「非力な女剣士はいらない」とパーティーから追放されたら、美形賢者がついてきました。おまけに私への執着がすごいです〜
「リーン。このパーティーはもう、君みたいな非力な女剣士じゃ力不足なんだ」
――だから、悪いけどここでパーティーから抜けてくれ――。
勇者グレイブがリーンに向かってそれを告げてきたのは。
冒険者ギルドから受けた難易度Aの仕事を達成したまさにその瞬間で――、これからまた危険な【魔の森】を抜けて帰ろうという、その時だった。
「それは……、今すぐに抜けろってこと?」
グレイブの宣告に、リーンが問い返す。
ここでパーティーを抜けて一人で戻れと言うのはつまり、リーンに死ねと言っているも同然だ。
――いや。
本気を出せば、死なずに抜けられはするだろう。
ただし、相当大変だしかなりしんどい道程になるが。
「そぉよぉ! あなたもう、このパーティーにとってはお荷物なの! ここまで来るにも、自分がどれだけ足を引っ張ってきたか気づいてないの?」
そう言って話に割って入ってきたのは、魔術師のアニーだ。
アニーはグレイブに近づくと、彼に腕を絡ませ「そうよね? グレイブ?」と言って、グレイブの同意を得ようとする。
――アニーがリーンのことを、目障りだと思っているのは察していた。
リーンとグレイブは、もともと親同士が決めた許嫁であり、幼馴染でもあった。
それが、事情が大きく変わったのは、グレイブが神殿から勇者として神託を受けたからだ。
「そうだ。僕は――、僕らには、魔王を倒すという使命がある。だからこのパーティーには、君よりももっと強い剣士を雇い入れることにしたんだ」
この仕事が終わったら、紹介してもらう手筈になっている、とグレイブが言う。
「……そう」
グレイブの言葉に、リーンは短く答える。
リーンは――、足を引っ張ったと言われたが。
それはただ、許嫁の親である、グレイブの父に頼まれた通りにしていただけだ。
『魔物と戦う時――リーンではなくグレイブにとどめを刺させて、彼に経験値のほとんどを与えるようにすること――』
彼の父に約束させられたその内容に従い、リーンはずっと、魔物にとどめを刺すことをせず、グレイブに魔物を仕留めさせるよう加減をしてきた。
リーンの出自はセルヴィニア男爵家といって、昔から優秀な騎士を多く輩出し、武功を立ててきた家だった。
グレイブの実家であるコリントス子爵家とは所領が隣同士で、そういったこともあって昔から交流の多い間柄でもあり。
コリントス家の子供たちは、ある一定の年齢になると皆セルヴィニア家に剣術を習いに来る、と言うのが習わしだった。
年が近かったリーンとグレイブは、自然一緒に剣の稽古をするようになり、それをみていた親たちが「将来二人が一緒になれば安泰だな!」と勝手に婚約を決めたのだが。
それが、グレイブが勇者の神託を受けたことで、大きく変わることとなる。
『リーン。お前はグレイブと共に旅立ち、彼を守ってやりなさい――』
そう、父に言われ。
『グレイブはお前よりも魔物退治の経験が少ない。だから、お前がグレイブを助けてやってくれ』
とグレイブの父に頼まれたのだ。
「――私、あなたのご両親からも、あなたのことを頼むと言われているのだけど」
「はぁ!? 何が頼むよ!? 足引っ張ってるくせによくそんなこといけしゃあしゃあと言えるわね!」
グレイブに向けた言葉だったのだが、アニーが息巻いて反論してくる。
「……あなたもそう思ってるの? グレイブ」
「……ああ」
リーンの問いかけに、グレイブはどこか気まずそうに目を逸らして答えた。
(……これ以上はもう、話し合っても無意味か)
リーンは顔には出さず、内心で静かに潮時を悟った。
グレイブが、アニーのことを好きになってしまっているのも気づいていた。
そのことでグレイブが、リーンに対して申し訳なく思っているのだということも。
