第十三話 砂漠の民達
明けましておめでとうございます。
今年は、本当に! 良い年になることを願って、新年最初の更新となります。
フレッカを探すと意気込んだが、このザベラ砂漠には、今まで感じたことのないエネルギーが溢れている。
そして、今までは、その場に留まっていたからすぐ見つかったが……今回は、動いている。
「フレッカにしては、珍しく大人しい感じですね」
「そうなのか?」
一緒に、フレッカのことを探ってくれていたリムエスは、俺の足元でふむと眉を潜める。
「フレッカは、力を誇示する子供のような存在です。そして、彼女の能力は増大。簡単に言えば、ありとあらゆるものを増え、大きくなることです」
「増えて、大きくなるか」
「ええ。この能力で、自分の分身を作ったりもできます。それでよく青―――リアーシェンと喧嘩をしていました。まあ、喧嘩というよりもほぼガチの殺し合いでしたけどね」
そう聞くとフレッカは、やっぱりこれまで出会ってきたどの炎よりも厄介な相手になりそうだ。
それに、これから出会うであろう青の炎リアーシェン。
もし、フレッカと出会ってしまったらどうなることか。記憶が……というのは、かなり希望が薄い。なにせ、リムエス達がここまで色濃く覚えているのだから。
喧嘩相手同士である二人が覚えていないはずがないだろう。
「んん! 話を戻しますが」
途中から苦労話になっていたと思ったのか、一度咳払いをしてからリムエスは再び語り出す。
「もし、この砂漠でフレッカを探すとなれば、分身と出会う可能性が高いです。彼女の厄介なところは、分身にすら意思があるということですから」
なるほど。つまり、分身が自分のことを本物と嘘をつく可能性があるということか。
それにしても、分身ですら凄い技だというのに、ちゃんと意思があるとは。
「よ、よくその分身で」
俺達の後ろで、子供達と砂遊びをしていたヴィオレットがリムエスとは逆側に並び立ち口を開く。ちないに、少し目を放している間に、小さいながらも立派な砂の城が作られていた。
普通の人なら、砂を直で触るのは自殺行為に等しいが、彼女達なら普通の砂と変わらない。加えて、水を使わずとも、エルミーの硬質化の能力を使えば簡単に砂を固定することができる。
「私のこと、驚かせてきた」
虐められていた、と告発しているように聞こえるが、ヴィオレットの表情は楽しい思い出を語るかのように優しいものだった。
「フレッカは、いつも元気で。こんな私にも、いっぱい話しかけてくれたの。でも……あの頃の私は、うまく接することができなくて」
「まあ、行き過ぎた感じもありましたが。ヴィオレットをガチで気にかけていましたね」
「というよりも、僕達全員を、だね。リア―シェンとはよく喧嘩していたけど、それでも同じ仲間だ、みたいな感じでさ」
ヴィオレットに続き、ララーナの頭の上でだらーっとしていたエメーラがぼそっと語った。
三人の反応から、問題児ではあるが、仲間想いの良い奴だと認識されているのだろう。
「それじゃあ。再会したら、今度は自分の気持ちをちゃんと伝えられればいいな」
笑顔で言う。
俺のことを見上げていたヴィオレットは、一瞬だけ目を丸くしていたが……すぐに微笑む。
「うん」
新たな決意を胸に、そろそろ探索を再開しようと遊んでいる子供達に声をかけようと踵を返すと。
ドゴーン!!!
何かが爆発したかのような轟音が鳴り響く。
まさか、フレッカか? いや、この感じ……。
「主! 誰かが襲われています!!」
リムエスの言葉に、俺は指差す方向へ視線を向ける。
そこには、三人の男女が一人の男に襲われていた。男は、何やら大きな筒状の武器を持っており、それを三人に構えていた。
状況的に、三人が襲われている。そして、男が持っている筒状の武器が、さっきの爆発音の正体。
「まずい!!」
遠目からでも、筒状の先に魔力が収束しているのが見えた。
「ヴィオレット! リムエス!」
「う、うん!」
「承知しました!!」
俺は、即座にヴィオレットとリムエスと一体化し、能力を発動する。
黄炎の大盾を生成し、そのまま空間転移させる。
転移させた先は、当然襲われている三人の前。
間一髪、撃ち出された攻撃を防ぐことに成功。四人は、突然の出来事に驚愕して動きが静止した。その隙に、俺は筒状の武器を持っている男の背後に転移し、短剣を首元に添える。
「動くな」
「なっ!? て、てめぇ……どっから!?」
連続で起こった意味不明な出来事に混乱しているのか。男は、武器を落としてしまう。近くから見ると、異様な武器だ。
遠距離武器のようだが……この形状は見たことがない。
だけど、なんとなく。なんとなくだが、イア・アーゴントの装甲に似ている気がする。
「悪者は縛っちゃいます!!」
「ぐあっ!?」
遅れてやってきたララーナは、緑炎の縄で男を拘束する。
俺は、そのまま男を連れて、襲われていた三人のところへ歩み寄っていく。エメーラ達も、遅れて合流する。
「大丈夫でしたか?」
警戒させないようにと声をかけるが……まあ、無理というものか。いまだに、三人の前にある黄炎の盾から距離を取りながら、先頭に居る黒髪褐色の青年が曲刃の剣を構えていた。
「この盾は……お前が?」
後ろには、金髪褐色の少女と赤髪褐色の青年。
三人とも怪我を負っているが、一番ひどいのは赤髪の青年だ。腹部から大量の出血をしており、身に纏っている衣服は真っ赤に染まっている。
呼吸が荒く、かなり危険な状態だというのは明白だ。
「はい。そうです。俺の名前は、ヤミノ。あなた方が、この男に襲われていると判断して助けに入りました。突然のことで、警戒するのはわかります。ですが、まずは後ろの方の治療が最優先だと思います」
俺の言葉に、黒髪の青年はちらっと大怪我を負っている青年を見る。
「お前は、この怪我を治せるのか?」
「はい」
「……わかった。頼む」
仲間の命を救うのが最優先。そう判断した黒髪の青年は、剣を下げる。
「ララーナ」
「はい! あ、皆さん。そのまま固まっていてくださいね?」
「あ、ああ」
「これから治療を始めます。ただ、少し……いえ、かなり驚くと思いますので」
「えっと、なにを」
「炎で燃やします!!」
「ええ!?」
間違ってはいないんだが……俺は、ララーナの頭を撫でながら笑顔で説明する。
「治癒効果がある炎、と思ってください。大丈夫です。熱くはありませんから」
「……やってくれ」
覚悟を決めた青年二人とまだ燃やされるということに恐怖心がある少女を、俺とララーナは治癒の炎で包み込んだ。
「あつっ!? ……くない?」
「むしろ温かいぞ、この炎」
「すげぇ、さっきまで死にそうなほど痛かったのに」
徐々に傷は塞がっていき、完全に治ったのを見越して炎を消した。
「お前達はいったい……」
おそらく彼らはザベラ砂漠に住む者達だ。
そして、捕らえた男が使っていた謎の武器。
……これは、何かがここで起こっている可能性が高いな。