティがいるから金銭の問題はずっと前に解決したと思っていた。それに加え、再生師も有名な家の明人だというのなら、資金は有り余るほどあるはずだと思った。


「再生師、いくら持ってる?」

「これくらいだ。」


 再生師が出した巾着袋には金貨がいくらか入っている。天賦の最初の持ち金と同じくらいの量だ。


「な、なんでこれしかないの」

「私は軽装重視なんだ。硬貨は重たい。」


「で、天賦さんは何かの事情があって冒険者にはなれないんですよね?」

「うん。呪源退治のために、しかたない」

「再生師さんはどうですか?」

「天賦ができないというのならそれに習おう。」


 天賦は一つずつ確認していくファティに嫌な予感を覚えた。


「で、カルメさんは論外でしょ」

「ンだよォそれ」

「なら、この中で経済力があるのは俺だけってことになりますよね」


 ファティの言葉に同意せざるを得ない。だって彼が言っていることは全て本当のことなのだから。


「で、でも再生師は金貨持ってるから」

「そんな金貨すぐ無くなりますよ。俺も貯めてましたけど、"ハンマーひとつで"なくなっちゃいましたからね」


 ぴゃっと天賦は黙った。前まで半泣きになってばかりだったのに、今日のファティはなんだか怖い。


「いいですか? あなたたちの面倒を見て、道具を買って、食材を買ってとしていたらいずれ破滅するんですよ。あなたたちよりも、俺が! いくら命の恩人ともいえど、それに快く返事をすることは出来ません」


 人間、大きな障害よりも身近な障害の方が危機感を覚えやすいものである。

 ファティは呪源退治といういつ死んでもおかしくないものに巻き込まれた時、しぶしぶ、ではあったが承諾した。しかし、金銭面の問題になるときっぱり「無理だ」と言い放った。彼が大人だからこそ、かもしれない。


 天賦は冒険者になれない、再生師は所持金がない、カルメは…………。


 それでも、天賦はなんとしても再生師を仲間に引き入れたかった。あの「魔獣の呪い」をほぼ克服した人間が加われば、きっと"相棒"を救い出す日も近くなる。


「あ!」


 天賦は一つのアイデアを思いついた。


「ファティ、私たち食材用意する。狩ってくる」


 自分は魔獣を狩ることができる。そして、ファティは食材料費に困っている。なら、自分が持ってくればいいだけの話ではないか。魔獣だからと言って家畜よりも不味いわけではない。


「おお! 天賦は賢いな!」

 

