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僕の友達は夜行性  作者: 夜狐
3/10

正体

今回は少し短めです。

 男の持つナイフが、振り返った咲月の腹部に深く突き刺さった。

「腕っぷしはあるみてぇだが、コイツはどうだ……?」

小太りのチンピラは咲月の身体からナイフを抜いて笑った。咲月の表情は陽平からは見えない。彼女は素早く腕を伸ばした。2回男に避けられたが、3回目で彼の腕を掴むとそのまま手首に噛み付く。男は悲鳴を上げてナイフを落とした。彼女はそれを拾うと男の手を斬りつける。

「畜生!化け物かよ!!」

ナイフを刺されても平気で動ける咲月を見て男は怖気付き、一目散に走り去った。残された2人も、咲月のナイフに気付くと身体をもつれさせながら逃げ出した。彼女は追うようなことはせず、彼らが視界から消えるのを黙って見ていた。


「咲月、無事か?」

陽平は彼女の前に回り、傷の具合を見ようとした。

「大丈夫だよ。びっくりしたけど」

グリーンのジャケットの下に着た、白いTシャツが血で真っ赤に染まっていた。地面にも滴り、かなりの出血だと分かる。

「うわ、これお気に入りだったのに穴空いちゃったよ……また古着屋で似たやつ探さないと……」

「そんなこと言ってる場合かよ!すごい血じゃないか!今救急車を呼ぶから!」

陽平は慌てて携帯を取り出す。手を滑らせて、地面に落としてしまった。

「大丈夫だって。血は止まったし痛くないから」

彼女は苦しむ様子もなく平然としていた。

「それでも何かあったら大変だ。感染症になるとか内臓に当たってたらやばいとか聞いたことあるし……」

「本当に平気だから!大事にしないで!」

咲月は陽平の腕を掴んだ。女性らしい細い腕だが、陽平とはかなり力の差があった。

「大事だよ!刺されてるんだから!」

それでも不良3人を相手にした時よりは加減したのか、簡単に振り払うことが出来た。陽平は拾い上げた携帯で電話を掛けようとした。

「これ、見て」

咲月は唐突にシャツを捲り上げた。突然過ぎる行動に陽平は思わず目を逸らした。

「ちゃんと見て、ここ。大丈夫なの分かるから」

そう言われ、彼女の腹部を見た。大量の血が流れた跡があり、赤く染まっている。だが

「傷が……」

その血が流れた場所を見ても傷が見当たらなかった。

「傷はもう塞がったんだ」

彼女はそっと刺された場所を指でなぞった。ただそこには血の跡があるだけで、傷など見当たらなかった。

「なんで……でもこんなに血が……」

傷の治りが早い、で済む話ではない。かと言って刺されていないとも考えられない。

「もう隠しようがないかな。私はね、人間じゃないんだ」

咲月の言葉は確かに聞こえた。だが理解が出来なかった。


 「人間じゃ、ない……」

「そう。人間の言葉だと妖怪、化け物、怪物、この辺りで曖昧に形容するのが適切かな。長い寿命に、不思議な力の数々」

そう言われても、理解が追い付かない。確かに彼女には不良3人を簡単に叩きのめす力があり、ナイフで刺された傷もすぐに塞がった。これなら人間でないと言われた方が納得は出来る。だが実際目の前に人ならざる物がいることを受け入れるのは容易ではなかった。

「これならどう?」

すると彼女は男から奪ったナイフで自分の腕を浅く切った。

「何をして……」

「いいから見て」

強い口調で彼女に言われ、赤い血の流れる傷口を見る。細い傷口から少しの間出血していたが、すぐに血が止まり、塞がる。そして血を拭うと後には何も残らなかった。

「これくらいなら一瞬で治るの。首斬られたって、すぐに生き返る」

「……不死身なのか?」

「ほとんどね。短時間に何度もやられたら死んじゃうらしいけど」

目の前で傷が治るのを見てしまった。そうなると、信じるしかなかった。だが、彼女はさらに続ける。

「他にはこんなことも」

咲月はそう言い、軽々と近くの家の屋根に飛び上がった。そしてまた跳躍し、綺麗に宙返りをして着地した。ほとんど音を立てずにだ。

「これで信じてくれるかな?」

「……うん」

ここまで人間離れした芸当を見せられては、もはや信じるしかなかった。しかし今度はそれによりある種の恐怖が陽平を襲った。この人外の存在である彼女は、安全なのだろうかと。

「あ、言い忘れてた。私人間食べたりとかしないから。さっき噛み付いたときも不味って思ったし、人間好きだしさ。勿論食べる意味じゃないよ?」

それを見抜いたように彼女は否定した。

「私は化け物だけど、人間とは友好的な関係でいたいと思ってる。自分から危害を加えたりはしないし、命を奪うなんてね……」

「本当に……?」

「うん。本当。普通に君と友達になりたいだけなんだよ。こんな私でもよかったら、これからも友達でいてくれるかな……」

そう言うと彼女は腕を伸ばし、握手を求める。陽平は少し躊躇った。しかし、彼女が嘘を言っているようには見えない。秘密を知った今でも、彼女は普通の人間に見えた。せっかく出来た友達なんだ。陽平そう思って恐る恐る、ゆっくりと腕を伸ばし、彼女の手を握った。

「いいよ。これからも友達」

「よかった!ありがとうね!」

彼女はそれを嬉しそうに握り返した。人外であることを感じさせない、不良3人を軽々倒せるとは思えない優しい握り方だった。

「とりあえず、今日はもう帰らない?その服洗った方がいいよ」

「そうだね。あ、これ血落としてもっと穴開けたらダメージファッションみたいにオシャレになるかな?」

「それは……どうかな……。あと今は隠した方がいいんじゃない?ジャケットの前閉じてさ」

「そうだね。見つかって騒ぎになったら大変」

転々と街頭に照らされた夜道を2人は帰った。彼女の秘密には驚かされたが、陽平はそれを知ったことで、より親密になれた気がした。彼女に守られる形になったことで、僅かばかり男としてのプライドに感じるものがあったが、それ以上に心強くも感じた。

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