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僕の友達は夜行性  作者: 夜狐
2/10

曇り空

 その夜、2人はコンビニで買ったアイスを食べながら住宅街を歩いていた。1本袋に入ったタイプで咲月はチョコレート、陽平はバニラ味を選んだ。まだ寒くなく、アイスが美味しい時期だ。咲月と友達になってから、2週間、こうして夜に散歩するのが3日に1回程度あった。しかし、彼女は昼間遊びに誘っても、答えてくれなかった。

「咲月は結構夜遊びに慣れてるんだよね?」

「そうだよ。私は夜行性だからね」

「じゃあクラブとかバーとか行ったことある?」

少し背の高い彼女には、そう言った大人に雰囲気の場所がよく似合う。だから陽平は彼女にそう聞いてみたのだ。

「あるにはあるよ。大分前だけど」

「どんな感じだった?」

「バーの雰囲気は良かったけど、お酒に詳しかったり常連にならないとあんまり楽しめないかな。クラブは……ナンパされるからやめた」

彼女は笑いながら言った。世間的に見てどうかは分からないが、陽平は少なくとも咲月ならされてもおかしくはないとは思った。

「どんな感じだったの?それ」

そして、その自分には縁が無いであろう世界も気になった。

「音楽うるさくて口説き文句がよく聞こえなかった。まぁ暇だからクラブとは別のバーで飲み直すのには付き合ったよ。その後は……」

咲月は一旦話を切った。その後を想像をして、目を逸らした陽平の反応を楽しんでいるようにも見えた。

「普通に帰った」

それを聞いてある程度想像していた陽平は肩透かしを食らったように感じた。

「そのまま……何事もなく?」

「そ。そいつも夜景見ようとか誘っては来たけど、その夜は充分時間潰せたからもういいかなって」

「怒られなかった?」

「まぁ、別れ際に『なんだよ!』とか言ってるの聞こえたね」

陽平はナンパをするような趣味はない。だがそこまで順調に進んであっさり帰られたとなると、その男に若干同情した。

「クラブはそういうのばっかりだからもう行かない。恋愛するにしても、タイプのはいないし」

「じゃあ、最近は何を?」

「今みたいに散歩とか?当てもなく歩くことが多いね。たまにカラオケとかゲーセン行くこともあるかな。やってればだけど」

「友達と?」

「基本一人。たまに寂しくなる時もあるんだ。だから君に声を掛けたんだよ」

意外だった。まだ会って時間は短いが、咲月は友好的で友達が多いタイプに見えたからだ。陽平は少し、彼女が近いしい存在に感じられた。

「人間関係って難しいよね」

「僕もそう思うよ。学校じゃその……浮いてるし」

「そっか。学生も大変なんだね」

陽平は一瞬深く追求されるかと不安になった。だが咲月は軽く流すとすぐ別の話題に変えた。追求はされたくなかった筈だが、どこか残念にも感じた。


「そう言えばまだ連絡先交換してなかったね。してもいい?」

「全然いいよ」

ふと陽平は思い立ち、ポケットから携帯を取り出した。

「じゃあこれ読み込んで」

チャットアプリのQRコードを表示し、咲月に見せる。

「なにこれ?」

「え?知らないの?このアプリ」

首を傾げる彼女に陽平は衝撃を受けた。陽平でさえ親や数少ない友人との連絡に使っている。

「あー……若者の間で流行ってるんだっけ?私やる相手いないからさ」

「若者って……咲月も僕より少し歳上なだけでしょ。……流石にスマホはあるよね?」

「それはあるよ。古いやつだけど」

彼女は上着のポケットからスマホを取り出す。古い機種だがまだ許容範囲だ。陽平は彼女にチャットアプリをダウンロードさせた。

「咲月ってあんまりスマホ使わない人?」

「現代人の中ではそうなんじゃない?一応動画とかSNS覗いたりはしてるけど」

確かに彼女はプロフィール作成自体はスムーズに行えていた。

「これで追加出来たから……試しに何か送ってみて?」

「分かった。……届いた?」

陽平の携帯から通知音がした。彼女から「テスト」と送られていた。

「咲月って普段どうやって連絡取ってるの?」

「電話か、口約束かな」

陽平は彼女が大分世間とずれていると感じた。しかし、元々彼女は、どこか変わってるというイメージがあり、驚きはしたが違和感は少なかった。


 話しながら歩くと、2人はいつの間にか知らない場所に辿り着いた。と言っても真っ直ぐ歩いて来て、近くにはよく知った大通りもあるため迷う程ではなかった。それでもちょっとした冒険気分だった。空は曇っているのか、星も月も見えない。街灯が無ければ闇に包まれていただろう。ふと、咲月が立ち止まる。

「ねぇ、今日はこの辺で引き返さない?」

「別にいいけど、何かあるの?」

「この辺り治安悪いの思い出した」

そう言うと彼女は踵を返した。だが陽平は初めて聞く話だった。この場所も彼の地元の範囲に含まれている。

「そうなのか?事件とかの話は知らないけど……」

「そこまでじゃないんだけどさ、夜はヤカラが出歩いてるんだよね。近くに溜まり場もあるみたいだし」

理由を聞いて納得した。陽平もそう言った連中に絡まれるのは避けたい。2人は早めに歩いてその辺りを抜け出そうとした。大通りまで出れば絡まれるリスクも低いだろう。


 しかしこの日は運が悪かった。曲がり角の先から一目で不良と分かる3人組が現れた。その上、目まであってしまった。陽平は道の端に寄り、視線を下げて足速に通り過ぎようとした。

