第二十四話 ダンジョンを突き進め
魔物達との戦いを突破した俺達は、闇の炎リムエスの気配を頼りにダンジョンを突き進んでいた。
しかし。
「あ、また何かを踏みました!」
「え?」
ララーナの陽気な声と共に、足元に魔法陣が展開。
「うお!?」
「落とし穴!?」
「なんとぉ!?」
さっきまであった足場が完全に消え、巨大な穴に。
肉眼で見ただけで、そこは見えない。
どこまでも落ちていくんじゃないかと思わせるほど闇深き穴。そんな中、俺は咄嗟に空間転移を使い難を逃れる。
「ふう……危なかった」
「もうだめだよ、ララーナ。ここは罠が多いんだから、気を付けて移動しないと」
「ごめんなさい!! アメリアお姉ちゃん!!」
「よしよし。次からは気を付けるんだよ」
「はい!! 皆さんもごめんなさいです!!」
この通り、気を付けて進んではいるが、かなり罠が多い。
「大丈夫よ、ララーナちゃん。こういうの昔を思い出して、少しわくわくしてるから」
「僕はこういうスリルはあんまり味わいたくないなー」
「安心してくださいお母さん! お母さんは、娘である私が護りますから!」
むふん! とエメーラを抱きながら言うララーナだが、エメーラは不安な表情だ。
「いや、だから……あー、うん。お母さんを護ってねー」
「はいです!」
何かを言おうとするも、言い止まった。
本当、なんだかんだで母親してるな。
「本当にやばい時は、俺が護る。安心してくれ」
「わー、かっこいー」
「かっこいいです! お父さん」
「きゅん……」
「パパならできるよ」
……んん! さらっと言ったけど。段々恥ずかしくなってきた。おそらく、いや絶対顔が赤くなっている。妻子達からの期待の眼差しに顔を逸らすと、母さんがにやにやしながら肩に手を置く。
「言うじゃないの、旦那さん」
「ちゃ、茶化すなよ」
更に俺は恥ずかしくなり、我先にと進んでいく。
「良い家族だな」
「レガンさん。いやあの」
うんうんと頷きながら後を追ってくるレガンさん。どこか羨ましそうにな表情に見えるが……。
「俺にもな。妻が居るんだが」
既婚者だったのか。
「いつもいつも俺が無茶をするものだから、心配が絶えない。俺も、夫として妻を大事にしたいとは思っているんだが……なかなかうまくいかないもんだ」
世間一般的な夫婦とは違うけど、やっぱりうまくいかない時が来るんだろうな俺にも。
今は、傍から見ても仲のいい家族に見えているだろうけど……。
「そういうものよ。夫婦なんて。でも、奥さんはそれでもあんたが冒険者をすることを止めないんでしょ?」
「ああ」
「なら、そのままでいなさい。奥さんもあんたの生きざまを認めているから、心配はするけど冒険者をやめさせないんじゃないの?」
「……そうか」
さすが母さんだ。先輩既婚者の言葉は、重みが違う。
さっきまで悩んでいたレガンさんの顔が、すーっと晴れやかなものになった。
「さあ! 帰りを待っている人達のためにも、一気にダンジョンを突き進むわよ! あんた達!!」
「おう!! 待っててくれ!! 我が妻よ!! 悪者を成敗し、お前の下へ帰るぞ!!」
「ほら、ヤミノ。あんたも!!」
「え? お、俺!?」
急に振られ、必死に思考するが、これと言った言葉が出てこない。
だが、なにかを言わないとと思い、言葉を捻り出す。
「新しい家族に会いに行くぞ!!」
……うん。なんか違うような気がする。
「よーし! 新しい家族に会いに行くわよー!!」
『おー!!!』
しかし、母さんはそれに乗って叫ぶ。
ヴィオレット達も、なんだかんだでノリノリで声を上げた。
「突き進めー!!」
「か、母さん! 意気込みは良いけど、少し気を付けて」
「―――あっ」
我に続けとばかりに進んでいった母さんだったが、何かを踏んだようで声を漏らす。
すると、すぐに複数の魔法陣が展開し、そこから魔物が現れた。
「思いっきり踏み抜いたね」
「落とし穴じゃなくてよかったですね!」
「よーし、さっさと倒しちゃおう」
「が、頑張ろう」
「……うん。冷静に突き進みましょう。ごめんなさい!!」
罠を発動させてしまったことで、一気に冷静になった母さんは、謝りながら魔物達へ突撃していった。