第三話 屋敷内の探索
「わー、広いね」
「本当に、ここに住んで、いいのか?」
中に入ると、その広さの一端を味わう。
まずは玄関。
出入り口の扉からして、俺が元から住んでいた家よりも大きい。そして、その扉を超えると軽くパーティーでも開けるんじゃないか。
そう思えるほどの広さはある。
中央の奥には、どこかへ繋がっている扉がある。
明らかに、普通の扉じゃない。
色は黒く、魔法陣が刻まれている。扉に行く直前に、二階へ上がるための階段が左右にある。
「おーさまが住んでいいって言ってたんだから、いいんじゃない?」
「台所はどこかな?」
「これだけ広いと、部屋を覚えるのも大変そうだな」
今までは、数部屋覚えるだけで住んでいたけど、この屋敷内は明らかに数十部屋はあるだろう。とはいえ、これでもまだ狭い方。
王城なんかだともっと部屋数は多いはずだ。
「なんだかあっちにある気がする! パパ、わたしちょっとあっちから探索してみるね」
と、アメリアは左の通路へ足を向ける。
「ああ。今後、台所担当はアメリアになりそうだからな」
元の家でも、母さんと一緒に家事全般をやっていたアメリア。ララーナも手伝ってはくれているが、それでもアメリアの家事能力は母さんも驚くほど。
「わ、私もついていくから。心配しないで」
「じゃあ、頼んだぞ。ヴィオレット。後で集合しよう。俺達は、あっちから探索してみる」
「うん。じゃあ、行こっかママ」
「うん」
早く台所を見たいのか。
速足で通路を移動していくアメリア。
「さて、二人はどこか見たいところはあるか?」
「自分は特には」
「あたしもないっかなぁ。一部屋ずつ見ていこー! まずはここからー!」
一部屋ずつ。そう言ったエルミーだったが、さすがの正面の黒い扉は避けていく。明らかに、普通じゃないからな。
俺でも、避ける。
「お? 普通の一人部屋だね」
「ベッドに、机に、本棚に……うん、確かに人一人が過ごせそうな部屋だな」
とはいえ、完全に俺が育った部屋より広い。
そこから、数か所は同じ部屋が続く。
「ここは……物置か?」
また同じ部屋かと思えば、部屋の中には掃除道具を始めとしたさまざまな物が綺麗に置かれていた。
「綺麗に整理されていますね」
「俺達が来る前に、ミウズが整頓してくれたんじゃないか?」
もしくは、元々整理整頓をされていたか……。
「どーなの?」
気になったエルミーは近くに居たミウズに問いかける。
「そこは元から整理整頓されていました」
「だってさ」
ファルク王は、王位についてからは全然訪れていなかったそうだが……。
「ところで」
「ん?」
「飴、いりませんか?」
なぜか瓶にいっぱい詰まった飴を勧めてくる。
「それって」
ララーナから聞いた不思議な味がたくさんのあれか。不足したマナを補給するためにミウが作った飴らしいけど……。
「わー、美味しそう。一個ちょーだい!」
「はい。ご自由にお選びください」
「えっとねぇ……お? この飴にしよっと」
エルミーが選んだのはピンク色の飴。
それを躊躇なく口の中に入れようとするので、俺は慌てて止めようとする。
「ま、待ったエルミー! せめて何味か聞いて」
「あむ!」
「ご安心ください。前回の不評を糧に、味を一新しました。ちなみに、エルミー様が食べたのはピモン味です」
「あまーい!!」
ピモンと言えば、ピンク色の丸い果実。
一噛みすれば、果汁が溢れるほど出て、そのまま飲み物としても良いという。
「これから、人と共存するために我々も学び、変わっていこうと思っております」
「そ、そうか」
「おふたりもいかがですか?」
「それじゃあ……うん、貰おうかな。リムエスもどうだ?」
「主が良いと言うのでしたら」
その後、俺達は飴を口に含みながら探索を続けた。
その間に、ミウズと出会えば挨拶をされたり、また飴を食べないかと勧められたり。まだまだ単純な行動しかできていないように思えるが、本当に変わろうとしていると感じた。
命令を待っている人形。
そんなイメージだったけど……これからは、彼女達が自分の意思でどんな行動をするのか。少し楽しみになってきた。