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理不尽な世界2

俺、浅池 要は3日前に異世界に来たばかりの日本人だ。


 そんな俺が初めて訪れた村が火に覆われた化け物に襲われた。


約2日間の大冒険を終えてやっと安全なベッドで休めると思った矢先、大きな鐘の音で目を覚ました。

そんな俺は今、その村の中心部の小さな広場を見渡すように広場の入口に立っている。

呆然と目の前にある惨状を見て立ち尽くしている。


「ゔっ」


漂う悪臭に思わず胃液がこみ上げる。

俺の周囲では今も民家が燃え続けている。

魔獣の進行を許した区画の建物は激しい損傷をしている。火災のよって損傷したものではない。降り注いだ火炎弾によって倒壊したのだ。

建物だけではない。地面にもいたるところに、火炎弾によって黒く焦げた直径1~2mほどの跡が残っている。


少し離れた場所で四人組がこちらを見ている。

兵士のように鎧と剣を持った2人の男性。

その二人以上に重装備と盾を持った大柄の男性。

そしてローブを着て杖を持った魔術師のようの女性。

まさに冒険者パーティといった風貌だ。


 4人とも大けがはしていないが装備のいたるところが焼けこげ、ふしぶしから血がが滲んでいる。魔術師然とした女性以外は、地面に座り込んで大きく肩で息をしている。

彼らは先ほどまで、魔獣と戦闘をしていた。


少しの間、彼らの戦いを目撃したが戦いは防戦一方だった。


 近距離職の三人は常人ならざる身体能力をしていたが、炎で覆われた魔獣に近づくことができず攻撃手段をもっていなかった。


 魔術職の女性は三人の支援の合間におそらく氷魔術で援護をしていたが、魔獣に近づく前にその氷も消失してしまっていた。

 誰一人、魔獣にダメージを与えることができずにいた。

だから、村民が避難するまでの時間を稼いでいた。ように見えた。

 魔獣が村人の方に行かないように、魔術でヘイトを集めて攻撃を回避し剣や盾で火炎弾をはじきながら逃げ回っていた。

 見事な連携だったが、一歩間違えただけで全滅しかねない紙一重の戦いのようにも思えた。


 戦いの経験のない俺には彼らが村民の避難が完了するまで、持ちこたえられていたか見極めることができないが、幸いにも彼らの勇敢な時間稼ぎは無駄にはならなかった。


それは村民の避難が完了したからではない。

 それは、偶然この村に訪れた宿泊していた人物が戦場となっていたこの広間に到着するまでの時間稼ぎに成功したから。


そう、先ほどまで猛威を振るっていた魔獣はすでに息絶えている。

その体に炎はもうない。


 今、魔獣は体の側面から巨大な氷塊に貫かれて、体の半分近くが凍り付けになっている。貫通した氷塊は真っ赤に染まり、流れ出た血液は冷気に充てられ赤黒い氷柱となっている。


衝突の勢いで魔獣の口からは血液とともに臓器があふれ出て垂れ下がっていた。

周囲には冷気とむせかえるような濃厚な血液の匂い、吐瀉物の匂いが充満していた。


そんな惨状が目の前に存在している。


 大きな炎に包まれたあの魔獣を見た時、ある種の自然災害のように思えた。

村人は抵抗するのではなく、すぐに村を捨てることを決断したようだった。

冒険者たちも討伐ではなく、時間稼ぎに命を懸けていた。


そんな魔獣が一瞬で殺された。


ほとんどの人間が逃げの選択肢を選ぶような強大な魔獣は、なんの抵抗の余地もなく一人の人間に一撃で殺された。


それを俺は呆然と見ていることしかできなかった。


先ほどまで肌を焼くような熱さだったが、今は息が白くなるほどに冷え込んでいる。

正面に伸ばした右手が震えている。

今になって体が震えはじめる。

 これは目の前にある魔獣の死体に対しての恐怖。

嗅ぎなれない血の匂いによる恐怖。


魔術を放つ際に前に出していた右手を下す。


この世界の理不尽さへの恐怖。


先ほどまで感じていた魔獣に対する絶望感は一瞬にして払われた。

しかし、同時に感じた別の絶望感。


強者とエンカウントすればそこで積みだという事実。

この村が魔獣に襲われたように。この魔獣が氷漬けにされたように。

そして、あの遺跡で彼女が震えていたように。


 日本人が異世界人より良い教育を受け、良い倫理観を持っているからなんだというのだ。

そんな一般常識で覆せるパワーバランスではなかった。

 そう、今の俺には戦うすべも、逃げるすべもなくただ震えている弱者だった。

よく、彼女の手助けをしたいだなんて考えられたものだ。


 異世界は、平和な日本から来た凡人にとってあまりに理不尽な世界だった。

まさに今、それを思い知った。


 これは、一人の現代人が異世界を真正面から満喫するとても愉快な物語。

読んでいただきありがとうございます。

今後、戦闘することはありますが、主人公は無双しないです。たぶん

あしからず

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