遺跡1
(なんだこれ?)
「わからないです。なんですかね?これ」
俺たちの目の前には渓谷の岩壁に突如とあいた大きな横穴があった。
これだけ大きな渓谷なのだから、洞窟くらいあるかもしれないとは思っていた。
俺たちが驚いていた理由は、その横穴がどう考えても人工物だったからだ。
相当昔に作られたものなのか劣化が進んでいる。石柱が入口の両端にあるが、片方は中ほどで折れて、横穴の下部をふさいでおり、もう片方も根本から傾いている。入口は谷底より数メートル上にあり、俺たちが歩いてきた方向と逆の壁に沿うように石段が敷かれている。
石段は風化して一部崩れ落ちているが上ることは可能なように見える。
(これは、遺跡? なんか神社のようにも見えなくないけど。こういうのってよく有るの?)
「遺跡のようなものは多くあります。これほど、昔の物になると・・」
周囲を見渡しながら階段の元へ歩く。
俺たちがどうして洞窟を探していたかというと、ふと少し前まで見えていた星空が見えなくなったためである。
こころなしか渓谷内を吹く風も冷たく強くなってきたこともあり、雨が降るのでは?ということで雨風をしのげる場所を探すことになった。
横穴の一つや二つあるだろうということで、歩き始めてすぐにこれを見つけたというわけだ。
階段の近くには石碑があった。石碑には何か文字が掘られていた形跡はあるものの、風化で読める状態ではなかった。
(この中は安全だといんだけど)
「これがどういう用途の物だったのか分かればいいんですが、風化で文字もわかりません。
ですが、崖下にあるこの横穴が遺跡の入口ということはないでしょう。」
(たしかに)
つまり、この遺跡がなんの用途だったとしても、ここは入口ではなく崖の下に降りるための出口のはずだと。それはつまり、地上から遺跡に入るための入口があるいうことだ。
だからと言って無策で入るのは危険に思うが。
たいまつ替わりに火のついた棒をもって来たが、この明かりでは上部にある入口までは照らせず、暗闇になっている。どのくらい奥に続いているかもわからない。
(入口近くでも、雨風はしのげそうだけど、どうする)
「一度、中をのぞいてから考えます。」
そうして、俺たちは風化している石段を登っていく。
石段は上るたびにガラガラと崩れ落ちるが何とか登れそうだ。
ただ見ているだけというのも手持無沙汰である。
かといって、四つん這いで這い上っている彼女に、のんきに話しかけるわけにもいかないか。
ところで、遺跡と言えばどんなものだろうか。
ファンタジーの遺跡といえば、危険がいっぱい!といったイメージだが実際どうなのだろう。
こんな状態の人間が入っていい場所なのだろうか。
岩が転がって来たり、床が抜けて針山に落ちたりするかもしれない。
あと、矢が降って来たり。
モンスターがいたり。
石像が襲ってきたり。
隠し部屋を見つけたり。
宝箱があったり。
宝箱かと思ったらミミックだったり。
最深部にボスがいたり。
あと定番でいうと・・
「遺跡といっても、ほとんどの場合はあなたが想像するようなものはないです。罠があるようなものもないですし、魔獣がでたとしても野生の魔獣です。それこそ、昔の人達が墓地や神殿、住居などに使っていたものの痕跡といったところでしょう。それほど、地球とと大差ないです。まぁ、特例がいくつかあるのも事実ですが。」
俺が無駄なことを考えていることを察してかアルマが話し出した。
(そうなのか。今回のが特例じゃないといいな)
そんなこんな話しているうちに階段を上り切った。
(でけー)
この渓谷自体が巨大で体感できなかったが、遺跡の入口は想像より大きかった。幅6メートル、高さ10メートルくらい。例えるのは難しいが、商店街の通路くらいだろうか。
倒れた石柱の隙間を通って中に入る。床は石畳でできていた。内壁は装飾はなく、岩壁がそのまま利用されており、ところどころ窪みがある。光源でも置かれていたのかもしれない。通路は暗闇の奥まで続いており、やはり先がどうなっているか分からない。
「ふぅ、今のところは何も起きなそうですね。」
そういって、彼女は壁にもたれかかるように、座り込んだ。
外では雨音が聞こえ始めた。
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