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第三十七話 守るために

「その子が、新しい奥さん?」

「奥さんではありません。自分は主の盾リムエスです。主のお母様」

「カーリーよ。ふふ、ヤミノの盾ねぇ。でも、その横でヤミノの腕に引っ付いている子って。あなたの子供じゃないの?」


 ダンジョンを早々に出て、俺達はトードへと訪れていた。

 あの鋼鉄の壁を越えた先は、想像通りどこもかしこも頑丈そうな作りをしている。街に入ってしばらく進んだ先にあった広場で、俺達は多くの住民から歓迎されていた。

 特に注目されているのは、リムエスだろう。


 エメーラのように彼女はトードに住む者達からしたら宝であり、崇める対象。

 しかしながら、彼女を見ることは難しい。

 なにせダンジョンの奥深くで燃えているからだ。大体の人々は、黄色い炎というイメージでしかない存在だったのが、今こうして目の前に居る。


「そーでーす! エルミーって言いまーす!!」

「おお! リムエス様だけでなく、ご息女までお目にできるなんて!」

「それにしてもでかいな」

「ああ。でかい」

「ちょっと、あんた達どこ見て言ってるの?」

「も、もちろん身長のことだぞ! なあ!?」

「あ、ああ! 生まれたばかりなのに随分と大きいなって!!」

 

 リムエスだけじゃなく、その娘であるエルミーも注目されている。色んな意味で。


「ヤミノ」

「レガンさん」

 

 そんな中、レガンさんが俺の前に歩み寄ってくる。

 そして、手を差し出してきた。


「本当にありがとう。君のおかげで、アグリ鉱山は守られた」

「でも」


 差し出された手を見ながら、俺はダンジョン内で発見した血塗れの防具の残骸を思い出す。犠牲者を出してしまった。

 わかっていたことだ。

 救援要請を受けてからすぐに駆け付けたとしても、全員を助けられるかわからない。一瞬で転移できるとはいえ、イア・アーゴントに対抗できるとはいえ……万能ではない。

 こうなることは予想していたが、実際に目の当たりにすると……命っていうのは、簡単に。


「確かに、犠牲者は出た。だが、彼らもそれを承知で挑んだ。そもそも俺達冒険者はいつ死んでもおかしくない。それをわかったうえでやっているんだ」


 レガンさんの言っていることは俺も理解している。これでも、冒険者だった母親に小さい頃から教え込まれていた。

 

「そ、そうですよ。それに、助けられた命もあるんです」


 次に声を上げたのは、俺達が最初に助けた女性冒険者だった。


「ああ。俺達は、あんた達が来なかったらあのまま死んでいたかもしれない」

「それだけじゃない。あのままイア・アーゴントを放置していたら、もしかしたらトードにやってきて住民達を……」

「死んでいった者達のためにも、俺達は前を向いて生きていかなくちゃならない。そして、お前の力は、そのために必要なんだ。守るために」


 そうだ。これは遊びじゃない。訓練じゃない。世界規模の戦いなんだ。

 そして、俺はやるって決めた。

 多くの命を守るために、率先して戦うって。


「はい。これからも、俺は戦い続けます。多くの命を守るために」


 レガンさんの手を握り締め、俺は改めて誓った。



・・・・



「よくぞ守ってくれた! これで、天才の作品が今後も世にばら撒かれるだろう!!」


 トードでの騒動を片付けた後、俺達はミウ達のところへ戻ってきた。

 ダンジョンの奥には、忘れずにリムエスの分身である黄炎を残してきた。これで、いつも通り良質な鉱石を採掘することができるだろう。

 

「おかえり、皆。疲れたでしょ? ゆっくり休みなさい」


 フィリア様の姿はなく、母親であるセリーヌ様がミウと共に出迎えてくれた。

 

「あれ? フィリアお姉ちゃんは?」

「フィリアは寝ているわ。やっぱり疲れちゃったのね。皆が帰ってくるまで起きてるって言ってたんだけど」


 だよな。フィリア様は五歳なんだ。

 普通に考えたら船での旅からして、かなり疲労が溜まっていたんだろう。


「なら、ゆっくり休ませないですね! 新しい妹は、起きた後に紹介しましょう!!」

「あら? それじゃあ、その子が?」


 と、セリーヌ様はエルミーを見る。


「はい! 私の妹のエルミーです!」

「妹のエルミーでーす」

「そして、その横に居るのが」

「お母様のリムエスでーす」


 ヴィオレットやエメーラのように抱きかかえられるのを嫌がりずっと自分の足で移動しているリムエス。しゃがみ込んで覗くセリーヌ様を見詰め返し、むっと眉を潜める。


「リムエスです。先に言っておきますが、自分は主の盾です! 母親になったのは、何かの間違いです!」

「あらあら。間違いを犯して母親になっただなんて……ヤミノくんに襲われちゃったとか?」

「いや、間違いってそういう意味じゃ」

「まあ、襲っていたっていうのはあってるかもねー」

「エメーラ!? なにを言うのです!」

「誤解しないでくださいね? セリーヌ様。俺は、リムエスと戦っただけですから」


 そう。あれは互いに合意のうえで戦っただけ。別に、俺が一方的に襲っていたとかそういうのではない。


「あ、でもヴィオレットさんはお父様に襲われたんでしょ?」

「え?」


 にやりと笑みを浮かべながらエルミーがとんでもないことを言いだす。


「だってぇ、パンツ一丁で抱いてくれー! って」

「あ、あのそれは……た、確かに、そう、だけど……」


 エルミーの発言に顔を真っ赤にしながら慌てるヴィオレット。い、いったい誰がそんなことを教えたんだ……いや、事実だけど。

 いや、あの時の俺は少し変だったと言うか、あー闇の炎綺麗だなぁって思って。待て待て。それだとヴィオレットが綺麗だったから欲情したみたいになってしまう。

 実際は炎。炎に魅入られていたけれど、結局は、その炎は長身美人だったわけで……あー! 本当にあの時の俺は黒歴史だ……!


「てへっ」

「母さん……!」


 てっきりエメーラが教えたんだと思っていたが、どうやら犯人は母さんだったようだ。いや、だがこのタイミングで言ったエルミーもエルミーで……絶対楽しんでる。


「そーいえば、僕も嫁にこいってごーいんに」

「な!? あ、主! どういうことですか!? やはりそういう目的で自分も!? ガチなんですか!? マジなんですか!?」

「お、落ち着けリムエス! 俺は純粋に闇の炎を必要として―――リムエス?」


 ぷるぷると震えていると思いきや、一気に元の姿になる。


「ふ」

「ふ?」

「ふしだらですー!!!」


 顔を真っ赤にし、小盾を四つほど生成し攻撃の体勢に入った。


「お、落ち着いてリムエス……!」

「こら、エルミーちゃん。反省しなさい」

「やん。アメリアお姉ちゃん、怒らないでー」

「あははー、リムエスってばむっつりだねー」

「お母さん。むっつりってなんですか?」

「こ、こらー! 屋敷内で暴れるんじゃなーい!!」

「あれ? もしかして、あたしのせい、なんですかね? 先輩」

「間接的には……そうかもね」


 冷静に話してないで、止めて……!

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