吐露
入れ替わりに成功した。
(変われてよかったー。どうやっても入れ替わる手がかりがなかったから、困ってたけど。
ふと、俺の意識が肉体の操作から手を放せば、自動的にアルマが表に出るんじゃないかと思って、寝てみたんだよ。そしたら、俺の推測どおり成功したってわけ。これで両方が意図的に入れ替わる方法が判明したってことか。まぁ一度、寝る必要があるけど)
推測はあっていたみたいだ。
どれくらいの時間が掛かったかわからないが、俺が眠りに落ちた瞬間にアルマの意識が表に出た。
しかし、アルマからの反応はない。
やはり、怒っているのだろうか。
自分の手を見るように少し俯いたあとに固まってしまった。
無言に耐えかねて声をかける。
(アルマさん?)
反応はない。
じわっと目頭が熱くなるのを感じる。
そして徐々に視界はぼやけ始める。
あ、
瞬きと同時に一滴のしずくが頬を伝いスーツに落ちる。
そこから、決壊したように、流れる水滴は、ぽろぽろとスーツにシミを作る。
(アルマさん。涙が・・)
彼女は涙を手で拭いもしない。まるで自分は泣いていないと主張するように。
そんな彼女にどんな言葉をかければいいか分からない。
そして、彼女は話し出した。
鼻をすすりながら、言葉を紡ぐ。
「魔術の失敗で、気づいたら知らない世界でっ・・・言葉も、文明も違って分からないことばかり・・でっ。
魔力も回復しないし、それでも元の世界に戻るために頑張って・・5年間かけて帰る方法を、っ、考えてっ、やっと戻れると思ったのに。
目が覚めたら、こんなことになって、私はどうしたらいいのよ・・どうしてっ、何も上手くいかないのよ・・」
なんて、自分は愚かなんだろう。
俺は何を一人ではしゃいで、饒舌に入れ替わりの説明なんてしたんだろう。
初めて会話したときから賢く冷静。
様々な属性の魔術、異世界に行くような魔術まで使える。
ぴしっとしたスーツを着た、現実味がないほどの美人だった。
平凡な大学生の俺とは異なる存在だと認識していた。
そして、平凡な俺は非日常を楽しもうと思っていた。
本来、そんなことを思う度胸などないはずなのに。
自分より良くできる人間に、問題解決は任せておけば大丈夫だと心の中で安堵して。
つくづく馬鹿だった。
彼女は、知らない世界に投げ出されて、やっとの思いでこの世界に戻ってきたんだ。
5年ぶりに帰れると安堵していたはずだ。
にもかかわらず、目覚めると訳も分からない男に自分の体を乗っ取られた。
そいつが何をしても自分には止めることができない状況。
一度、体を取り戻したときに、もう俺の魂は出て行ったと安心していたかもしれない。
でも、魔力が回復せず魔術も使えず。
動けないほどの怪我も負った。
それでも彼女はめげずに、焚火を焚いて傷の応急処置をしていた。
それなのに、またその男が勝手に体を乗っ取ってきた。
立て続けにそんなことが起きて冷静でいられるわけがない。
彼女は必死に隠していただけだ。
それを、「しっかりした人間だなー」という感想だけで俺は済ませた。
どれだけの精神的負荷に耐えていたか。
対して俺は気遣うことすらしていなかった。
相手の気持ちを考えるとか、自己紹介して親睦を深めるとか。
そんなことを考えておいて、結局、相手の表面的な情報しか考慮できない。
これだから、ボッチは。
こんなんだから、一人になるんだろ。
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