今回のことも、大方アニーに唆されたのだろう。
そして、気の弱いグレイブは、それを断りきれなかったのだ。
「わかった」
と、リーンは静かに受け入れた。
「グレイブ。それでも私は――、パーティーを抜けてもずっと、あなたの幼馴染だから。何か困ったことがあったら私に言ってね」
これから先の彼の旅は、ますます険しくなることだろう。
気の弱い彼が、それに耐えていけるのかリーンは心配だった。
しかし今、こうしてパーティーを抜けさせられてしまう以上、もうどうにもすることができないのだ。
「はぁ!? 足手まといの弱っちいほうが何偉そうに言ってんのよ! まったく……、実力を測れないやつは空気も読めないんだから……!」
「あのさ」
リーンの言葉に対しぎゃあぎゃあと喚き散らすアニーだったが、それに対して別から、言葉を差し挟んでくる声があった。
それまでずっと沈黙を貫いていた――、賢者のノアだ。
「リーンが抜けるなら、俺も抜けるわ」
「……はぁ?」
場違いにのんきな調子で発言するノアに、アニーがドスの効いた声を上げる。
「何言ってるのよノア?」
「だって俺、リーンのことが好きだし」
ノアの言葉に、場に沈黙が生まれる。
「……は?」
「好きな子が抜けさせられるっていうなら、着いていくのは当然でしょ」
「はぁ!? あなた何言ってるのよ!? 昨日この話をした時に、あなたもいいって言ったじゃない!」
「リーンを抜けさせること? それはいいとは言ったけど」
――俺が抜けないとも言ってないよね――、と。
いけしゃあしゃあとノアが言葉を連ねる。
「詭弁よ!」
「そうは言われても。俺、君たちに興味ないしなあ」
「ちょっと、あなたね……!」
「アニー」
ぎゃあぎゃあと(騒ぎ立てているのはアニーだけだが)喚くアニーとノアに、グレイブが言葉を刺す。
「もういいよ。やる気がない奴をパーティーにおいても意味がない」
「でも……!」
まだ納得のいかないという様子のアニーを押さえて、グレイブが続ける。
「魔王討伐を目指す僕らに、中途半端な仲間はいらないんだ。彼の代わりも、また新しい人間を探せばいい」
そう言ってグレイブは「アニー」と言って、アニーに何かを指図した。
言われたアニーは、自分の道具袋からあるものを取り出す。
それは――、パーティーで後衛のアニーだけが持たされていた、高価な【転移石】だ。
「悪いけど、パーティーを抜けるというなら僕たちはここで君らを置いて帰るよ。仲間でなくなった君たちに、貴重な【転移石】を使えないしね」
グレイブの言葉に――、アニーが作動させたのだろう。
【転移石】が俄かに輝き出す。
「ふん! 役立たず同士、力を合わせて森を抜けられるといいわね!」
姿が消えかける中、アニーが舌を出しながら捨て台詞を吐く。
そうして――、眩い光を放った後。
リーンとノアを残し、二人は完全に消失したのだった。
※ ※ ※
グレイブとアニーが去った後。
残されたリーンは、気持ちを切り替えるために小さくため息をつき、それからもう一人の残留者に向かって問いかけた。
「……一体、どういうこと?」
「どういう、と言うと?」
「あなた、勇者パーティーに入りたくてうちに来たんじゃないの?」
「えっ、そっち?」
てっきり、『リーンが好き発言』のことを追求されるのだと思っていたノアは、リーンの質問の矛先が予想と違っていたことに拍子抜けした。
「そっちじゃないほうは後で聞く。あなた、『勇者のいるパーティーに興味がある』って言ってこのパーティーに入ってきたのに。どういうつもりなの?」
「どういう……、と言われても……」
リーンの言葉に、ノアが困ったようにぽりぽりと頬を掻く。
「まあ、端的に言うと……、あいつは俺の探してた勇者じゃなかった、ってことかなあ」
だからもう、それは別にいいんだとノアがさらりと言う。
