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第七話 砂漠で燃える赤炎

 世界最大の大陸であるグロント。

 その西にあるザベラ砂漠。

 過酷な環境ゆえに、そこに住み着いている者達は少なく、寄り付こうと言う者達もほとんどいない。

 過酷ゆえにに、それに対応しようと進化した特異な生物達も多く、迂闊に入り込めば知らぬ間に命を落とすことがある。

 だが、そんなザベラ砂漠に大昔から暮らしている者達も居る。


 それがザベラの民。

 

 ひとくくりにザベラの民と言ってもさまざま。

 互いに助け合いザベラの民として、誇りをもって生きる者達。

 強さを求め、魔物やザベラ砂漠を訪れた強者と戦う者達。

 略奪を主とし、同じザベラの民だろうと命までも奪う者達。


 そんな者達が住むザベラ砂漠に一人の少女が現れた。

 赤く長い髪の毛を左右均等に纏めており、四方に大きな棘のようなものが生えた炎の輪を後頭部から少し離れた位置に存在している。

 そして、照りつく太陽が差し込む中、両腕両足をこれでもかというほど露出しており、着ているのは、肌に張り付くような特殊な赤い服が一枚だけ。

 他にあるとすれば、炎で生成されたマントだろう。靴すらも履いておらず、昼間の砂漠の中だというのに、堂々と佇んでいる。


「ふむ」


 少女は、獣のような鋭く赤き瞳で周囲を見渡している。

 

「さてはて、これからどうしたものか」


 少女が困ったように思考していると。


「む?」


 背後から何かが接近してくる気配に気づき、振り向くことなく掴み取る。

 

「矢? なにか塗られておるな」


 掴み取ったのは紫色の液体が塗られてあった矢だった。


「おい、この矢をわしに射った俗物。出てくるがいい」

「ちっ、まさか掴み取られるなんてよ」

「だから言っただろ。明らかに普通じゃねぇって!」


 背後にあった大きな岩。

 その陰に隠れていたのは、武装した四人の男女。


「おい、貴様ら。わしに毒でも盛ろうとしていたのか?」

「ああ、そうだよ! お前の傍で倒れている獲物を横取りしようと思ってな」

「獲物? ああ、この獣か」


 弓矢を持った男が言っているのは、少女の傍で倒れている尻尾の先が大きく膨張している四足歩行の獣―――バルジロ。

 ザベラの民にとっては、見慣れた獣で、膨張している尻尾の先は珍味として有名。

 

「ついでに、お前を売り飛ばそうと思っていたんだが」

「ほう? わしをか」


 男の言葉に少女は、掴み取った矢に塗られた毒を今一度見詰める。

 

「なっ!?」

「あいつ馬鹿か!?」

「自分から……」


 少女の行動に、男達は驚愕する。

 なぜなら、毒だとわかっているはずなのに、人差し指で掬い……舐めたのだ。


「神経毒か……普通の生物ならしばらくは身動きが取れなくなる。だが、残念じゃな。わしには効かん」

「嘘だろ……なんでぴんぴんしてるんだ!」


 目に映る異様な光景に、男達は開いた口が塞がらない。

 その様子を見て少女はにやりと笑みを浮かべる。


「教えてやろう! わしの名はフレッカ! この身は、炎そのもの!! 毒なぞ燃やし尽くしてしまうわ!!」


 腕組をし、高らかに口上を述べる少女―――フレッカ。男達は、何を言っているんだ? とまったく理解しておらず、フレッカ自身も思っていた反応と違うと不満な表情になる。


「ふむ……もっと恐れおののくかと思っておったのじゃが。ところで、貴様ら。丁度いいタイミングで現れた」

「ど、どういう意味だ?」


 フレッカは、手に持っていた矢を握り潰し赤き炎で燃やし尽くす。

 

