表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/44

吐露


入れ替わりに成功した。


(変われてよかったー。どうやっても入れ替わる手がかりがなかったから、困ってたけど。

ふと、俺の意識が肉体の操作から手を放せば、自動的にアルマが表に出るんじゃないかと思って、寝てみたんだよ。そしたら、俺の推測どおり成功したってわけ。これで両方が意図的に入れ替わる方法が判明したってことか。まぁ一度、寝る必要があるけど)


 推測はあっていたみたいだ。

 どれくらいの時間が掛かったかわからないが、俺が眠りに落ちた瞬間にアルマの意識が表に出た。

しかし、アルマからの反応はない。

やはり、怒っているのだろうか。

自分の手を見るように少し俯いたあとに固まってしまった。

無言に耐えかねて声をかける。


(アルマさん?)


反応はない。

 じわっと目頭が熱くなるのを感じる。

そして徐々に視界はぼやけ始める。

あ、

瞬きと同時に一滴のしずくが頬を伝いスーツに落ちる。

そこから、決壊したように、流れる水滴は、ぽろぽろとスーツにシミを作る。


(アルマさん。涙が・・)


彼女は涙を手で拭いもしない。まるで自分は泣いていないと主張するように。

そんな彼女にどんな言葉をかければいいか分からない。

そして、彼女は話し出した。

鼻をすすりながら、言葉を紡ぐ。


「魔術の失敗で、気づいたら知らない世界でっ・・・言葉も、文明も違って分からないことばかり・・でっ。

 魔力も回復しないし、それでも元の世界に戻るために頑張って・・5年間かけて帰る方法を、っ、考えてっ、やっと戻れると思ったのに。

目が覚めたら、こんなことになって、私はどうしたらいいのよ・・どうしてっ、何も上手くいかないのよ・・」



 なんて、自分は愚かなんだろう。

俺は何を一人ではしゃいで、饒舌に入れ替わりの説明なんてしたんだろう。



初めて会話したときから賢く冷静。

様々な属性の魔術、異世界に行くような魔術まで使える。

ぴしっとしたスーツを着た、現実味がないほどの美人だった。


 平凡な大学生の俺とは異なる存在だと認識していた。

そして、平凡な俺は非日常を楽しもうと思っていた。

本来、そんなことを思う度胸などないはずなのに。

自分より良くできる人間に、問題解決は任せておけば大丈夫だと心の中で安堵して。

 つくづく馬鹿だった。

彼女は、知らない世界に投げ出されて、やっとの思いでこの世界に戻ってきたんだ。

5年ぶりに帰れると安堵していたはずだ。

 にもかかわらず、目覚めると訳も分からない男に自分の体を乗っ取られた。

そいつが何をしても自分には止めることができない状況。

一度、体を取り戻したときに、もう俺の魂は出て行ったと安心していたかもしれない。

 でも、魔力が回復せず魔術も使えず。

動けないほどの怪我も負った。

 それでも彼女はめげずに、焚火を焚いて傷の応急処置をしていた。

 それなのに、またその男が勝手に体を乗っ取ってきた。

 

 立て続けにそんなことが起きて冷静でいられるわけがない。

 彼女は必死に隠していただけだ。

 それを、「しっかりした人間だなー」という感想だけで俺は済ませた。

どれだけの精神的負荷に耐えていたか。

対して俺は気遣うことすらしていなかった。

 相手の気持ちを考えるとか、自己紹介して親睦を深めるとか。

そんなことを考えておいて、結局、相手の表面的な情報しか考慮できない。

 

 これだから、ボッチは。

こんなんだから、一人になるんだろ。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


評価いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