「それよりもむしろ今は、リーンに興味ある」
「……近い、気安い」
そう言ってリーンは、己の肩に手を乗せてきたノアの手を軽く払い除け、くるりと距離をとってノアに向かって対峙する。
「……正直、残ってくれたのは助かる。私一人でもこの森を抜けられないことはないけど。回復できる人がいてくれるのは心強い」
4人でパーティーを組んでも、ここまでくるのに丸一日かかったのだ。
帰りは単純に外を目指せばいいだけだとしても、場合によっては野宿も必要になる。
そう考えると、戦力としては数えられなくても、回復してくれることができる人物――、それだけじゃなく、交代で見張り番ができる相手がいてくれるだけでも心強かった。
「……あのさ」
「なに?」
「……森、抜ける必要ある?」
「……は?」
ノアの質問の意図するところが分からず聞き返す。
「いや、この森に、まだ用があるのなら抜けていくのも付き合うけども」
無いなら無駄に体力使う必要もないかなあ、とノアが言う。
「どういうこと? もしかしてノア、転移石を持ってるの?」
「いや、転移石はない。でも」
こういうことならできるよ、と。
ノアが再びリーンの肩にぽん、と手を置いた瞬間。
ふっ……、と。
何の前触れもなく、周囲の景色が変わった。
――周囲が、緑に満ちた森ではなく、人工的な建造物に変わる。
――静寂に満ちていた森から、人間の気配溢れる人の地へと。
「――転移?」
リーンが、信じられない面持ちでノアを見上げる。
転移が使える術者なんて、世界中数えてもおそらく片手にも満たない。
そもそも、攻撃・回復魔術の両方が使える、賢者という職種の時点で只者ではないが――。
(これはちょっと、規格外すぎでは――?)
一体どういうことなのか。
リーンが、ノアに向かってさらに詰め寄ろうとした時だ。
「……殿下!」
周囲からわらわらと――、リーン達を目掛けて集まってくる人の気配を感じた。
――殿下?
未だ状況が掴めていないリーンは、警戒しながら周囲の状況を理解しようと努める。
「おかえりなさいませ殿下! とうとう、見つけられたのですね! 花嫁を!」
「………………は?」
目の前で、にこにこと微笑むノア。
周囲には、ノアに向かって平伏する兵士らしき人たち。
そして――。
その中心にいるのは、私だ。
は……、花嫁!?
窮途末路。
急転直下。
あまりに急展開すぎる話に、心の中でリーンはあらん限りの驚愕の声を上げた。
■■
「――それで? ノアゼス・ザルツ・アル・キルキス第三王子殿下?」
「……なんだかやたらと含みと圧を感じるんだけど……。なに? リーン」
ここは、キルキス王国王城にある第三王子の部屋。
いまそこでまさに、リーンとノアは向かい合わせに座っていた。
「……なんで、王子殿下が冒険者なんてやってるんですか」
そう言って、リーンはノアをじとりと睨む。
言いながら、自分にも自問自答する。
――果たして、王子が冒険者をやって良いか良くないか――。
別に、悪いことはない、と思う。
ただし、自分が仲間だと思っていた相手から突然王子だと驚かされなければ、だが。
「不敬罪とかで罪に問われたりしませんよね」
「しないし、別に俺の立場がどうだって、リーンとの関係は変わらない。だから、むしろ敬語とかやめてほしいんだけど」
そうは言われても。
王族だって分かった時点で、反射的に敬語になってしまう。
二人だけの時ならばまだいいが、第三者がいる時に聞かれたりでもしたら、それこそ不敬だと怒られるのでは? とリーンは思う。
「やめてくれないなら、別に今すぐにお嫁さんにしてもいいんだけど」
「だから、なんなんですそれ」
嫁だの、なんだの――。
大体、嫁に来てほしいと言われるほど、こっちはまだノアとの関係値がないと思っているのだ。
そもそもノアも、もといた僧侶を追い出しあのパーティーに入ってきたばかりだった。