「なに。久しぶりに己の体で動いたのでな。体が鈍っていてしょうがない……」


 両手に炎を纏わせ、一歩また一歩と男達へ歩み寄っていく。


「わしと遊んでいけ。なぁに、心配するな。命を奪うわけじゃない。ただ……火加減を間違えれば、そうなるじゃろうがな」

「ふざけるな!! なめるのも大概にしろ!!」


 弓矢を持っていた男は、明らかに自分達を見下しているフレッカに腹を立て今一度矢を射る。


「何をキレておるんじゃ? 先に襲ってきたのは、貴様らのほうじゃろうが」


 やれやれと呆れながら、また容易に矢を掴み取る。

 そして、あっという間に炎により燃え尽きてしまった。


「仕方ないわ! もう逃げきれない!」

「ああ。やるしかねぇ!」

「お? 他の連中もやる気になったようじゃな。ほれほれ、かかってくるがいい」


 自分からは攻撃しないとばかりに、小馬鹿にするように煽っていくフレッカ。

 男達は、明らかな挑発に乗り、三人で一本の杖を囲み魔力を注ぎ込む。


「む? あれは」

「言っておくけど、後悔するんじゃないわよ!」

「こいつに敵うと思うな!!」


 注ぎ込まれた魔力は、杖にはめ込まれた魔石を輝かせ、魔法陣を展開させる。

 

「ほう。召喚術か」

「遺跡で発掘した遺物よ! この魔石にはゴーレムを封じてある!!」

「ただのゴーレムじゃねぇ! 鋼鉄の鎧をも打ち砕く攻撃力を持ったギガントゴーレムだ!!」


 この世には、大昔に作られた遺物がいくつも眠っている。

 いったいどうやって作られたのか、どう使えばいいのかわからないものばかりだが、魔道具のように魔力を注ぎ込めば使えるものも存在する。


「俺達を挑発したこと、後悔しやがれ!!」

「おー、随分とでかいのが出てきたではないか」


 魔法陣から現れたのは、人の何十倍もの大きさを誇る岩の巨人。

 ギガントゴーレムは、ゴーレムの上位種であり、A級冒険者でも苦戦を強いられる魔物だ。本来であるなら、個人で挑むなど自殺行為。

 

「このガキ。まだ余裕を」

「当然じゃろ? これぐらいでないと……準備運動にすらならん!!」

「やれ! ギガントゴーレム!!」


 男の命令に、ギガントゴーレムは拳を振りかざす。

 

「岩の巨人よ。力比べといこうではないか!!」


 避けない。

 むしろ真向から挑むフレッカ。男達は、それを見て馬鹿め。死んだなと勝利を確信したかのように笑みを浮かべる。

 が、しかし。


「【フレッカ・インパクト】!!!」


 轟々と激しく燃え上がる赤き炎の拳が……ギガントゴーレムの腕を吹き飛ばした。

 

「なっ!?」

「嘘、でしょ?」


 ありえない光景を目の当たりにした男達は、唖然とする。

 しかし、すぐに感じたことのない恐怖心が体を震え上がらせた。A級冒険者が束になっても苦戦するほどの魔物を、一撃で腕を吹っ飛ばしたのだ。

 普通ならばありえない。

 逃げなくては。

 だが、わかっているのに体が動かない。


「なんじゃ? この程度か。つまらん。これじゃ、準備運動にすらならんぞ。あー、つまらない」


 まるで子供のような不貞腐れるフレッカは、立ち上がろうとするギガントゴーレムへ近づき、右腕を天へと掲げる。


「燃え尽きろ、人形」


 まるで太陽。

 そう錯覚するほどに巨大な炎の塊が生成される。


 飽きたから燃やす。


 容赦なく炎の塊はギガントゴーレムを襲う。


「ぐああ!?」

「あつっ!?」

「なんて熱気……!?」


 かなり距離があるというのに、ザハラの熱気を超える熱き風が男達を襲い、吹き飛ばす。


「あ、あぁあ……」

「た、助け」


 殺される。

 燃やされる。

 もはや男達は、フレッカに恐怖という感情しか湧かない。ガタガタと震えながら、命乞いをするしかない。


「さーて、次つぎーっと」

「え?」


 襲ってこない。

 まるで、もう自分達には興味がないとばかりに踵を返す。

 助かった。

 心の底からそう思うと、一気に緊張の糸が切れ、ただただ呆然とする男達。そんな中、フレッカは雲一つない青空を見上げていた。


「……他の炎の気配を感じる。じゃが、わしも本調子じゃないから、詳しい方角がわからん」


 やれやれと被りを振り、歩を進める。


「まあ、適当に歩いておれば、いつか出会う……はずじゃ! とりあえず、遊びながら適当に探すとするとしよう!!」

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