第二十話 地下へ続く鉱山
「ここがアグリ鉱山……結構深いですね」
「ああ。ここは、下へ行けば行くほど、良質な鉱石や魔石が掘れる。闇の炎の影響でな」
鋼鉄の都市トードから移動すること数分。
どこまでも続いているんじゃないかと思えるほどに大きく深い穴が空いた場所へと到着した。地下から鉱石や魔石を持ってくるためにあるのか。
頑丈で長い鉄の紐が、鋼鉄の柱から垂れている。これを人力で? と思ったが、魔石がはめ込まれていた。ということは、魔力を込めることで自動的に動く。
一種の魔道具のようなものなのだろう。
他にも、壁にはところどころ出入り口のように穴が空いており、その近くには鉱石や魔石、はたまた荷車が散乱している。
いや、ものだけじゃない。
人も倒れている。おそらくここでイア・アーゴントと戦っていた残りの冒険者達だろう。
「……よかった。まだ息はある。ララーナ! ここは俺に任せて、他の冒険者を!」
「はいです!!」
俺は、一番近い男の冒険者へと治癒の炎で回復を促す。
「やけど? 打撲痕……」
アメリアが冒険者の傷跡を見て呟く。
「今までにないものね。この傷から考えるに、新型は打撃に加えて炎系のなにかを扱えるってところかしら」
「うん。そうだと思うよ、カーリーおばあちゃん」
「ぐっ!?」
「意識を取り戻したようだ」
「おい! しっかりしろ! つらいと思うが、敵は……敵はどうしたんだ!」
大分傷も癒えてきて、冒険者の意識が戻った。
レガンさんが、冒険者を抱きかかえ敵のことを聞き出す。
「奴らは……地下、へ」
「やっぱりか」
「他の仲間、達が……奴ら、を……追いかけて」
どうやらまだ生き残っている冒険者達が、敵を追って地下へ向かったようだ。
「これで大丈夫。動けますか?」
治療を終え、炎を消すと、冒険者は、不思議そうに自分の体を確かめていた。
「凄い、君は回復魔法を使えるのか?」
「まあ、そんなところです」
「お父さーん!! こっちも終わりましたー!! ばっちり回復しましたよー!!!」
どうやら他の冒険者の治療も終わったようだ。
ララーナが、こちらへ近づいてくる。
その後、俺達は傷が癒えたばかりの冒険者達を、もしものためにその場へ残し、地下へ向かうことにした。
「……これは」
「どうかしたのか?」
地下へ近づけば近づくほど、強い炎の意思を感じる。レガンさんは、何も感じていないようだが、ヴィオレットやエメーラはもちろんのこと、アメリア達も感じ取っているようだ。
「ヴィオレット、エメーラ。この先に居る闇の炎のことを教えてくれ」
「あー、なんていうのかねー。一言で言えば……真面目」
「真面目?」
「うん。僕がいつもだらーって過ごしていると、がみがみ言ってくるんだよねー」
「でも、相手のことを思っての行動だと、思う。私にも、人見知りを治すために色々付き合ってくれた、から」
「名前はなんていうのかしら」
「リムエス。それがこの奥に居る闇の炎の名前だよ」
・・・・
『……なるほど。これが、ここの闇の炎の影響か』
仮面の男は、人工の灯りで照らされた地下道を歩いていた。
その背後には、両腕、両足が膨張しているイア・アーゴントが控えている。かなり広いため、イア・アーゴントのような巨体でも余裕がある。
『これほどの硬い壁……やすやすとは崩れまい』
壁に近づき、軽くこんこんっとノックする。
すると。
「ま、待て!!」
「そこまでだ!!」
『しつこい。情けで命を奪わないでおいてやったと言うのに、わざわざ捨てに来たのか?』
傷だらけの冒険者二人が、武器を構え姿を現す。
全身にやけどと打撲痕が目立ち、構えた剣や斧も崩壊寸前だ。
「この先にあるのは、俺達にとって宝だ。そいつに何かをしようと言うのなら容赦はしないと言ったはずだ!」
『ならば、こちらも言わせてもらうが。……そんなこと、私達には関係ない』
すっと、手を振りかざすと、一体のイア・アーゴントがゆっくりと動き出す。
「うおおお!!!」
「せりゃああ!!」
決死の覚悟で、突撃してくる冒険者達。
が、仮面の男はやれやれと被りを振る。
『わからない連中だ。その程度の武器で、こいつらの体を傷つけることができないのはわかったはずだ』
ガキィン!!!
地下道中に響き渡るほどの音を鳴り響く。
イア・アーゴントの腕にぶつかった冒険者達の武器は……あっさりと砕け散った。
「まだまだぁ!!」
「くらえ!!」
それでも、冒険者達は諦めない。
砕けた武器で左右から挟むように、攻撃を仕掛けようとする。
『わからない連中だ。そんなに死にたくば……死ね』
「――――!!!」
「なっ!?」
「これは!?」
攻撃が当たる前に、イア・アーゴントは冒険者達を鷲掴みにする。
逃れようともがくも、まったくと言ってびくともしない。
そして。
「――――!!!」
イア・アーゴントの両手が急激に輝きだし。
「まっ!?」
爆発した。
丸焦げになった冒険者達は、完全に意識はなく、糸が切れた人形のように動かなくなった。イア・アーゴントは、そのまま冒険者達を離し、地面に落とした。
『やはり、あれだけの衝撃では丸焦げがせいぜいか』
少し縮んだイア・アーゴントの両腕を見てふむっと顎を撫でる。
『よくやった。褒美だ。そいつらを食っていいぞ』
「――――」
主人から許しを得た飼い犬のように、イア・アーゴントは鋭い牙を剥き出しにし、丸焦げになった冒険者達を再び鷲掴みにする。
『残さずな』