ノアがパーティーに入ってきてからまだ一月足らず。
突然言われたって困惑しかないではないか。
「ひとめぼれしたんだ」
――軽い。
「軽い」
心の中だけで思っていたつもりが、つい口にも出てしまっていた――。
「心外だなあ。リーンは、運命とかそういうの、信じないタイプ?」
何が運命だ。
さきほどから、ふざけた言葉しか吐かない男を反目で睨む。
「まあいいか。信じてもらえないなら、これから時間をかけて口説くしかないね」
「時間をかけて口説くと言われても」
「うん?」
「私とあなたで、どう時間をかけると?」
一介の男爵令嬢出の冒険者と、国の第三王子。
どう考えてもこれ以上接点があるとは思えない。
「え? だって俺たち、パーティーでしょ?」
「え?」
「いや、パーティーというよりは、二人になったことだし、バディ?」
「あの、何を言っているのか、さっぱり……」
さっきから話が噛み合わなさすぎて、全然進まない。
要領を得ないノアの言葉に、リーンは少しずつ苛立ちを募らせていく。
「……まさかリーン。俺が王子だって分かったからって、パーティーを解消しようと思ってるの――?」
「思っているのというか……。いややっぱり全然わからないんですけど」
解消も何も。
こっちは、つい先ほどパーティーから追放されたばかりで、これからどうするかとかも全く考えるに至っていないのだ。
ノアも「リーンについていきたいから」と一緒に抜けては来たが、その後どうするかとかも何も決めていなかったし、まして相手が王子だなどとは思ってもいなかった。
何も決まっていない状態で矢継ぎ早に言われたとて、こちらも答えようがないではないか、とリーンは思う。
そんな、理不尽な思いを募らせていたところに、ノアが「まあ、冗談はほどほどにして、ちゃんと説明しようか」と言い出した。
そうしてノアは――、その無駄に整った顔に嫣然と笑みを浮かべながら、こちらに向かって説明を始めた。
「リーンは、今この世界に勇者が何人いるか知ってる?」
「5人です。グレイブと、その他に4人神託を受けた者がいると聞いています」
そう、正解だ――、とノアが答える。
「でも、そのうちの4人は偽物だと言ったら――?」
5人のうち、1人だけが本物で、残りが偽物の勇者だとしたら。
ノアの言葉に、リーンは眉根を寄せる。
「……つまりそれは、他の4人には偽の神託をくだしている、と?」
「ご名答。察しがいいね。話が早い子は好きだよ」
と、ノアがにっこりと微笑む。
ノアが言うには、こうだ。
数百年ぶりに魔王誕生の神託が出たのに数年遅れて、勇者の出現を知らせる神託が下りた。
しかし、中央神殿からその報告を聞いた王国連合は――、1人の人間に『勇者だ』と神託を下すことに、リスクがあると考えたのだ。
明確に誰か1人を勇者として名指してしまうと、まず間違いなくその者が魔族からの集中攻撃を受ける対象となる。
故に――、本物と年頃の近い子供たちをダミーの勇者として立て、魔族たちを惑わそうというのが王国連合の取った策なのだと。
「じゃあ――、グレイブは本物の勇者じゃない、ということ?」
「さあねえ。実際のところ、俺も誰が本物の勇者なのかまでは知らされてない。王国連合も一枚岩じゃないし、さらに言うと、やつらは魔王さえなんとかしてくれれば、それが本物だろうが偽物だろうがどうでもいいのさ」
例え偽物の勇者だったとしても、倒してしまえば本物になる。
自国の勇者が魔王を仕留めれば、その国は他の連合国から多額の謝礼金を受け取ることになる。
だから、各国の為政者たちは、自国の勇者が本物であるか無しかに関わらず、総力を上げて勇者たちを支援するのだ。
「よく出来てるよ。魔王討伐まで競争社会だ」
そう言って、ノアがどこか嘲るように笑う。
「それで――、それはあなたが冒険者をやっているのと、何の関係があるんです?」
