遺跡3
何事もなく扉まで来た俺たちは覗き込むように扉の中を見ている。
(すげー!なにこれ)
こちらに来てから、単調な反応しかできてない気がするが、素直にこの感情なのだから仕方ない。
今までで一番すごかった。
今日の冒険が観光なら、ここがメインに間違いないね。
・・ともかく
数十メートル続く通路の先にはドーム状の空間が広がっていた。
ドーム状の外壁には、特に装飾はなく崖と同じく黒ずんだ岩壁になっている。内部には乱雑に太い柱がドームを支えるように立っている。
中心には巨大な白い十字架のようなオブジェクトがあり天井から4本の鎖が十字架の交差点に伸びている。
誰かのお墓なのだろうか。
地面には十字架を中心に石畳の通路が円形に広がっていた。
そして、最も目を引くのは十字架の真上、ドーム状の天井の最も高くなっている場所にある大きな結晶。
複数の水晶が集まったような黄色の結晶が目を細めたくなるほど明るく輝いている。
周囲を見渡しても何も動くようなものはなく、雨音もしない無音のためまるで時間が止まってしまったのかと錯覚してしまいそうだ。
「こんな空間が地下にあるなんて。ですが脅威となるようなものはなさそうです。それに、予想通りありました。」
(あーよかった。)
アルマの視線の先、ちょうど俺たちの対角線に位置する場所にこちらの扉と同じ大きさの扉が存在していた。
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(にしてもよくこんなの作ったなー。)
「そうですね。」
(どれくらい昔の物か、予測できるものもないか)
その当時に使われていた道具などあれば、推測できることもあるかもしれないが、ここには何もないようだ。
「そうですね。ですが、この空間を手作業で掘ったとは考えにくいです。魔術の発展の歴史を考えると古くても500年前程度でしょうか。」
(んー、どうだろう。)
「なんだか不服そうですね」
(いや、500年で入口あんなボロボロになるかなーと思って。案外、手作業って可能性もあるんじゃないか。地球にも数千年前の人類が作った巨大建造物あるわけだし。)
エジプトのピラミッドは5000年近く昔だった気がする。日本人も超デカい古墳を作ってたようだし。実物を見たことがないため、比較はできないが、ここの作成も不可能というわけではないだろう。
「まぁ、そうですね。その可能性もあります。この世界の判明している歴史は地球の世界ほど長くないんです。そのため、過去にこれを作るような文化、もしくは文明があったかもしれません。」
そんなことを話しながら石畳の上を歩く。
(でも、十字架ってことは、やっぱ昔の人の墓ってことなのかなー。こんなデカい墓作るなんてどんな偉人だったんだろうな)
「いえ、お墓ではないと思います。この世界に墓地に十字架を使用する文化はなかったと思いますので。」
あ、そうか。盲点だった。
(たしかに、あれはエピソードありきの文化か。じゃあ十字架の用途といえば・・・)
「(・・・ん)」
そこまで話して俺たちは大きな見落としに気が付いた。
アルマは歩く速度を上げる。
そして、鎖が巻き付いた十字架の交差点だけを見ている。
俺たちはここに入る前にしっかりと何もないことを確認した。
しかし、俺たちが見逃していたのはそれだ。
ここに入る前にアルマは俺たちが来た通路は崖の下に降りるための物だと予想していた。
そして実際、反対側に別の扉があった。
この予想が正しければ、本来は向こうの扉から入るのが正規ルートということで、俺たちが見ている十字架も裏面ということになるのではないだろうか。
十字架の表面は確認できていない。
鎖は本当に巻き付いているだけなのだろうか。
鎖は十字架に何かを縛り付けているのではないだろうか。
いや、誰かが磔にしているのではないだろうか。
通路を進み十字架の側面が見えるようになる。
通路を歩くアルマの足がさらに速まる。
そして、通路が十字架の真横を過ぎて、正面が見えるようになり確信した。
十字架は本来の用途で使われていたのだと。
俺たちが見上げた目線の先で、白髪の少女がこちらを見下ろしていた。
読んでいただきありがとうございます。
何か起こりそうな予感、、、