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魅了魔術(5)

「…………それって」


 ジュリアンを見下ろしながら、私は考えるように口を開く。

 私が近くにいたから、彼への魅了のかかりは浅かった。私に見られたくないから抵抗できた。


 それは、つまり――――。


「魅了に対抗するには、気をしっかり持てって言うことね? 落ち込んでいるとか、後ろ向きな性格の人は気を付けたほうが良さそうね。特に失恋中の相手は、絶対に近づけるわけにはいかないわ」


 なるほど。その理屈はよくわかる。

 心が弱っているときは、魅了魔術ではなくとも悪い相手に引っかかりやすいもの。

 失恋した直後に異性に慰められて、そのまま好きになってしまうのと似たようなものだ。


「…………」

「それで、ジュリアンはかかりが浅かったっていうけど、実際にどれくらいで正気に戻ったの? あなたより深くかかった人たちはどう?」

「………………まあ、そんな反応だろうと思ってたけど」


 知ってた、とつぶやくジュリアンは、やはり複雑そうな顔だった。

 なにか知っていることがあるのなら、早々に吐き出してほしいものである。


「……実際に、ねえ。とっさに魔力を張って、すぐに離れた僕が半日くらい。ルシアを見逃したヴァニタス卿の部下たちが数日。ルシアを許せないライナスは、結構長く傍にいたはずだけどすぐに戻った。一応彼も魔術の素養はあるけど、それにしたって最速だったな」


 ちなみにそのライナス、王太子付きの護衛でありながら現在は姿が見えない。

 いったいどこに行ったかと言うと――。


「ガチギレしすぎてすごいことになってたから、ヴァニタス卿のところに送った。ライナス、腕だけなら王宮最強だから、あの人なら上手く使ってくれるでしょ」

「………………」


 ――…………ま、まあ、逆鱗に触れたようなものだものね。


 一年前の追放でも懲りず、反省の色もなく隣国皇子と王宮に乗り込み、あまつさえ魅了魔術を使っているのだ。ライナスに魅了を仕掛けた姉はもちろん、魅了にかかった自分自身もライナスは許せなかったに違いない。

 忠義心が強すぎるというか、生真面目すぎるライナスにとって、今の王宮の光景は耐えられないだろう。騎士としてはもう少し自制するべきだとも思うけれど、彼の気持ち自体は理解できる。


 理解できるけれど、王宮の警備から外されるのも致し方ない。

 ヴァニタス卿のところで、いったん頭を冷やしてくるべきである。


「――で、話は戻るけど。他の魅了にかかった人間はまだ元に戻っていない。放っておくとルシアのところに行きたがるし、ルシアのことになると話が噛み合わなくなる。何人かは力尽くでもルシアのところに行きたがるから、今は拘束して隔離している」


 私が横に逸らした話題を戻し、ジュリアンは椅子に座り直して腕を組む。

 ついでに足も組んで、お手上げとでも言いたげに肩を竦めた。


「ひとまず、対策は考え中。監視をするにしても閉じ込めるにしても、近寄るだけで魅了されるんだ。だけど自由に出歩かせても被害が増えるしで、ずっと会議をしてるけど話がまとまっていない。――――とまあ、僕の方で起きたことはこんなところ」


 ジュリアンはそこで言葉を切る。

 するべき話は終わったのだろう。彼は切り替えるように頭を振ると、「それで――」と私に話を向けた。


「リリアの方は、僕がいない間になにかあった?」


 それはもう、山のようにあった。


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