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第四話 炎は徐々に

 リオントから少し離れた草木が生えていない荒地。

 そこには、闇の炎の力の残滓が残り続けている。闇の炎を操るための訓練をするにはもってこいの場所と言えよう。

 

「では、今日も訓練に付き合ってやろう!」

「ふん。本来であるなら、エメーラ様の力を濃く感じるフォレントリアの森でやりたいところだが」

「いくら炎に耐性があっても森は森、だからね」


 そこで、シャルルとファリー、フェリーの三人は闇の炎を操る訓練をするために今日も訪れていた。

 

「それにしても、君も我儘なものだ。我から、紫炎を受け取ればいいものを」

「ふん。私は、エメーラ様が守護するフォレントリアの森に住むエルフだ。得るのなら、エメーラ様の炎がいいに決まっている。これだけは譲れない」


 まったく、と被りを振るシャルルに対してファリーは手のひらに緑炎を灯しながら答える。

 リオントでヤミノと再会したファリーとフェリーは、これからの戦いに参加するために永炎の絆を提案してきた。

 

 ヤミノでなくとも永炎の絆で闇の炎を灯すことはできるが、選択肢はひとつ。

 その者が宿した闇の炎しか灯すことしかできない。

 ただし、複数の闇の炎を扱うことができるヤミノだけは別だ。紫炎、緑炎、黄炎を選択することができるのだ。


「しかし君ぃ」

「なんだ?」


 緑炎を灯すファリーをにやにやと含みのある笑みを浮かべながら見るシャルル。


「そこまで付き合いが長いわけじゃないのに、あっさりと灯すことができたではないか」

「……何が言いたい?」


 ぷいっとそっぽを向きながらファリーは呟く。


「永炎の絆は、本当の絆がある者同士じゃないと闇の炎を灯すことはできない。つーまーりー? なあ、フェリー」

「え? あ、えっと……」


 突然話を振られて慌てだすフェリー。


「駄狐。お前が何を言いたいのか知らないが、私はヤミノのことは少なくとも友と認めている。ただ、それだけだ」

「友、か。……まあ、昔の君を考えるなら、それだけでも相当凄いことなんだがな」

「無駄話はここまでだ。さっさと始めるぞ」


 緑炎を弓矢に形作り、容赦なく攻撃をしてくるファリー。


「なっ!? 突然過ぎるであろう! この……!」


 反応が遅れるも緑炎の矢を回避しながら、シャルルは紫炎の玉を五つ生み出し反撃を試みる。


「お? やってるわね」

「あ、カーリーさん」


 初っ端から激しい攻防を繰り広げる二人を、フェリーが眺めているとカーリーが近寄ってくる。

 

「本当、二人のセンスには驚かされっぱなしよ。あたしより後に闇の炎を宿したのに、もう使いこなしてきてるんだから。まあ、シャルルは仙狐族だから炎に関しては知り尽くしているからってこともあるんだろうけど」

「フェリーも、戦いのセンスはエルフ一、ですから」


 永炎の絆で得た闇の炎はただそのまま使うだけではない。使い方によっては、自由自在と言えよう。

 武器などに纏わせるのはもちろんだが、フェリーのように弓矢にして攻撃することもできる。

 その分、消費は激しくなるが、そこは使い手次第。

 

「はははは! 言っておくが、我の方が先輩だからな!」

「それがどうした!」


 互いにぶつかり合う炎。

 そんな光景を見ていたカーリーは、ぽんっとフェリーの肩に手を置く。


「じゃあ、あたし達もやりましょうか」

「は、はい。よろしく、お願いします!」

「心配しないで。あの二人みたいに実戦形式じゃないから。まずはゆっくり。炎合わせからよ」


 緊張しているフェリーに優しく微笑みながら小さな紫炎を灯す。

 

「……」

「やっぱりまだ怖い?」

「へ? あ、えっと……」


 フェリーも緑炎を宿し炎合わせを始める。

 そんな中、彼女の様子が気になりカーリーは問いかけた。


「聞いたわ。フォレントリアの森であいつらにやられたって。ひどい傷を負ったって」

「……」


 フェリーもファリーと一緒に戦うことを決意した。しかし、イア・アーゴントと戦い、傷を負わされたことを思い出すと、今でも体が震えてしまう。

 今は、闇の炎を扱うことができるため、あの時のようにはならない。

 そう思ってはいるが。


「はい。やっぱり、怖い、です。なす術もなく、一方的にやられて……」

「……わかるわ、その気持ち」

「え?」


 恐怖に染まっているフェリーの表情を見て、カーリーは呟く。

 脳裏に浮かぶのは、初めてイア・アーゴントと遭遇した時のこと。


「あたしもそうだった。引退したとはいえ、これでも元Aランク冒険者。勝てなくてもそれなりに戦えるって思っていたんだけど……」


 結果は、惨敗。

 こちらの攻撃は一切通じず、一方的にやれた。もし、あの時ヤミノが助けに来なかったら。闇の炎がなかったら……そう考えると、ぞっとしてしまう。


「ヤミノが、闇の炎を宿したのが偶然なのか。それとも必然なのか。まだわからないけど、これだけははっきり言えるわ」

「なんですか?」


 じっと混ざり合う二色の炎を見詰めながら、カーリーは口を開く。


「闇の炎は、あたし達の味方。救済の炎だって」

「……そう、ですね。私も、そう思います。この炎を見ていると、なんだか心がぽかぽかするっていうか」

「それは、エメーラちゃんの炎だから、かもね。あの子、ぐーたらだけどなんだかんだで世話好きなところがあるから」

「なんてたって、私達の守り神様ですから」

「そういえばそうだったわね」


 先ほどまでの恐怖に染まった表情はなくなり、フェリーはカーリーと笑い合う。その傍らで、いまだ激しい攻防が行われているが、特に気にすることなく。


「見よ! これぞ、闇の炎と我が炎を組み合わせた合体奥義!!」

「組み合わせなら、私も考えてある! 受けてみろ! 守り神様の炎の力を!!」

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