第三十五話 黄炎の誓い
素顔を晒したリムエスの口から発せられる言葉。
その微笑みに目を奪われていると。
「くっ!」
突然苦しみだし、膝をつく。
「思っていたよりダメージが大きいようですね。耐久力には自信があったのですが……」
「大丈夫か?」
俺も相当なダメージを負っているが、リムエスに歩み寄り、手を差し伸べる。
「貴殿はタフですね」
「これでも結構つらい」
横っ腹は痛いし、反射攻撃により受けたダメージで、筋肉が悲鳴を上げている。
今こうして動けているのは、緑炎による治癒のおかげだ。
残りの炎を今全力で体の回復に回している。
「ところで、試練は合格ってことだけど」
俺の手を取ったリムエスを立ち上がらせながら、俺は問いかける。
「言葉の通りです。この最終試練はなにも自分に勝つのが合格条件ではありません」
確かに、ガチ勝負とは言っていたが、勝利せよとは言っていなかった。
「ガチでぶつかり合い、言葉を交わし、貴殿という人を理解しました」
「俺を?」
「はい。そして、自分は思いました。貴殿の盾となって、共に戦いたいと」
そう言うと、今度は自ら膝をつき、首を垂れる。
「これより貴殿を主とし、我が炎を、我が盾を捧げます」
「お、おう」
「んー、硬いなぁ、相変わらず」
リムエスの誓いを受け入れていると、観戦していたエメーラ達が近寄ってきた。
「かっこよかったです! お父さん!!」
「最終試練突破おめでとう! パパ!!」
「っと、ありがとう二人とも」
右からアメリアが、左からララーナが抱き着いてきたので、俺は優しく頭を撫でる。
「大丈夫? 傷だらけ……」
更に、俺が倒れないようにと、ヴィオレットが背後から支えるように抱き着いてきた。
「戦った男って感じでいいんじゃない?」
などと言いつつ怪我を治癒してくれるエメーラだった。
「……本当に仲がいいんですね」
「ま、家族ですから。今日からは、あんたも家族になるんだぞ」
「自分は主の盾。家族になるつもりはありません」
「はっはっはっは。言葉では拒否れるけど、ヤミノと一体化したら、そんなの関係なしに強制的に妻にさせられるんだぞー。そして、子供を産まされる」
本当のことだけど、そうやって言葉にすると俺って相当ヤバい男だよな……。
「ば、馬鹿なことを言わないでください! 一体化するのはわかります。ですが、なぜそれで妻になるんですか!? そして、なぜ子供が生まれるんですか?!」
さすがのリムエスもエメーラの言葉を理解できないようで、声を荒げる。
「さあ?」
「さあって、ヴィオレット! 説明を!!」
「ご、ごめんなさい……! 私にもよくわからなくて……」
「ふ、二人とも。理解していないのに、受け入れているんですか?」
「あはははー、夫婦になるって言ってもいつも通りにしてるしー。それに自由にだらだらと過ごせるなら、別にいいかぁって」
「エメーラ……」
確かに、夫婦になったけど、特別なにかをしているわけじゃない。夫婦というよりも、気兼ねなく接せる友人みたいな感じだからな、エメーラとは。
しかし、リムエスは頭を抱えている。
真面目ゆえなのだろう。まあ、リムエスの気持ちはわかる。俺も、なんだかんだで受け入れているけど。夫婦になるっていうのは、そんなあっさりとしたものではない。
なので、絶賛勉強中。
父さんと母さんを始めとしたリオントに住む先輩夫婦に、夫婦はこんな感じだ、こうすれないいとかアドバイスを貰っている。
「私は……えへへ」
「ん?」
なんだろう。ヴィオレットが嬉しそうにしてる。
「……と、ともかく! 自分はあなた達のように夫婦関係にもなりませんし、子供も産みません! あくまで主の力として! 共に行くだけです。い、いいですか!?」
ぐいっと顔を近づけてくるリムエスに、俺は苦笑いをしながら頷く。
「で、では。お手を」
「ああ」
こほん、と咳払いをしリムエスは手を差し出す。
「よろしくな、リムエス」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。主」
長いようで短かった黄炎の試練。
見事と突破し、黄炎の化身たるリムエスに認められた。
彼女の力は、これからの戦いで必ず活躍する。
俺も今回の試練で、成長することができた。
まだまだ完全に扱えていないようだが……確実に強くなっている。複数の炎を、能力を同時に扱うことで、戦いの幅も広がることだろう。
「あ、新しいお母さんができたってことは、ついに私にも妹が!?」
「よかったね、ララーナちゃん。ちゃんとお姉ちゃんとして可愛がってあげるんだよ」
「はいです!」
「待ってください! 先ほども言いましたが、自分は」
「あー、はいはい。運命からは逃れられないのだよー」
「自分は!!」
……ははは。締まらないなぁ、本当。