第一話 基地と言う名の自宅
「ここか?」
朝食を済ませた俺達は、さっそくファルク王から与えられたエンフィリノスの基地となる建物を確認に訪れていた。
しかし、転移した先にあったのは、なんの変哲のない森に囲まれた岩山。
どこにも建物なんてない。
「待ってパパ。確かにあるよ」
「……なるほど。そういうことか」
「ミウのところと、同じ感じの結界」
どうやら、俺達が見ている岩山は本物ではないようだ。ファルク王から授かった例の魔道具を近づけるとしっかり反応した。
俺達は、そのまま進んでいく。
「おお! おっきな家です!!」
「うひゃあ、あれが今日から我らエンフィリノスの基地になるの? うんうん。良いんじゃないの」
結界の中に入ると、普通に青空を広がる空間だった。
その中央にはミウが住んでいた屋敷よりも一回り大きな建物があった。ファルク王が言うには、昔隠れ家として使っていた屋敷らしい。
王の子という立場を忘れて、自由奔放に生活するために秘密裏に作られた場所。
「元は誰かの屋敷だったんですよね? 主」
「ああ。ファルク王が、偶然見つけて暇を見つけては仲間達と改装していったんだってさ」
俺が持っている魔道具も城にあったもの。
ミウが居た無人島も、この魔道具を使って見つけた場所で、その出会いからミウとの関係性が始まった。
ミウは、外なんか興味はなく、その島で生まれ育ち、趣味で色々作っていたらしい。それをファルク王が褒め、世のため人のために作らないか? と交渉した結果……謎の天才発明家が誕生したのだ。
「結界に隠された屋敷かぁ。なーんか、ありそうだよね。お父様」
「ファルク王も、色々調べたみたいだけど。なにもわからなかったみたいだ。とはいえ、ここは魔物も入ってこなくて、簡単に見つかることもない。隠れ家としてはもってこいの場所だったからあんまり気にせずつかっていたんだって」
それにしても、おかしいな。
ファルク王が言うには屋敷がひとつだけあるって話だったのに。
周囲を見渡すと、他にも建物は二つ。
しかも、屋敷と繋がっている。倉庫か? 情報にはない建物を怪しく見詰めていると……中から誰かが出てくる。
「あれ? もしかしてミウズ?」
「あ、本当ですね。おーい!! どうしたんですかー! しかも、そんな恰好で!!」
謎の建物から出てきたのは、ミウが作った人工精霊であるミウズだった。ここに居るのも驚きだが、彼女の恰好も相当だ。
俺達が知っているミウズは、肌にぴったりと張り付くような異様な服だったが。今着ているのは―――どう見てもメイド服である。
「お待ちしておりました。旦那様」
「だ、旦那様!? え? え?」
何かの聞き間違いか? と俺は周囲を見渡す。
しかし、旦那と呼ばれる男性はこの場に俺しかいない。
「はっはっはっは!! 驚いているようだな!!」
「あ、ミウちゃん」
「み、ミウまで!?」
ミウズに驚いていると、屋敷の中からミウが高笑いをしながら出てきた。しかも、背後にはこれまたメイド服を身に纏ったミウズを二人ほど連れて。
「ちょっとちょっと。ミウちゃーん。どういうことなの? あたしら、聞いてないんだけどー」
「サプライズというやつだ、エルミー。喜べ! 今日から、ミウはここに住むことになった! そして、ミウズは、ここで働くメイド達となる!! あ、ちなみにミウが元々住んでいたところにもミウズは残している。いつも通り素材採取から魔道具制作を継続してもらっている」
「じゃ、じゃあお前は何をするつもりなんだ?」
色々聞きたいことがある。
確かに、ミウも協力者になったけど。まさかこんなことになるなんて。
「ここで魔道具制作を続ける。天才助手エルミーと共にな!」
「それは……わかったけど」
これからのことを考えると、もっと広い家に住んだ方が良いと。
基地兼自宅として使っていいと言われた。
父さんや母さんも、どうせだったら新しい家で仲良く暮らしてきなさいと見送ってくれた。リオントは、母さんとシャルルさんが居るから大丈夫だと。
「なに。ミウは、ほとんどそこにある製作所に篭りっきりになる。いないものとして扱ってくれ」
「そんなこと言われても」
「ミウズは、屋敷内に配置しておく。なにかあれば、命令しろ。大抵のことはやってくれるはずだ」
「何なりと」
「お申し付けください」
「旦那様」
よろしく頼む! と満面な笑顔を向けるミウ。
やりたいことをやる自由人。
そういう印象だったけど……ここまで自由だったとは。後で、ファルク王に色々と聞かないといけないな。