そもそもの疑問の出発点はそこだ。
勇者の話を切り出されたことで、本筋を危うく忘れかけそうになったが、一番聞きたかった肝心なことをリーンは尋ねた。
「――王家の三男坊っていうのは、なんとも宙ぶらりんでね。やることないなら、各国の勇者の資質と可能性を見極めてこいって言われてる」
――長男は王位継承者。
次男はその補佐、ないし補填要員。
これといって役割のない三男は、ならばせめて国の役に立つことでもやってこい――と。
「幸いというかなんというか。魔術の腕だけはべらぼうに高かったんでね。さくっと冒険者登録して、無事賢者の職種を得たってわけ」
「――。」
ノアはさらりと言うが、其の実、言っていることはとんでもない。
普通、賢者の職種を得られるのは、魔術師になって4大基礎魔術を極め、さらにそれとは別属性の治癒魔術を極めたものだけだ。
その逆も然り。
だいたい、そのレベルに達するまでに、どんなに優秀な魔術師でも数十年かかると言われている。
しかしどう見てもノアは、20代そこそこにしか見えない。
たとえ王族だからといって、職業判定に忖度はない。
――つまりは、この目の前の男は。
正真正銘、魔術の天才、という事だ。
「あれ? もしかして何か? ちょっとは惚れ直してくれた?」
「……直すも何も。そもそも惚れてない」
ノアの軽口を、リーンがバッサリと切る。
「つまりは、それが理由で――、あなたは勇者パーティーを探して渡り歩いてる、と」
「まあ、そういうことになるかな」
ノアの答えに、リーンはなるほど、と納得する。
言っていることは確かに筋が通っている。
なんでノアがリーン達のパーティーにわざわざ入りたいとやってきたのかまでは納得できる。
でも。
「グレイブじゃなく私に興味があるって。あれはなんなの? あと花嫁って」
――そう。
なんでこのキルキス城に戻ってきただけで、あんなに花嫁扱いで盛り上がったのか。
いままでの勇者の話と全くつながらなくて、リーンはノアに説明を求めた。
「あれは――、まさか王家の人間が勇者査定の旅に出るなんておおっぴらに言えないでしょ。だから、表向きはお嫁さん探しって体で外に出ていて」
「……はぁ」
「それで、満を持して俺がかわいい女の子を連れてきたから、みんなが誤解したと」
「誤解なら誤解と、ちゃんと周りにも説明すべきでしょうが!」
「いやあでも、俺個人としては別にまあいっかなって。あいたっ!」
あくまでもふざけた態度を崩さないノアに、リーンはティーカップに添えられていた角砂糖を手に取り、ノアの額に向けてつぶてを放つ。
「まあいっか、じゃないでしょう!? 人の人生を……!」
「いや待って待って! まだ話は終わってないから!」
続きがあるから、続きが! と、二個目のつぶてを放とうとするリーンに向かって、ノアが額を抑えながら慌てて言い募る。
「続き?」
「さっきの、勇者についての話」
「…………」
ああ痛い、と大仰に額をさするノアに、リーンは手にしていた角砂糖を皿に戻し、話を聞く体制に戻る。
「勇者の話はあれで終わりじゃなかったの?」
「うん、まあ……。これは俺の仮説なんだけど」
あのさ、と、ノアがこちらに身を乗りだし――、聞かれて困る相手がいるわけでもないのに、声を顰めて尋ねてきた。
「あいつが勇者だって言われた時。リーンもその場にいた?」
――と。
「…………」
「ああ、やっぱりね」
「まだ何もいってませんけど」
「いや、言わなくてもわかるよ」
顔に書いてある、とノアが言う。
「――っ」
「いやでもやっぱり、そうだよなぁ。それだと辻褄合うもんな」
「だから、なにが――」
「わかってるんだろ? うっすらとは。ここまでの流れで察しない方がおかしいだろ」
「……」
ノアの追求に、リーンが押しだまる。
「本当に神託が下りたのは、グレイブじゃなくリーンだった、って可能性をさ」