「おい、お前陽平だろ!俺のこと覚えてるか?」

最悪だ。思わず顔を上げると、3人組で1番背の低い、刈り上げた髪型の男は中学の同級生だった。

「真面目気取ってたんに女連れて夜遊びとか生意気だなおい」

彼、倉本は笑いながら言った。

「誰?お前のダチ?」

「中学んときのダチっすよ。俺達仲良かったよな?」

そう答えると彼は陽平の肩に腕を回した。だがそれはほんとんどヘッドロックだった。

「もしかして前言ってたネクラ君?」

「そうっす。コイツすぐ泣く弱虫だから鍛えてやってたんすよ」

話し方からして、他2人は倉本より歳上なのだろう。1人は背が高い長髪で、もう1人は小太りに茶髪の頭だ。陽平はどうにか逃げようと動くが、彼の力には敵わなかった。中学の時と同じだ。

「い、急いでるからさ、離してくれないかな……」

「あ?せっかくだからゆっくりしてけよ。なぁ?」

そう囁くと腕を離した。だが逃すつもりはないようだ。

「ネクラのガリ勉にしちゃあいい女連れてるじゃねぇか。コイツ捨てて俺達と遊ばね?」

太った方が咲月に声をかけた。

「お断りするよ。ごめんね」

彼女は堂々と断ると陽平の手を取って歩き出した。しかし、倉本が彼の反対の腕を強く掴む。「痛い」と思わず声が出るほどの力だ。

「離してくれるかな」

そう言ったのは咲月だ。彼女は強引に倉本の手を外した。

「てめぇ女だからって調子くれてんじゃねぇぞ?後陽平おめぇ恥ずかしくねぇのか?」

咲月の行動が気に入らなかったのか彼は睨み付けた。

「い、行こう」

陽平は彼のその表情を知っていた。手が出る数秒前だ。咲月の手を引いて逃げようとするが、肩を掴んで阻まれた。そして、そこに重い一撃が加えられる。鈍痛と衝撃に唸り声が出た。

「今のはナメた態度の分だ。そんで、コイツが調子乗ってる分だ」

続いて胸にも拳が叩き込まれる。「痛そー」と彼の後ろの2人が笑った。

「久しぶりに遊んでやるよ」

倉本は嗜虐的に笑うと陽平を殴り続けた。フェイントや蹴りも交えて一方的に攻撃を加える。陽平も腕で攻撃を防ごうとはした。だが喧嘩慣れした倉本はその隙を縫って身体を殴り、運良く防げても鍛えていない腕に打撃はよく響いた。


 思わず目を瞑りただ痛みに耐えていると、突然の鈍い音と共に攻撃が止んだ。目を開けると、咲月が倉本の頭を掴み、ブロック塀に打ち付けた所だった。

「ごめん。もっと早くこうするべきだったね」

彼女は静かにそう言うと、陽平の前に立った。陽平は彼女の雰囲気が変わったのを感じた。

「おいクソ女、後輩に何しやがる!」

小太りの方が拳を握って突っ込んで来る。咲月は彼の拳を受けたが、怯まずそのまま強引に殴り返した。顎と鳩尾に打ち込むと、彼はその場に蹲った。

「やるじゃん。けどコイツらは素人。俺は格闘家目指してて、喧嘩も負けたことねぇんだ。ネクラ君差し出して、俺の女になるなら許してやるよ」

倒された2人の仲間を見て長身の男が腕を捲り、拳を構えた。咲月は何も言わずに立っていた。

「おいおい。整形が必要になっても知れねぇぜ?」

男は咲月を挑発する。すると彼女は一方前に出て、男の股間を全力で蹴り上げた。無防備な場所への一撃で、彼は地面に崩れ落ちる。

「喧嘩慣れしてるならそこ警戒しないと。試合じゃないんだからさ」


 冷たくそう言うと、彼女は振り返った。陽平はただ、一連の出来事を唖然と見ているしか出来なかった。倉本に殴られた痛みさえ忘れていた。

「ごめんね。もっと早く助けてあげれば良かった。じゃあ帰ろうか。怪我とかしてない?」

彼女の雰囲気は、普段と変わらないものに戻っていた。

「あ、ありがとう……。その、強いんだね」

敵意が無いと分かっていても、不良3人を瞬時に叩きのめしたのを見るとつい緊張してしまう。

「まぁね……。私はむやみに暴れたりしないから大丈夫だよ?友達のためとか、そう言う時にしか使わないからね?」

彼女はそれを察してから気不味そうに笑った。大通りに戻る時、一度振り返ると小太りの男が立ち上がるのが見えた。彼はポケットから何かを取り出すと脇目も振らずに走り出した。

「後ろ!!」

彼が手に折り畳みナイフを持っているのを見て、陽平は叫んだ。咲月が振り返る。

「え……」

彼女は短くそう言った。男の持つナイフが、彼女の身体に深く突き刺さる。

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