入れ替わり
「俺の名前は浅池 要」
おー成功だ。声は出るし、自分の意志で周囲が見渡せる。
入れ替わりに成功してしまった。やったー!
(ちょっと待ってください?!。なんで入れ変わったんですか!!)
「いや、ちょっと思い付きで、」
(今すぐ、私に返してください。魔術も使えないあなたでは、もしもの時に何もできない。)
「そういわれても、ほんとに、入れ替われると思わなかったから・・」
どう戻すかわからない。
(なんでっ ・・そういうことをするんですか!)
「いや、好奇心といいますか。できるのかなーって」
(・・・・私の体、返してください)
驚くほど、アルマは動揺している。
さすがにやばいことをしてしまった。
「ちょっと待って、今やってみるから。でも、魔力回復するまで、どっちが体を操っても同じじゃないのか。」
(いざとなれば、魔術はつかえます。)
そうなんだ、魔力が回復しなくても魔術が使えるのか。
じゃなくて、今は肉体の入れ替わりをしないと。
「ちょっと、感覚をリセットするために、一回姿勢を変えるわ」
(待って!)
そう思い伸ばしていた足を曲げようとした。
「いってぇぇーっ」
(んっ)
動かそうとした両足に電撃が走ったような激痛に襲われた。
なんだこれ?
動かすと、ここまで痛むとは。
切り傷や打撲、骨折だけじゃなかった。筋肉、腱、関節すべてが悲鳴を上げていた。
これは立てたものではない。彼女が動こうとしないわけだ。
(どうして、人の体で好き勝手するんですか・・・・)
「ごめん・・・」
もう、弁解の余地はなかった。
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それから、2時間が経過した。
太陽は既に沈み、岩壁の間から見える空には星が光る。気温はさらに低下し、焚火だけでは心もとなくなく感じる。
そんな中、俺は何とか彼女と入れ替わろうと試している。
アルマに俺が入れ替わりに成功したときに感覚を伝えているが、できる気配はなく徐々に口数は減っていき(わかりません。)と(できません。)しか話さなくなってしまった。
内側からの入れ替わりは体に入られているアルマにはできず、入っている俺にはできるものなのかもしれない。
さすがに、ふざけていられる空気ではない。
可能性があるのは、一度入れ替わった時のように、俺が意識を失うような衝撃を受けることだろう。再現性は確証されてないけど。
ん?待てよ。
体を動かせる状態を表、動かせない状態を裏として、自分が表の場合は相手の魂を認識できない。ここまでどれだけ頑張っても、そこは変わらなかった。
でも、意識が無くなれば意識がある方が強制的に表に出る?
俺がアルマの魂を認識する必要はないのか。
心を無にするとか・・瞑想・・
睡眠?
可能性は・・なくもない。
俺は即座に目をつむる。まずは落ち着かないと。
様々なことがあって興奮状態なのか目が冴えている。
目の前の炎に意識を向ける。目をつむっていても、ぼんやりと入ってくる焚火の明かり。
顔を温める炎と木材が燃える音。
大きく深呼吸をする。肺に冷たい空気を詰め込みゆっくり吐き出す。
こっちに来てから、初めて空気を意識した。
こんな大自然で呼吸したことがあっただろうか。
呼吸する度に、空気に脳が冷やされるように乱雑だった思考が静かになっていく。
今まで気にしていなかった小川の音。
渓谷を抜ける風とパラパラと落ちる砂の音。
・・・・・
・・・・
怪我のこともある。
痛みで深くは眠れないだろう。
でも、一瞬でも俺の意識が落ちれば入れ変わるかもしれない。
・・・・・
・・
そう彼女と落下中に入れ替わったように・・
・・・
・・
・・
は!
首が前に倒れそうになって、ふっと持ち直した。
いや、そうではない。
反射で状態を立て直したと思ったが、それをしたのは俺ではなかった。
俺の意志とは別に目がゆっくりと開くと、視界に入った手のひらが握ったり開いたりを繰り返す。
よかった。
どうやら、入れ替わり成功。
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