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第八話 砂漠での出会い

「はあ……はあ……!」


 黒髪褐色の少女は逃げていた。

 その小さな体で。一呼吸するだけで、息苦しくなる砂漠の中を、小さな両足を必死に動かして。


「お父さん……お母さん……!」


 少女の脳裏に浮かぶのは、両親の最期。

 住んでいたところは、砂嵐によって崩壊し、家も、家具も、食料も、使い物にならなくなってしまった。そこへ追い打ちをかけるように、魔物達が現れ、人々は散り散りに。


 少女は、両親とともになんとか逃げ出すことができたが、結局他の魔物に襲われてしまった。

 少女を逃がすために両親は、果敢に魔物へ挑んだ。

 だが、疲弊した体では思うように戦えず……。


 少女は、両親の最期の言葉を受け入れ必死に逃げている。

 

 逃げろ。

 生きるんだ。

 

 本当は離れたくなかった。

 いっそ両親と一緒に……そう思ったが、足が勝手に動いた。


「あっ!?」


 照り付ける太陽の日差しの中、踏み場が安定しない地面をどれだけ走ったのか覚えていない。だが、少女の体力は、足は……限界だった。

 ついに足がもつれてしまい、倒れてしまう。

 

 砂が熱い。

 空気が熱い。

 息が苦しい。

 

 もう、動けない。


「あ、ああぁ……」


 なんとか立ち上がろうともがくも無駄な足掻きだった。少女の小さな体を覆い隠すように、大きな影が現れる。

 

「――――」


 両親を襲っていた魔物の一体が追いついたのだ。ザベラ砂漠に出現する魔物の一体―――サンドワーム。普段は砂の中に隠れているが、いざ獲物が近くを通ると足元から突如として現れ捕食をする。

 音もなく近づいてくるため、ザベラの民にとっても脅威の魔物。

 全長は大の男を優に超えており、ずらりと円形状に並ぶ牙で、確実に獲物に噛みつき逃がさない。


 振り向けない。

 怖くて怖くてしょうがない。


 ―――殺される。


(お父さん……お母さん……!)


 死を覚悟した。自分のために命をかけて魔物に挑んだ両親の覚悟を無駄にしてしまった。

 

「どおおおりゃああ!!!」

「―――え?」


 自分は無残にも魔物の餌になってしまうのだろうと思った刹那。

 自分とあまり変わらない少女の声が木霊する。

 それと同時に、魔物の悲鳴と衝撃音も響き渡った。


「おい、無事か。少女よ」

「……」


 背後から聞こえる声にゆっくりと振り向くと、そこには赤髪ツインテールを靡かせた少女―――フレッカが居た。

 

「それにしても、気持ちが悪いやつじゃ。さっさと燃やしておこう」


 うえっと非常に気持ち悪いとばかりに表情を歪ませながらフレッカは、手のひらサイズほどの炎を生み出しびくびくと痙攣しているサンドワームへと放る。

 

「――――!?」


 塵も残らず消滅したサンドワームは、光の粒子となって四散する。

 その様子を呆然と見ていた少女は、はっと我に返りフレッカに声をかける。


「あ、あの! わ、私リオって言います! そのお父さんとお母さんを……両親を助けてくれませんか!?」


 サンドワームを難なく倒したフレッカに少女―――リオは救助を求む。

 異質な存在だと子供のヒカでも理解できる。

 が、自分を助けてくれた。

 大丈夫か、と心配してくれた。

 彼女なら、味方になってくれる。そう思いカラカラの喉から声を絞り出した。


「両親?」


 ヒカの言葉を聞いたフレッカは、遠くを見詰める。

 するとすぐに。


「だめじゃ」

「え?」


 なにがだめなのか。助けてくれないということなのか。

 いや、そうじゃない。

 

「い、今はなにもありませんが。いつか」


 見返りが必要だと思ったリオは今にも消えそうな声で言葉を紡ぐ。

 しかし、フレッカは違う違うと被りを振る。


「もう死んでおる」

「―――」


 フレッカの言葉に、リオは……あぁ、やっぱりと思ってしまった。 

 なんとなくわかってはいた。

 逃げる際に、聞こえた二人の悲痛な声。

 その後に自分を追ってきたサンドワームの口には血がべっとりと付着していた。


「すでに命の灯が消えておる。行っても、死体か遺品が残っている程度じゃろう」

「……」


 淡々と喋るフレッカ。

 そして、徐々に現実だと体が、頭が受け入れていき、リオの瞳から涙が零れる。


「……行くぞ」


 そんなリオを見てフレッカは、手を差し伸べる。

 どこへ? そう思ったリオは、じっとフレッカを見詰めた。


「むろん、お前の両親のところへじゃ。両親が死んだのは確か。命は消えた。だが、残っているものもあるはずじゃ。所謂遺品というやつじゃ」


 そう言ってフレッカは、無理矢理リオの手を取り立ち上がらせる。


「とはいえ、遺品を回収しに行くとなればお前は覚悟を決めなければならん」

「か、覚悟?」

「そうじゃ。今から行くのは」


 そこまで言ったところでリオは理解した。そうだ。遺品がある場所には……両親の死体が残っているかもしれない。

 いや、もしかしたら魔物に全て食べられているかもしれない。

 それどころか追ってこなかったサンドワームがまだうろついているということだってある。


「お前、歳は?」

「十一歳、です」

「遺品を回収するだけなら、わしだけでできる」


 両親が死んだというだけでも十一歳の子供には受け入れがたいこと。そこへ更に無残な両親の死体を見せるとなれば、トラウマになってしまう可能性が高い。

 

「……いえ、私も行きます」


 だが、リオは共に行くことを決意した。

 

「そうか。ならば行くぞ。なに、魔物が出ても先ほどのようにわしが一撃で粉砕してやる!」

「は、はい!」


 一撃ではなかったが、そんなことは些細なことだとリオはフレッカと共に襲われた場所へと向かった。

 結局、残っていたのは大量の血痕と引き裂かれた布切れ。

 後は、父親が使っていた曲刃の剣が一本だけだった。

 

「……」


 リオは、唯一回収できた曲刃の剣を抱き締めながら、目を瞑る。

 ザベラ砂漠では。いや、世界のどこでも同じことだ。

 弱い者は、強い者に喰われる。

 ザベラ砂漠は、それが極端ということもある。リオもそれはわかっていった。わかっていたが、それでも世界は残酷だと感じながら、両親の魂が天へと昇れるように祈り続けた。


「あっ」

「おい、大丈夫か?」

 

 祈りを終え、その場から動こうとするがバランスを崩し倒れてしまうリオ。

 なんとかフレッカが受け止めたが、さすがに体力も気力も限界のようだ。


「すみ、ません」

「気にするでない。どれ、あっちの方にゆっくり休めそうな岩場があった。とりあえずそこまで行くぞ」

「あり、がとう、ございます」


 ひょいっとリオを両手でしっかりと抱き上げ、体に負担がかからないようにフレッカは慎重に歩を進めた。

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