第二十九話 第二の試練
第一の試練を乗り越え、扉を潜り抜けると、また壁に囲まれた一本道が現れる。
まさか、試練の部屋以外にが何も仕掛けがないのか?
―――いや、あれだけの試練を用意しているんだ。油断はできない。
俺は、エメーラを背負い直し、先陣を切る。
その後ろからは、アメリアを背負ったヴィオレットが続く。
「いやぁ、試練を受けているっていうのに、緊張感のない感じだねぇ」
「だったら、下りるか?」
「いやだー。僕はできるだけ、自分で歩きたくないんだよぉ」
本当に歩きたくないのか、より一層俺に密着してくる。
小さいのに、良い感じにむちむちとした体つきだから……こう密着されると、服越しでも伝わってくる。
「わあ、こんなに高い目線初めて」
「こ、怖くない? 大丈夫?」
「大丈夫だよ、ママ」
うんうん。二人は、良い感じに親子の触れ合いというものをしている。
「そういえば、試練って後どれくらいあるんだろうね」
もっともな疑問を呟くアメリア。
今回は第一の試練で、次は第二の試練。看板には、どれだけの試練があるとは記されていなかった。
「リムエス次第だろうねぇ」
「私も、そう思う」
確かに、どれほどの試練があるのかは与えている者次第。
「ねえ、どうやら移動している間は、何もないみたいだしさ。リムエスとの間に生まれる娘ちゃんの話しない?」
「気が早すぎるんじゃないか?」
「いやいや。だって、気になるじゃん? あの真面目ちゃんから、どんな娘が生まれるのかって」
「リムエスの子供……わ、私も気になるかも」
「新しい妹が生まれるんだもんね。どんな子かなぁ」
そこまで言われると、俺も気になってしまう。今までのパターンから考えると、母親とは反対の性格というか、何かを補う感じの子が生まれる。
リムエスは真面目で、鍛錬や試練が好き。
となれば、生まれてくる子は……。
「柔軟な性格をした子、とか?」
「ありえるかもね。でも、僕はお馬鹿っぽい感じの子が生まれると予想する」
「子供っぽい性格、とか?」
「わたしは、いっぱい甘えてくる子がいいなぁ」
各々、リムエスとの間に生まれる子のことを予想しながら、着々と道を進んでいく。
そして、本当に何事もなく次なる試練の場に辿り着いてしまった。
なんだろうな……試練を受けているのに、道中はかなり緊張感がなくてこう……いや、まさかそれが相手の作戦? 道中で油断をさせて、試練を受ける意欲を削いでいる、とか?
それとも、試練を終えた後に、安息の時間を与えている? ……どちらにしろ、試練は確実に突破してみせる。
「開けるぞ」
次なる扉に触れると、また自動で開く。
先に広がるのは、第一の試練とは違い、かなり縦に長い部屋だった。目を凝らして見て見ると、なにやら的のようなものが見えるような。
「お? 次の試練は命中力とか?」
「あ、看板があるよ」
毎度のことのように、看板が用意されている。
ヴィオレットは、アメリアを背負ったまま看板に近づき、ゆっくりと下ろす。
「なになに……ようこそ。第二の試練は、命中と操作。二つ同時に試す場だ。ただ命中させればいいだけではない。炎を操作し、用意された的に見事命中させろ。なお、第一の試練と同じで協力者は一人だけとする。だって」
命中と操作、か。
第一の試練は、相手側から攻撃をされたが。第二の試練は、こちらが攻撃する番のようだ。
操作だったら、エメーラだが……。
「ヴィオレット。今回は、君だ」
「ふぇ!? で、でも私じゃ……エメーラの方が」
自分が選ばれるとは思っていなかったらしく、驚きを隠せないでいるヴィオレット。それに、今回の試練はエメーラの方が最適だと思っているようだ。
「……うえーん。僕は、さっきの試練で疲れちゃったー。無理―」
などと言って、床に寝転ぶエメーラ。
「え、エメーラ? だ、大丈夫?」
「大丈夫じゃないー。ごめんヴィオレット。ここは任せたー」
「でも」
「ヴィオレットならできるって。あんたはさ、できる子なんだ。もっと自信を持てもて」
「……」
エメーラの奴。ヴィオレットのために……。
「そうだよ、ママ。ママはすっごく強いんだから! もっと自信もって!」
「アメリア……」
「頼むよ、ヴィオレット。君の協力が、俺には必要なんだ。一緒に試練を突破しよう。な?」
アメリアに続き、俺は優しく微笑みながら手を差し出す。
「……うん。私、頑張ってみる!」
「がんばれー」
友達から、娘から背を押されたヴィオレットは、俺の手を取り、一体化する。
紫炎の弓を生成し、俺は前へと進んでいく。
「準備はできた。第二の試練を始めてくれ!」
その声に答えるように、看板は消え、代わりにまた数字が表示される。第一の試練のとは違い三十とだけ表示されていた。
これはまさか。
「三十回、的に当てろってことなんだろうね」
そういうことなんだろう。
よし、第二の試練も突破してみせる。