渓谷の底で2
(あーあーあー)
俺は今体の操縦主に話しかけられないか試している
(聞こえませんかー)
俺が目覚めたのはは、ほんの数分前。
気が付くと目の前に焚火があった。あと体中がとてつもなく痛かった。とっさに痛みを感じたところを見ようと首を動かす。が首は動かず焚火だけを見ている。
あれ?と思い体を動かそうとするが全く動かせなかった。
そこまでしたことろで、何があったかを思い出した。
そう、異世界に行って、体が女で、ネズミに追われて、崖を落ちた。
そして死んだと思ったが、なぜか生きている。
そして体が動かせない。
ちなみに尿意も収まっている。
つまり、俺が気を失っている間に彼女に体の操作が移って俺が引っ込んだのだろう。だから体も動かせない。
崖を落ちて助かったのも魔術とか使ったに違いない。
そう結論付けて、彼女と交信しようと色々試している最中である。
アルマは俺と話す際に俺の魂らしきものを感じ取れるとか言っていた。
言っていた意味が今は少しわかる気がする。
何と形容したらいいのかわからないが、例えば自分の胃。
自分の胃は実際に見たことはないが、飲み物などを飲んだ時に胃に入る感覚を感じたことはないだろうか。見たことはないがそこに胃が存在するんだろうなーみたいな。
普段はわからないけど、触れた時だけわかるみたいな。
そんな感じで時々感じる彼女の魂と思われる感覚に何とか干渉できないか試している。
いいとこまで行ってる気がするが反応が返ってこない。
彼女、火を見たまま全く動かないが何を考えてるんだろうか。
(おーい。聞こえてませんかー。アルマさーん。アルマさーん)
やっぱりダメか。とその時だった。
「はぁ、噓でしょ」
ん、反応した? さっきの感覚と同じように
(聞こえてますかー)
「・・・はい、聞こえてます。」
おお、つながった。
それにしても声のテンション低すぎるっだろ。
(今どういう状況か教えてもらってもいいですか。)
とりあえず今の状況を確認する。
そして彼女から、現状の説明を受けた。
落下中に意識が入れ替わったこと、魔術を使って生還はしたものの、魔力が回復しづらく脱出するための魔術が使えないこと。足を怪我していて、歩くことも厳しいということだった。今できる傷の手当はしたため、魔力が回復するまではここで待機するしかないらしい。
だいたい予想通りではあるが、俺が思うよりもケガがひどいらしい。
(どのくらいの時間で魔力が戻りそう?)
「おそらかく、明日の朝ごろには、足の怪我を治すことができると思います。」
ということは、一晩はここで過ごすことになるのか。
それに足が治ったところで、この絶壁をすぐに脱出できるとは思えない。
浮遊魔術があるとか言っていたがそれを使うには、さらに時間が必要だろう。
RPGのように一晩寝れば全快とはいかないのか。魔術も好き勝手使える便利なものではないらしい。
(魔力の回復って結構時間が掛かるんだな。)
「いえ、今が異常に魔力回復が遅いだけです。おそらく魔力が回復しない地球に長くいた影響だと思います。本来なら1時間あれば、歩ける程度の傷の治療と、ここからの脱出分の魔力は回復します。」
(そんなに回復するんだ。)
この傷を一時間で治して脱出もできるとは魔術は相当に便利なものらしい。
ぜひ、わかりにくいから魔力量と消費量を数値化してもらいたい。
(ところで、地球にはどのくらいいたんだ?)
