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第十九話 その頃

「んー。今日は、何しようかしらねぇ」


 世界救済の旅は順調だった。

 現在は、戦いの毎日でボロボロになっていた体を養うために、立ち寄った街で数日間の休暇を満喫していた。

 各々、自由に過ごしており、ティリンも今日は何をしようかと街をぶらぶら歩きながら思考していた。


(旅は順調……あたし達も強くなってる。とはいえ、本当にこれで世界は救われるのかって、つい考えちゃうのよね)


 ティリンは、思い浮かべる。

 それは、彼女の過去。

 ティリンは、辺境の村で生まれ育った。両親はおらず、育ての親である辺境の魔女アメラと呼ばれる女性と二人暮らしだった。

 幸い、膨大の魔力と魔法の才能から何不自由なく毎日を過ごしていた。

 襲い掛かる魔物も獣も、魔法で撃退。

 

 本当の両親はいないが、育ての親であり、魔法の師匠でもあるアメラとの毎日は時間を忘れるほど充実していた。

 そんなある日。

 ティリンに神託が下った。勇者と共に世界を救済する仲間に選ばれたのだ。ティリン自身は、あまり興味はなかった。だが、そのことをアメラに話すと、自分を超える魔法使いになるため行きなさいと言われ、現在に至る。


(強くなるため。師匠のため……そう思って初めて村を出たけど)


 自分を、アメラを超える魔法使いはなかなかいなかった。

 王都へ到着した時も、この程度なのかと見下していた節があった。それに加え、ティリンは自分が思っていたより異性の目を惹く美貌の持ち主であったため、多くの男性が声をかけてきて、うんざりしていた。


 その中には現在旅の仲間であり勇者の将太も居た。

 本人はただの挨拶。仲間として交流を深めたい。そんなことを言っていたが、ティリンにはそうは思えなかった。


「ん? あれは」


 昔を思い出しながら歩いていると、見覚えのある後ろ姿を目撃する。

 

「勇者様! あ、あのお時間はありますか?」

「ああ。今は休暇中だからね。なにかあったのかい?」

「ありがとうございます! あのよかったらこの後」

「待ちなさい! 抜け駆けはだめよ!!」

「将太様! あたしが作ったお菓子を是非!」

「はははは。慌てない慌てない。僕はどこにも逃げない。順番に。順番に。ね?」


 多くの女性達に囲まれていたのは将太だった。

 見慣れた光景だ。

 将太は、行く先々で女性達に囲まれては言い寄られている。


「そうだ。この先に、雰囲気の良い喫茶店があったんだ。そこで話を聞くよ」

「きゃー! 将太様とご一緒できるなんて!」

「ぜ、是非!」


 女性達の肩を抱き、そのまま姿を消していく。

 そんな光景を見ていたティリンは、くるっと踵を返す。


「あっちに行こーっと」


 背を伸ばしながら歩を進めるティリン。


「……そういえば、あいつ。今頃なにしてるのかしらね」



・・・・



「はーっはっはっは! よく来たな、二人とも!!」

「うるさいぞ。あんまり騒ぐな目立つ」

「お久しぶりです。シャルルさん」

「うむ! 久しいな、ファリー。フェリー。ようこそ、リオントへ!」


 ヤミノ達が、王都へ向かっている最中。

 フォレントリア森から珍しい客人達が訪れていた。


「お、おい。あれってエルフじゃないか?」

「本当だ。わ、初めて見た」


 当然のようだが、目立ってしまう。普段、人前には出ず、人間嫌いとして有名なエルフ。ひとたび街中に現れれば、その人離れした美貌につい目がいってしまう。

 それに加え、リオントでは知らぬ人はいないシャルルも居るのだから、余計に目立ってしまう。


「お前、変装はどうした? 聞いた話では、姿を変えて街をぶらぶらしているそうじゃないか」


 北門を越え、移動しながらファリーは問いかける。

 

「友人達を出迎えるのだ。本当の姿のほうがいいであろう? それに」

「はわ~、もふもふ~」

「我が尻尾をもふれないからな。フェリーが」

「はあ……」


 フォレントリアの森での一件以来、それなりに遠話魔法で話すようになったシャルルと二人。

 そんなおり、シャルルがリオントに遊びに来ないか? と誘ったところ意外にもあっさり了承した。

 

(こいつなりに、変わろうとしているのだろうな。くっくく)

「なんだ? 言いたいことがあるならはっきり言え、駄狐」

「ならば言おう! 残念だが、今ここにヤミノはいないぞ?」


 シャルルがそう言うと、ファリーはびくっと体が震え、立ち止まってしまう。

 そんな反応を見て、シャルルはにやぁっと笑みを浮かべた。


「……なぜ、あの男が出てくるわからないが。私には関係ない」


 だが、ファリーは何事もなかったかのように再び歩き出す。


「君ぃ」

「なんだ」


 並走しながら、シャルルはにやにやと話しかける。


「やはりそういうことなのか?」

「なんのことかわからないが、的外れだ。私は、あいつのことを一応友として認めているだけ。それだけだ」

「ほー、友」

「そうだ」

「わ、私もです。彼のことは、お友達だと思ってます」

「うんうん。仲が良いのは良きことだ。では、親睦を深めるために街を案内しよう! そして、我が手に入れた新たな力も見せびらかしてやるぞ!!」


 高笑いするシャルルを見て、ファリーはそれが呼び出した理由かと察した。


「変なところへは連れて行くなよ」

「わかっている。ほれ、フェリーも遅れるな」

「はい!」

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