第三十二話 黄炎のリムエス
「ここか。……今までの二つとは明らかに違うな」
「てことは、ここが最終試練の会場ってことかね」
次なる試練へと向かう道中は、やはりなにもなかった。
そのおかげで、次の試練への心構えができた。
そんな俺達の前に聳え立つのは、今までの扉と明らかに違うもの。大きさも二倍ぐらいはあり、どこか盾のような形に見える。
「だったら、今まで以上に気を引き締めないとな」
「いよいよリムエスさんに会うんだね」
この先に、黄炎の化身リムエスが……よし。
「―――来ましたね」
今一度、気合いを入れ直し、俺は扉に触れる。
そして、開いた扉の向こうで待っていたのは……全身に黄金の鎧を纏った人物だった。頭の天辺から、足のつま先まで、露出しているところはない。
「彼女が」
「うん。リムエスだよ」
「やっほー、おひさー」
エメーラが軽く挨拶をすると、リムエスはやれやれと被りを振る。
「相変わらず堕落していますね、エメーラ。そして、その気の抜けた挨拶はなんですか。もっとシャキッとしなさい」
「うへー……そっちも相変わらず真面目過ぎるぞ」
「真面目のどこがいけないのですか? ……さて」
エメーラとの対話をほどほどに、リムエスは右手を顔の前にかざす。
すると、顔を覆っていた兜は炎となって消え去り、その素顔が明らかとなる。
「初めまして、ヤミノ・ゴーマド殿。自分は、リムエスと言います。挨拶もせず、試練を与えたことをお許しください」
純白の肌に肩まで伸びた黄金の髪の毛。
俺を見詰める瞳は、ついつい見つめ返してしまうほど綺麗だった。
「あ、いや。気にしないでくれ。やっぱり自分の力を扱う者を確かめようとするのは、普通だと思うから。それに、俺も君に信用してもらえるように、試練に挑むのを承諾したんだ。これは、俺の意思でもある」
「なるほど。ずっと見ていましたが、ヴィオレットとエメーラが力を貸すはずです」
どうやら、ここまでの俺を見て少なからず心を許してくれているようだ。
「ですが」
緩んだ空気から一変。
ずしんっと重い空気となる。
「これから行う最終試練を突破しない限り、我が炎を預けるわけにはいきません」
「ただ突破するだけでいいのか?」
「そうです」
……リムエスはそう言うが、他に何かがあるように思えてしょうがない。あえて言わない? それとも本当に突破するだけでいいのか?
「さあ、武器を構えてください。最終試練は……自分とのガチ勝負です!!」
「……ん? ガチ勝負?」
なんか丁寧な言葉遣いの中に、変な言葉が入っていたような。
「リムエスは、時々変な言葉が入る時が、あるの」
「あれ絶対素だよね。まあ本人は全然気づいていないみたいだけどー」
な、なるほど。ただの真面目な性格だと思っていたが、少し変なところがあるようだな。
「エメーラ。下ろすぞ」
「ういー」
俺は、エメーラを下ろし、一人前に進む。
「はじめる前に。炎の力を使うのは?」
「ありです。彼女達と一体化したことにより得た炎は、あなたの力でもありますから」
「了解」
炎を使っていいことを教えてもらった俺は、長剣と短剣を鞘から抜く。
「しかし、その武器が炎に耐えられるでしょうか?」
「それなりに良い武器だからな。それに工夫する」
「そうですか。では」
リムエスは、再び右手を顔の前にかざすと黄炎が集まり兜と成す。
更に、左手を前にかざすと、身の丈ほどの盾が生成された。
「それが、君の武器?」
「そうです。守る力。この盾は、容易には突破できませんよ?」
ヴィオレットの弓、エメーラの杖のような槍とは違って……守るための武器。
しかも、戦闘態勢に入った彼女の背後にヴィオレットと同じ炎の輪が出現していた。
「うわー、黄色過ぎて目に悪いー」
「そういえばリムエスって、自分のことを黄炎の騎士って言ってた、よね?」
「そういえばそうだった」
「ママとエメーラさんも自分の色づくしにしてみる?」
「緑一色かー、目に良さそうだね」
「わ、私は……ちょっと」
「今からガチの戦いが始まるので、静かにしていてくださいませんか?」
「あはは。なんかごめん」
気を取り直して、俺達は武器を構える。
相手は、守りの力を持っている。
あの盾も相当な硬さだろう。さて、剣、槍なんかの攻撃系武器と組み合わせている者達は多く見てきたが……盾だけで戦う者は、彼女が初めてだ。
「……とりあえず」
リムエスは攻めてこない。
攻めてこいとばかりに、どっしりと盾を構えて待っている。カウンター狙いか? それとも。
「攻めながら考える!」
「その意気や良し!」
「ありがとう!!」
「ですが!」
無策にもほどがあるが、俺は手始めにと正面から攻撃をする。長剣と短剣に魔力を纏わせ、更に紫炎を重ね掛けする。
これにより少しは耐久度も上がるはずだ。
「効きません!!」
「かった……!」
予想通り、簡単に攻撃を防がれてしまう。
「自分の守りは、マジでガッチガチです!!」
「お、おう! だったら、突破してみせる!!」
ヴィオレット達の言う通りなら、素なんだろうけど……なんかこう、調子が狂うっていうか。
いや、慣れなくちゃいけない。
必ず彼女に勝利して、認めてもらい、共に歩むためにも。