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第十五話 侵略者の企み

 ザベラ砂漠は、砂ばかりだと思われているが、少ないながらも水場はある。

 その内のひとつである最大級のオアシス。

 そこには、豊かとは言い難いが緑があり、ザベラの民にとっては大事な場所だ。滅多に雨が降らないザベラ砂漠にとっては、水は宝も当然。

 独占することなく、共有の財産としてザベラの民達は、大事に大事にしていた。

 

 だが、そんな財産を独占せんと考える者達は少なくはない。

 その内の一人が、モルドフ。

 すでに、二番目に大きなオアシスを独占しており、そこを拠点としている。


「おい。カルラの奴は」


 かなりイラついた表情で、部下の一人へ怒号を飛ばすモルドフ。


「は、はい! その……」


 いつまで経っても話さない部下を見て、察したモルドフは舌打ちをする。


「あの野郎。あの野郎さえいなければ、オアシス全てを独占できるってのによ……」


 ザベラの民最強と評されるカルラを中心として集結した戦士達の抵抗によりモルドフの企みはまったくと言って進んでいない。

 

「しかも、ここを取り返すために動いているとか」

「あの野郎さえいなけりゃ……!」


 ただ純粋な戦闘力ならばモルドフもザベラ最強の位置に入れるだろう。が、カルラとは違うところがひとつだけある。

 それは、魔法だ。

 カルラは、魔法と剣術と組み合わせることで、モルドフを圧倒しているのだ。

 モルドフも魔法は使えなくはないが、差があり過ぎる。


「そもそも、あいつは本当にザベラの民なのか?」


 もう一人の部下が、誰もが思っていることを呟く。

 カルラは、小さい頃に拾われた子供だった。

 カルラという名前以外なにもわからない。カルラを拾った育て親である老人はすでに亡くなっており、今は幼馴染であるシン・ガルーニャとシェラ・ガルーニャの家で共に暮らしている。


「もしかしたら、外の人間かもしれないな」

「だとしても、奴はザベラの民として周囲から認められている。奴をどうにかしないと我らの計画は」

「……」


 ザベラ砂漠には王はいない。

 居ても、族長まだで。

 ゆえに、モルドフがザベラの王として君臨しようと今の計画を実行しているのだ。しかし、それもまったくうまくいっていない。

 

「どうします? モルドフさん。仲間達も疲弊してきています。中には、戦いから逃げる者達も」


 カルラが居る限り勝ち目はない。

 モルドフの言葉に賛同し、共に戦ってきた仲間達には、現在不安感しかなかった。このままでは、一人また一人と減っていき計画は破綻してしまう。

 

『まったく……戦うしか能のないのに、それすらもダメとは』

「あぁ!? 誰だ!?」


 緊迫した空気の中、女性の声が響き渡る。

 部下達も、聞き覚えのない声に武器を取りモルドフを囲むように陣取る。


「なんだ貴様?」


 姿を現したのは、太陽の日差しに当たっているのかと思ってしまうほど白い肌を持った女性。肌に張り付く不思議な服を着ており、腕や足をこれでもかと露出している。

 不思議な兜で顔全てを覆っているため声が二重になって聞こえる。


『初めまして、人類。わたくし、この世界を侵略せんとする者。美しい戦闘人形マギア―と申します』


 どこか優雅な雰囲気を漂わせながらマギア―は、ゆっくりと自己紹介をする。


「世界を侵略だぁ?」


 モルドフは、臆することなくマギア―と会話する。


『あら? やはりここまでは届いていないのでしょうか? 今、世界ではわたくしの仲間が侵略せんと大暴れしているのですが』

「……で? その侵略者様が、いったい何の用だ?」

「まさか、このザベラ砂漠を!?」

『まあ、後にそうするでしょうが』

「やはり!!」

『あら、物騒ですわね。丸腰のか弱い女性に武器を突き付けるだなんて』


 などと言いつつマギア―は、余裕と言った雰囲気でくすっと笑う。

 モルドフ達も理解している。

 目の前に居る女は普通じゃないということを。味わったことのない空気に、今にも逃げ出したい気持ちだ。だと言うのに、動けない。まるで、縛られているかのように。


『ご心配なく。今日は、苦戦しているあなた方に協力をしようと参りましたの』

「協、力?」


 ぎゅっと槍を握る手に再度力を入れながら部下の一人が呟く。


『ええ。わたくしの協力があれば、カルラ? と言う方などあっという間に倒せますわ』

「だ、誰がそれを信じると……!!」


 刹那。

 背後より短剣を持った細身の男がマギア―へ飛び掛かる。彼は、モルドフの部下の中でも身軽さを武器とし斥候などを務める。

 貰った! と誰もが思った。

 

『まったくもう……』


 しかし。


「がっ!?」

『これだから教養のない方は困ります』


 左腕に突如として青白い粒子が収束し、巨大な手甲になる。そのまま飛び掛かった男を鷲掴む。


『どーん』


 そして、気の抜ける交換音を口から発したと思いきや、巨大な杭が男を貫いた。

 

「なっ!?」

「なんなんだ、あれは!?」

『ふふ。ですが、これで説明が省けた、と思えば。この方の行動も無意味ではなかったと言えましょう』


 杭を引き、ぽいっと男を遠くへ投げ飛ばしたマギアーは、再びモルドフ達に向き合う。

 

『このような武装を、あなた方に提供致します』


 そう言って真っ赤な血が滴る巨大な手甲を見せ付ける。ぽたぽたと滴り落ちる鮮血と、自分達の中でも凄腕の戦士が一撃で殺されたという現実。

 

『あら? どうかなされましたか?』


 素顔が見えないため、より不気味さが増す。

 その仮面の下では、自分達を馬鹿にしているかのように笑みを浮かべているに違いない。男達の脳裏に浮かぶのは、自分達の未来の姿。

 目の前の白き悪魔に、無残に殺される姿を。

 

「う、うわぁ!!!」

『あら? どちらへ?』


 あまりの恐怖に、武器を捨て、その場から一人逃げ出してしまう。


『はあ……この程度で心が折れてしまうだなんて』

「……で? お前は、何をしたいんだ」


 乱れる呼吸を整え、モルドフは口を開く。

 

『さすがでございます。他の方々とは、違いますわね。それで、何がしたいか? でしたね』

「あ、ああそうだ。世界規模で侵略をようとしている奴が、なぜ俺達に武器を貸す? それで、お前に反逆する可能性だってあるんだぞ」


 本当は恐怖で、今にも叫びたい。それを堪え、自分と会話をするモルドフの姿を見てマギアーはくすっと笑う。


『わたくし―――お人形遊びが大好きなのよ』

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