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遺跡(アルマ)


私としたことがなぜ、見落としてしまったのか。

きっと、あの男、浅池が話しかけてくるせいで、少し気が抜けてしまっていたからです。

いや・・

私自身が日本での平和な生活に毒されたせいだ。

まぁ、どのみち、あんなものがいるとは予想できなかったわけですが。


遺跡の中心で人の形をした何かが十字架に磔にされていた。 

 

(なあ、あれ生きてたりしないよな・・)


 浅池が沈黙に耐えかねて訊ねてくる。

浅池は見逃したようだが、あれの目はこちらをとらえるように動いていた。

あれには間違いなく意思がある。

 どうして、少女にこれほど、嫌悪感と恐怖を感じるのか。

いや、似たものを感じたことがある。それは悪魔だ。

地球に来る前に何度か目撃したことがある。

 しかし、今まで見た悪魔たちに、呼吸を忘れるほどの圧迫感は感じられなかった。

どちらにしろ、あれは人が関わっていいものではない。


今すぐ引き返すべきか?

いや、今引き返しても、この体調では、遺跡から離れられない。

なら、あれの動きを見て行動するべきか。

もし、あれが身動き取れないなら、見なかったことにして前に進むことができる。

もし、動くなら・・

もし、動くなら・・・・

今の私にできることは・・おそらく、ない・・


「お前はなんだ?」


 突然、そう問われた

心臓が大きくドクンと跳ねる。

声が出せるの?

魔術は?

いや、魔術が使えたら・・

なんだ?ってなに

私の名前のこと、それともここにいる理由?

どういう答えが最適なの?

そもそも、会話をするべき?

どうすればいいか分からない。

足が震えて平衡感覚がわからなくなる。


(アルマ、大丈夫か。)


 ふいに浅池の声が脳内に響いた。

それは励ますというよりは、ずいぶん不安そうな声色だった。

 正直、彼にできることは私以上に何もないだろう。

それでも、今、状況を共有している誰かがいることを感じさせてくれた。

っ、そうだ。大丈夫、大丈夫

いったん落ち着かないと。

そう思い、大きく深呼吸をする。

先ほどまで、空気を取り入れることを拒んでいた肺にたくさんの空気が送り込まれるのを感じる。

落ち着いて、もう一度少女の方を確認する。

 少女は私の様子を見て笑みを浮かべ、また口を開いた。


「答えんか。まぁ良い。では、今は何年だ?」


 ここに閉じ込められてから、どれだけ経ったかが気になってる?

本来、悪魔は嗜虐的な性質を持っている。

簡単に言うと、人を苦しめるか殺すことを行動原理にしている。

 そう考えるとこの少女は悪魔よりも理性的なように感じた。

 もし、私に対しての興味がないのなら、直に答えてここを離れることができるかもしれない。

 今は何年か。地球にいた期間が5年ほど、一日の体感時間はこの世界と地球で大差ない。

1年に関してもほとんど同じ日数だった。

時間の進みに歪みがないとすれば、こちらも5年は経過しているはず。


「今は、翠王歴845年です。」


 私がそう答えると、少女は疑うように眉をひそめた。

何かまずいことを言っただろうか。

嘘をついたと思われている?

そんなことを思っていると、少女が大きく目を見開いた。


「くくっ、は、はっは、そうか、そういうこともあるわな。 では、ニルバレア歴674年から何年たった?」


ニルバレア歴!? 

ニルバレア歴なんて、歴史にしか出てこない。翠王歴以前に使われていたものでしょ。

しかも674年って言った? いや、そんなわけない。

だって、ニルバレア歴は1546年まで、それ以降は翠王歴のはず。

てことは・・


「約・・1700年・・」

「・・・・・・・・くくっ、ははっはっはっ、くはっはっひひひっ、はっはっはははっはっはっくくく、ははは そうか、そうか・・ひひっははっはっはっはっはっははっ」


少女は狂ったように、笑う。

鎖がじゃらじゃらと揺れる。


「くくっ、ふはっはっはっはははっはっはっくくっ、ははっはっはっ、くはっはっ、くくくくくっ、」


 鎖は、遺跡に響き渡る不気味な笑い声に呼応するようにガシャガシャジャラジャラと、激しく揺れる。


 そして・・・

起きてはいけないことが起きた。

ガシャンと右手に巻かれていた鎖が千切れたのだ。

 片手が外れたことで、重心が左手側に揺れる。その勢いで両足を十字架に巻き付けていた鎖も千切れる。

 勢いよく地面に落ちた鎖が砕け散る

 数千年という年月で、鎖は既に限界を迎えていた。


 あっという間に、少女の拘束は左手のみになり、左手の鎖で十字架にぶら下がっている。

そして、全体重がかかったことで、当然のごとく、左手の鎖もはじけ飛んだ。

少女の形をした何かが、地面にべたっと落下した。


いや、そうではなかった。四足で着地していた・・・・・


読んでいただきありがとうございます。

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