スマホとかも持ってたし、スーツも着たりと、それなりに日本になじんでいたようにも見える。いや、この世界も地球くらい科学が発展してる可能性もあるか。
「それは・・・今は関係ないことです。」
教えてくれなかった。
しかし、この焚火の前でじっとしているにしても、休むことはできそうもない。
原因は体の怪我である。服を着ているからわからないが、体が傷と打撲だらけな気がする。
そして、それらが気にならないほど痛い部位がいくつかある。
一つは左足の裏。
今は両足とも素足だが、左足には白い布が巻かれている。そして布はすでに赤黒いシミが広がっいる。出血はおそらく止まっているが、足の裏とは思えないほど、丸くはれ上がっている。
もう一つは、右足首。これはおそらく折れている。申し訳程度に枝を括りつけてあるが、布の隙間からは紫色の肌が見えており、大きく腫れている。
正直、この両足で歩くと思っただけでも、寒気がはしる。
あとは、彼女が呼吸するたびあばらに激痛が走るし、
これ以上の満身創痍を俺は知らない。
俺が体の主導権を持っていたら今頃、涙が出ているだろう。
だから彼女がこの痛みに耐えて俺と冷静に会話しているのは純粋にすごい。
(めちゃくちゃ体痛いけど、アルマは大丈夫)
「大丈夫ではないですが、耐えるしかありませんし」
(体を動かすことってできる? 俺が目を覚ましてから一切動いてないけど。)
そう、彼女は俺が目覚めてから、ずっと俺と会話しているときも目線しかうごいていない。
「・・・・・」
返事がない、ただの屍のようだ。もちろん動きもしない。
(まぁ焚火を焚いたり傷の手当もしたようだし、最低限は動けるってことですよね)
「最初は・・動けてました。でも、今は少し動こうとしただけで、激痛で動けません。」
(最初は興奮状態だったみたいな?)
「言っている意味が分かりませんが、」
(事故などに合うと興奮状態になって体内でアドレナリンが出て痛みを感じにくくするって聞いたことがあるから)
「そういうものがあるなら、そうかもしれません。」
とにかく、動けないということらしい。
(ここは安全だと思う? 魔獣が襲ってきたりしたら絶体絶命だけど。)
「現状は大丈夫だと思います。」
それから俺たちは、状況のすり合わせをした。
こちらに来てから、こんなことしかしてないが、会話をしているうちは、痛みを紛らわせることができる。アルマがどうだったかはわからないが。
聞いたところによると、焚火を焚いている間は、安全とのことだった。
光の届きにくい洞窟などに住む魔獣は炎を避ける傾向にあるらしい。
幸い渓谷が深いため獣が生きて下りてくる可能性も低く、基本的に岩肌しかないこの渓谷では人を襲うような獣は魔獣以外生息できないらしい。
ちなみに、異世界の動物はすべて魔獣かと思っていたがそういうわけではないとのことだった。聞いてみると、俺を襲ったあのネズミたちは、だだの野生動物らしい。
俺にはあれも十分に魔獣だったが、魔獣はどんなに恐ろしいのか。
あと、どうやってここを脱出するか聞いてみたが、歩いて登れそうな場所を探すか、それができなかったら魔術で無理やり道を作るそうだ。穴を掘るか階段を形成するらしい。
それにしても、風、火、土と様々な魔術が存在しているようだ。
空を飛べばいいのではと提案してみたが拒否された。
当初はその予定だったが、俺がまだ体に残っていたから浮遊魔術は使わないことにしたらしい。
なんでも、浮遊中に俺と入れ替わりでもしたら、落下死するからだそうだ。
ごもっともだ。
そういえば、俺も入れ替われるか試してなかった。
すでに脳内でのしゃべり方は習得している。
これを応用して、なんとか。
アルマにはできないが俺にはできるという特別仕様の可能性もある。
こう手繰り寄せる感じで・・・
あーなんか・・・こう
(こう、もうちょっと、・・もうちょい引き寄せる感じで)
「あの、なにしてます?」
(・・いや、なにも)
独り言のつもりが魂に干渉してるから、筒抜けになるわ。てへ
「これ以上、変なことはしないでください。」
(こうやって、もっと、あ、なんかいけそう)
「ちょっと、なにしてるんですか?」
(とりゃー!)
・・・
(え?)
「お!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ちょっと主人公が終わってるか
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