プロローグ
「エンフィリノス、ねぇ。どういう意味なの?」
「えっと……俺にもよくわからなくて」
リムエスを仲間にしてから早一週間。
俺達は、自宅で朝食をとっていた。家族がどんどん増えていくので、狭いテーブルじゃいっぱいいっぱいだ。
「なによそれ。あんたが決めた名前なんでしょ? 世界を守るための組織名が、適当なんて許されないわよ。リーダーさん」
これから、世界を守るためにイア・アーゴントを統べる謎の侵略者達と戦いための組織。
俺は、リーダーに任命され、組織名も決めた。
中心メンバーはもちろん、闇の炎とその子供達。そこに、永炎の絆で力を得た者達が参戦する形となる。
ファルク王から、組織名を決めろと言われて、自分でもよくわからないのだが、パッと思い浮かんだのが、エンフィリノスという名前だった。
俺自身、どういう意味なのかわかっていないのだが……。
「それなら、僕が知ってるぞ」
「エメーラ?」
一人で漫画を読んでいたエメーラ。
目を放さないままぼそっと呟く。
「炎の大樹って意味だよ」
「炎の大樹?」
そう言われて、俺は轟々と炎が燃え盛る大樹を思い浮かべた。
「へえ、そういう意味なのね。でも、ぴったりじゃない」
「え?」
「そうね。ヤミノ、あんたが大樹そのものだとするでしょ? それで、あたし達は、その大樹の周りにある葉っぱってところね」
「おお。良いセンスしてるな、カーリー」
「でしょ?」
「だが、問題がある」
「問題? なによ」
父さんの言葉に、母さんもそうだが、俺も耳を傾けた。
「葉っぱは散ってしまうものだろ? 仮令だとしても、かなり心配だ」
「確かにそうね。葉っぱは次第に枯れちゃうし、風で簡単に散ってしまう……ヤミノ! あんた、しっかりしなさいよ!」
「わ、わかった」
炎の大樹か……どうして、知らないはずの言葉が俺の脳裏に浮かんだのか。
まさか、これもヴィオレット達の記憶? だとしたらエメーラが知っているのも納得だが。
「それにしても、炎の大樹か。実在するのか? そんなもの」
「普通に考えたら、ただ大樹が炎で燃えているだけ、なんだろうけどね」
そう言って、父さんと母さんは俺達を見詰める。
「目の前に、炎で色々できる存在が居るからな。もしかしたら、本当にあるのかもな」
「どうなの? エメーラちゃん」
「ちゃんづけはやめて。……昔はあった、と思う」
「あった? 思う? ……あー、そういえば記憶が欠落しているんだったか?」
なら、仕方ないなと父さんは頭を掻きながら食後の茶を啜る。
「ヴィオレットとリムエスもそんな感じなのか?」
「はい。確かに、炎の大樹のことは記憶にあります。しかし、今はどうなっているのかは」
丁寧に口についたソースを拭き取ってから答えるリムエス。
「私、も。言葉の意味はわかる。けど……ごめんなさい」
小さい体でも人一倍食べるヴィオレットは、しょんぼりしながら無心で薄切り肉を挟んだパンを食べていく。
「やぁん。ヴィオレットさんってば、一生懸命食べてかわいー!」
「あー! だめですよ! 頬を突いちゃ!」
「あっ、ララーナちゃん。口にソースついてるよ。拭いてあげるね」
もう三人目になるが……いまだに謎のことが多い。
子供達のこともそうだ。
世界は……俺が思っている以上に、なにか複雑な事態に陥っているのかもしれない。
「あ、そういえばヤミノ。お前、今日行くところがあるんだよな?」
「ああ、うん。これから人も、多くなっていくだろうし。組織として、ちゃんとした拠点は必要だろうって。ファルク王から」
俺は行ったことはないけど、ファルク王が行ったことがあるため記憶を読み取り、転移できるようにはしてある。
朝食を済ませたら、妻子達と行く予定になっている。
あっちでも色々と手配をしてくれているとのこと。どんなところなのか……楽しみだ。