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第六話 鋼鉄の獣を貫く紫炎の弓矢

 全身が銀色に輝く鎧のようだ。

 しかし、本当に鎧を纏っているわけではない。

 鋼鉄の皮膚、いや鱗? ともかく全身が鋼鉄でできている巨大な獣。その鋭き爪には、べったりと真っ赤な血が付着している。

 おそらく、さっき倒したアースベアーのもの。


「カーリー教官! 俺達も」

「下がってなさい! 四人とも!!」


 すぐ目の前の敵の脅威を悟った母さんは、我先にと立ち向かう。


「カーリー教官!?」

「ど、どうしよう? あれ、倒せるの?」


 三人は、ほとんど戦意を喪失している。

 ビッツはまだ戦おうと拳を構えているが、体は正直のようだ。カタカタと小刻みに震えている。


「かった!?」


 想像以上に硬い。

 母さんの槍が簡単に弾かれてしまう。


「三人とも! 今の内に逃げるんだ!!」


 冷静に分析している場合じゃない。

 俺は、母さんが鋼鉄の獣と戦っている間に三人へ逃げるように指示する。


「ば、馬鹿言うな! 教官を置いて逃げるなんて」

「そ、そうだよ。せめて、一緒に戦って」

「ヤミノの言う通りよ!!」


 珍しく息を切らしている母さんが、弾かれるように俺達のところに戻ってくる。

 乱れた呼吸を整えながら、鋼鉄の獣へ槍を構え直しながら叫んだ。


「あたしが時間を稼ぐ! だから早く逃げなさい!! あんた達が敵う相手じゃないわ!! 教えたはずよ! 敵わないと思った瞬間、すでに敗北しているって!! 今は、生き延びることだけを考えなさい!! ヤミノ! 三人を任せたわよ!!」

「わ、わかった!! 行くぞ、お前達!!」

「で、でも」

「くそぉ!!」

「……くっ」


 俺は、セナの手を取り駆けだす。

 それに続き、ビッツとアルスが悔しそうに歯を食いしばりながら後に続いた。


「いいのかよ!」

「……」

「カーリー教官は、お前の母親なんだろ!?」


 振り向くことなく真っすぐ逃げる俺に、ビッツは叫ぶ。

 その間に、戦闘音が後方から響き渡っていた。

 徐々に小さくなっていく……。


「なんとか言えよ!!」

「ビッツ。止めなよ」

「はあ? なに言ってんだアルス!」

「ヤミノさんの判断は正しいよ。今の僕らじゃ、足手まといだ。それに、一番つらいのはヤミノさんだ」


 今は……今は、三人を遠くに逃がす。

 母さん。死なないでくれ……!



・・・・



「間に合え! 間に合え!!」


 なんとか三人を森の外へ逃がした後、俺は急いで母さんのところへ駆けていた。

 だが、今の俺に何ができる?

 ……そうだ、闇の炎。

 まだどんな力かはわかっていないけど、もしかしたら。


(あの、すみません。聞こえてますか? 闇の炎さん! 聞こえてるなら、俺に……俺に力の使い方を教えてください!! 母さんが……家族を助けたいんです!!)


 走っている間も、何度も俺の体内に居る闇の炎に呼びかける。

 自然とじゃだめだ。

 いつかなんてだめだ。

 今すぐ……今すぐ、力の使い方を教えてくれ!


「な、なんだ……左手が」


 まるで願いを聞いてくれたかのように、左手の薬指が紫色に光り輝く。

 現れたのは、あの時にはめられ消えた指輪。

 

 刹那。


 頭の中に、俺が知りたかったことが流れ込んできた。


「……ありがとうございます。まだ本調子じゃないのに」

『パパ』

「アメリア!?」

 

 今度は、この場にいないはずのアメリアの声が脳内に響き渡る。

 

『一緒に助けよう。わたし達ならできる』

「……ああ!」


 指輪から溢れ出す紫の炎が、俺の全身を包み込む。

 俺はそのまま母さんのところに引き寄せられるかのように飛んだ。


「母さん!!!」


 まさに、トドメの一撃を入れようとしていたところだった。

 俺は、鋼鉄の獣と母さんの間に割って入る。

 まるで一気にその場へ瞬間移動したかのように。

 

「―――」


 鋼鉄の獣の爪は、炎に触れた部分が溶けている。予想外のことだったのか。怯んで、後方へ下がった。


「や、ヤミノ? あんた、どうして。それにこの炎」


 バランスを崩した母さんを、俺は抱きかかえる。

 その間も、紫の炎は、俺達を護るように燃え盛っていた。


「母さんを助けにきた。俺達、三人で!!」

「はあ……はあ……じゃあ、この炎が」


 距離をとってから、ボロボロの母さんをゆっくりその場に座らせ、俺は鋼鉄の獣と対峙する。


「時間はかけない」


 燃え盛る紫の炎は、俺の左手に集まり形を成す。

 

「弓?」


 弓だけじゃない。両腕に、両足に同じく紫の炎が鎧のように形成する。

 もっとも目立つのは、背後に形成された大きな円。

 まだ本調子じゃないため、これは未完成の形。

 けど、今はこれで十分。


「やるぞ、アメリア」

『うん。あんな鉄の塊。わたし達の炎でやっつけちゃおう。パパ』


 傍にアメリアが居るかのような感覚……いや、居るんだ。

 アメリアが言っていた通り、俺達は繋がっている。

 静かに弓を構えると、右手に一本の矢が形成される。


「――――」


 まるでよくもと言わんばかりに鋼鉄の獣は咆哮する

 

「焼き貫け」


 突撃しようとした瞬間、鋼鉄の獣の周囲を囲むように十以上の炎の矢が出現する。


「【ヴィオフレア・アロー】」


 一斉に周囲の炎の矢は、鋼鉄の獣を貫き、動きを止める。

 そして、最後に俺から直接放った轟々と燃え盛る炎の矢が、体を焼き貫き、巨大な穴を開けた。

 鋼鉄の獣は、崩れ落ち、紫炎に燃える。


「ふう……」

「ヤミノ……あんた」


 ……これが闇の炎の力。

 さっきまで感覚が研ぎ澄まされて、なんでもできるって本気で思っていた。こんな力が、まだ世界中にあるっていうのか?


「母さん。大丈夫か?」

 

 炎は消え、いつもの感覚に戻った俺は目を丸くしている母さんへ声をかける。

 

「え、ええ。はあ……驚いた。闇の炎っていうのは、あんなにも凄い力だったのね。想像以上よ」


 緊張の糸が解れたのか。

 深いため息を漏らす。

 母さんの言葉に、俺も同意しながら、左手の薬指を撫でる。


「俺も驚いてる。でも、さっきので本調子じゃないんだ」

「そういえば、そんなこと言ってたわね。じゃあ、無茶させちゃったかしら」

「でも、そのおかげで母さんを助けることができた。もし話せるまで回復したら、ちゃんと直接お礼を言わなくちゃ」

「その時は、あたしにも言わせなさいよ? 親として挨拶もしたいし」

「あははは……そう、だね」


 こうして、予期せぬ危機は去った。

 でも、これはまだ始まりに過ぎなかったんだ。本当の危機は、これから起こりうる。

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