第十八話 熱血ギルドマスター
「ここがトード?」
「ええ。私も来るのは本当に久しぶりだけど、相変わらず頑丈そうな外壁ね、ここは」
緊急救援が届き、すぐにアグリ鉱山の近くにある鋼鉄の都市トードへとやってきた俺達。
鋼鉄の都市にふさわしく、外壁は全て鋼鉄。
更にそこへ防御結界をも重ね掛けしているため、強度は尋常ではないだろう。高さもかなりあり、外壁を守護する兵士達が、俺達のことを見ている。
「お前達か! マルクスが言っていた救援者というのは!」
すると、待っていましたと言わんばかりに茶髪の男が近づいてくる。
鎧は最小限。
両手と両足に鋼鉄の武具を纏わせており、魔石のようなものがはめ込まれている。よく引き締まった筋肉。太過ぎず、細過ぎず。
よく鍛え上げられた体つきだ。
「は、はい。ヤミノ・ゴーマドと言います。失礼ですが、あなたは?」
「おう! 俺は、このトードのギルドマスターレガンだ!! よろしくな!!」
そう言って武具を外し、右手を差し出してくる。
まさかギルドマスターが出てくるとは。
「はい。よろしくお願いします」
差し出された手を握り、俺は挨拶をする。
それから母さん達の紹介をし、さっそくどんな状況なのかをレガンさんから聞いた。
今から一時間半ほど前のことだ。
突然、仮面を被った人物が二体のイア・アーゴントを連れてアグリ鉱山を襲ってきた。
鉱山で働く者達は、もちろんイア・アーゴントのことを聞かされていたため、戦える者達だけを残し一目散に逃げた。
「逃げてきた連中の話だと、襲ってきたイア・アーゴントは報告になかった姿をしていたらしい。見ろ」
注目する中、レガンさんはとある紙を勢いよく俺達に見せる。
「本当にこんな感じだったんですか?」
「ああ。俺が、聞いた話から完璧に再現した。特徴としては、腕や足が膨張していたらしい」
紙に描かれていたのはイア・アーゴントの絵。
原型は、俺が出会ったあいつだろう。
しかし、レガンさんの言う通り、腕や足が膨張している。もし絵の通りなら、そこに何かしらの能力があるのかもしれない。
「今、鉱山に居る冒険者達がなんとか持ちこたえている。だが、それも時間の問題だ。さっそくだが、アグリ鉱山へ向かうぞ!!」
「待ってください! 相手は通常の攻撃が効きません。ですので、ここは俺達に」
「今行くぞ!! お前達ぃ!!!」
「……」
「行っちゃったね」
止める暇もなく、レガンさんは駆け抜けていった。
なんとなくわかってはいたが、勢いが凄い人だ。
「しょうがないわね。追いかけるわよ、ヤミノ」
「わかってる」
相手は新型。
しかも、二体。
仮面も居るということもあり、力はなるべく温存しておくべきだろう。とはいえ。
「うおっ!? お、お前達どこから」
「空間転移です」
レガンさんを先に行かせるわけにはいかないので、空間転移で一気に距離を詰める。
「なに!? 話には聞いていたが、本当に使えたのか!!」
「使えるから、救援を受けてすぐ来れたのよ?」
「おお! そうだったな!!」
そこからは走って移動することになった。
アグリ鉱山は、トードから走って数十分ほどらしく、いつもは重い鉱石や魔石を乗せた荷馬車で行き来しているようだ。
「それにしても、なんでまた闇の炎があるところに」
移動しながら母さんが呟く。
確かに、そうだ。
この前も、エメーラのところへ攻めてきたし。リオントも元々闇の炎があった場所だ。
「やっぱり、連中は闇の炎を狙っているから、なんじゃないか?」
「その考えが一番しっくりくるわね」
とはいえ、他のところでも出没しており、人を襲っている。
だが、まだ頻度が少ない。
どこにでも現れるような存在だとすれば、もっと世界中で暴れられるはずだ。そうなれば、まだ戦力が心もとないこちらとしては、対処にしきれない。
魔剣や聖剣などの特殊武器を持っている者達も少ないため、被害は甚大になるだろう。
仮面の奴が実験をすると言っていた。そして、消滅したイア・アーゴントを何かの道具で回収していたのも目撃した。
……もしかしたら、あっちも戦力不足なのかもしれない。
そして、実験を行いながらデータを収集し、徐々に戦力を増やしている。なら、こっちも急がないといけないかもしれないな。
「お父さん! 見てください! 人が倒れています!!」
「ララーナ! 回復を!」
「お任せあれ!!」
アグリ鉱山へ向かう途中の道に、武装した女性が倒れていた。
まだ意識はあり、ララーナがすぐ傷の治癒を施す。
「おい! まだ意識はあるな? 他の者達はどうした?」
「ギルド、マスター……」
「大丈夫ですよ! すぐ痛みなんてすーっとなくなりますから!」
治癒の炎に包まれながら、女性はゆっくりと口を開く。
「仮面を被った、人間が……二体のイア・アーゴントと、一緒に……地下にある、闇の炎のところに……」
「地下?」
「ああ。アグリ鉱山にある闇の炎は地下にあるんだ」
「はい! これで終わりです! あ、チョコ食べますか? 元気になりますよ!」
「あ、ありがとう。凄いね、あんなに痛かったのに」
治療を終えた女性に、チョコを渡すララーナ。
どうやら彼女はもう大丈夫のようだ。
「俺達は、このままアグリ鉱山へ向かう。お前は、このままトードへ迎え」
「で、でも」
「あんたも戦ってわかったんじゃない? 普通の攻撃が効かない。勝てないって」
一緒に来ようとする女性に対してエメーラがきつい真実を突き付ける。
すると、女性はその時のことを思いだしたのかぎゅっとチョコを握り締め口を閉ざす。
「ここは、俺達に任せてください」
「……わかりました」
女性は、その後頭を下げ、真っすぐトードへと走っていった。
「よし。急ごう」
アグリ鉱山はすぐそこだ。