詩「雪の下」
その春の木は
路地裏のように狭い道だった
根から歩けば年輪を感じることができ
葉先から歩けば風の存在を証明できた
相互通行のその木は
裏道のようにいつも陰っていた
洗濯物が揺れている影
空から舞い降りてくる雨粒の光
束ねられた白髪は下水に流されて
雪は緩やかに老けていく
道は酒が好きだった
好きだったから辞めざるを得なかった
辞めた後にはもう好きではなくなっていた
むしろ嫌いだった
酒の横切った面影ですら
過去について興味がないことを悟った
その空洞に
道は一葉の手紙をねじ込んだ
葉から見て
木はどんな木でも
夜に近い人生そのものだった
青空は真摯に窓際だった
太陽の光はいつもうるさくて
風に擦れる音は刺激的だった
好きなものはなかった
早く死にたかった
冷たい空気が恋しかった
根は一日の大半を眠っている
微細な体積を増やすために
蚯蚓のように
根は地下室が好きだった
根は
空を見たことがない
歩いていく、歩かされる、
背中に感じる誰かのぬくもりに、電子レンジの音がきみの声を忘れる。薄汚れたビニールをしゃぶりながら、アルコールより繋がれる恋が好きだった。きみは、薄い肌着の下に、木を持っていた。ときに揺れる葉の音に、お風呂場の湯気は重たかった。
「
冬が来た
電気の代わりに
」
路地裏の愛が終わるために
自然は回り続ける
海は誰かの胎内で
空は誰かの教会だと
風のような誰かが言っていた
記憶でしかできない蹂躙
枯れていく枝
木はいつか死ぬ
道は腐っていく
足取りはフラフラで
言葉は尽きていく
光は弱々しく
幽かに鳴いた
遥か雪の下
根の
燃え尽きる空にて