 再生師が目を輝かせた。てっきり彼女は頭がいい人間だと思っていたが、どうやらそうでもないみたいだ。


「嬢ちゃん、いいアイデアだけどよォ、その後にも色々問題があるだろ。デッケェ魔獣をどうやって捌くかとか、ンでその肉をどう保管するかとか」


 それは失念していた。天賦は魔獣の正しい捌き方を知らない。適当に切って、適当に焼いて食べて来たからだ。

 カルメに「保管の件については」とファティが意見する。


「【保存(フリーズ)】という常用魔法があるので大丈夫ですよ。それ用の箱があります」


 ファティは棚の下から箱を取り出して見せた。ただの木箱だと思ったが、何かのマークがついていたので恐らく魔道具なのだろう。


「でも、俺には魔獣を捌く知識は無いですよ。家畜とかしか捌いたことないので」

「なら私がやろう。天賦、ここに魔獣を斬れるようなナイフはあるか?」


 天賦は拡張袋から一通り物を取り出してからナイフを再生師に見せた。やはりテンポが悪い。


「安心してくれ。私には魔獣を捌く知識も筋力もある。」


 その言葉に、ファティは意外そうな顔をした。

 ファティは彼女が並外れた知識人だという話を聞いたことがあったが、まさか魔獣の解体方法も知っているとは思わなかった。なんせ、彼女はいいとこのお嬢様である。


「……まぁ、確かに肉をたくさん使えたら嬉しいですけど……」

「ほら! これでファティはタダで肉が手に入る。いるならキノコも取ってくる。いいこと」


 ファティは腕を組んで呻る。天賦たちはそれを唾を飲み込んで見ていた。そして、彼が目を開いた――ように見えた時、天賦の背筋がピッと伸びた。


「……ひとまず。ひとまずですよ。それでいいことにします」

「やった!」

「おお! やったな天賦!」


 天賦と再生師はハイタッチした。これで、天賦たちに再生師が仲間入りした。彼女たちがファティにとって釣り合った働きをする限り。


 彼女がいれば、多少無茶な戦闘も選択肢に入れることができる。魔獣の呪いに全く懸念がないというわけではないが、ともかく心強いことに変わりはない。


「なら、話したいことがある」

「奇遇だな、私もだ。」


 正式に仲間になったのでカルメのことを話そうと思ったが、再生師にも何か言いたいことがあるそうなので、先に発言権を譲った。


「私は頻繁に腕や足を切り落とさないといけないのだが、いい処分方法はないだろうか?」


 天賦たちはそれを失念していた。四肢が変異する度に切らなければいけないのなら、当然人間の手足が残る。


「ファティ、料理する……?」


 自分でも変なことを言っている自覚はあったが、それ以外に方法が思い浮かばなかったのでそう言った。天賦も却下される自信しかない。


「な、あ、あなた、何言ってるんですか……」

「嬢ちゃん、流石にそれはねェわ」

「天賦は私の腕を食べたいのか?」


 一気にダメ出しを喰らい、分かっていたものの恥ずかしい気分になる。思いつきで発言するのはよくないことだ。


「え、えっと、拡張袋に詰めまくって、入らなくなったら【着火(イグニション)】で燃やすのがいいと思います」

「なるほど! ファティは賢いな!」


 では後でマーケットに行ってくる、と言う再生師に行かない方がいい店を伝えておいた。この使用方法での不都合は無いと思うが、中身が溢れ出す拡張袋でもあったら大変だから。


「それにしてもよォ、姉ちゃん。毎回自分で切るなんて痛くねェのかよ?」

「私は痛みなく部位を切断できるんだ。この尻尾でね。私のちょっとした特技だな。」


 3人が同時に関心の声を漏らした。

 天賦は「喫茶店」で彼女が指を落とした時のことを思い起こした。だからあんなに平然としていられたのかと納得した。天賦でもできない妙技である。


「さて、私の聞きたいことは終わったぞ。次は?」

「あ、えっと、ねえカルメ」

「はいよ」


 カルメの声が随分低い場所から聞こえた。慌ててそれを見ると、やはりカルメは鳥になっていた。変身するのが早すぎる。

 再生師は数秒固まった後、興味で爛々と輝いた目をカルメに向けて、その身体を両手でぐわしと掴んだ。


「お前は……何だ?」

「カルメです」

「喋る鳥だと? 変身した? 魔獣? いや、魔獣にしては知能が高すぎるな。声帯はどうなっている? まさか妖精の生き残りか?」

「やめろやめろ、あんなクソどもと一緒にすンなってェ!」


 もふもふとカルメを触り質問攻めをする再生師を見かねてか、自分しか説明できる人間がいないと理解したのか、ファティが横に入った。


「えーと、俺も完全には把握できてないんですけど、驚かないで聞いて下さいね?」


 ファティは順序よく再生師に説明する。彼女が困惑しないよう、分かりやすく伝わるよう、そして急ぎすぎないように解説を始めた。

 天賦には、ファティの説明は耳に入っていなかった。彼の言葉が気がかりだったからだ。


 あんなクソども。


 カルメは「妖精」に、確かにそう反応した。

 "あんな"。妖精がどんな種族だったのか知らないと出てこない言葉だ。しかし、天賦は妖精のことなんて知らないし、カルメの耳に「妖精」という言葉が入った瞬間もなかったはずだ。

 では何故、カルメは「あんなクソども」と言ったのだ?


 "相棒"のグリップを無意識に握る。天賦の癖だ。


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