第十七話 緊急救援
アメリアの代わりに空間転移の魔法陣を出して、どれくらいが経っただろうか。
昼飯を食べながらも、ミウと会話をしながら過ごしている。
「ふむふむ。そうか、ここを……なら、あの素材を……」
悩んではいるが、本当に楽しそうだ。
「そうだ。お前に聞きたいことがあったんだが」
「ん?」
「―――お前、人間か?」
「え? それはどういう」
いや、わかっている。
今までずっと謎だった闇の炎。それを平気で操っている。それだけじゃない。新たな命を生み出している。
闇の炎との間にできた子供。
だが、それが俺の力なのか。闇の炎の力なのか。わかっていない。
「一応人間のつもり、なんだけど」
「一応か……まあ、悪い気は感じない。闇の炎か……ミウの頭脳をもってしても解明できない存在だ」
闇の炎。
本当に謎が多い。
闇の炎達自体も、記憶が欠落している。でも、これだけははっきりと言える。彼女達は……悪しき存在ではない。
「パパ」
「アメリア。それにヴィオレットも」
心配して見に来てくれたんだろうか。
「大丈夫? 私、交代するよ」
テーブルのうえに下り、俺のことを見上げながら言ってくるヴィオレット。
対して、俺は大丈夫だと微笑む。
「他の皆は?」
「ゆっくりしてるよ。フィリアちゃんは、はしゃぎ過ぎたみたいでララーナちゃんと一緒にお昼寝してる」
「エメーラが見てるから、大丈夫」
ちゃんとお母さんしているみたいだな。あーだこーだ言うけど。
「母さんとセリーヌ様は?」
「二人で色々とお話してるよ」
「カーリーが押され気味」
「ははは」
本当、母さんはセリーヌ様に弱いんだな。余計に過去なにがあったのか気になってしまう。
「ミウ。順調?」
「もちろんだ、アメリア。多少時間はかかったが、そろそろ次の段階に移行できる!」
「それはよかった。だけど、空間転移を扱えるほどの魔道具だ。簡単には作れないだろ?」
「多少時間はかかれど、ミウはやり遂げて見せる! お前達は、その時は今か今かとわくわくしながら待っているがいい!!」
そう言って、ペンを走らせる早さが上がる。
そして。
「よし! 組み込む術式はこんなものだろう!!」
ついに魔道具へ組み込む術式が完成したようだ。
どうだ! と言わんばかりに板に描かれた術式を見ると……確かに、いくつか違う術式が組み込まれている。
「いいか! 魔道具に組み込む術式は、通常のものにそれを補う術式をうまい具合に組み込むのだ! ちなみに空間転移のような複雑かつ高等なものには、ミウがこれまで編み出してきた」
《ヤミノくん!! 緊急事態だ!!》
「マルクスさん?」
ミウが自慢げに説明している中、マルクスさんから思念が届く。
《協力を要請していたギルドから情報が届いた。仮面被った者が、イア・アーゴントを連れてアグリ鉱山を襲撃しているそうだ!》
「アグリ鉱山が襲撃? 確かそこって」
《ああ。闇の炎がある場所だ》
鋼鉄の都市トード。
そこが保有している鉱山のひとつがアグリ鉱山。そこには、黄色の闇の炎が存在しており、エメーラが居たフォレストリアの森と同様に、鉱山へ影響を与えている。
闇の炎の力により、他のところよりも質のいい鉱石や魔石が採掘できる。そのおかげで、トードは他のどこよりも強固な外壁を作っており、難攻不落とも言われている。
「なにぃ!? アグリ鉱山が襲撃されているだと!? おい、どういうことだ!?」
「ど、どうしたんだミウ」
「どうしたもこうしたも! そこで採れる鉱石や魔石がなくなればミウも困る!! 今すぐその襲撃者を倒してこい!!」
「あ、ああ! 言われなくても!!」
それは、世界的にも困る。
俺は、すぐヴィオレット達と部屋から出て行く。
「ヤミノ!」
「母さん! 皆!!」
母さん達のところへ向かっている途中だったが、あっち方からやってきてくれた。
おそらく俺と同じでマルクスさんから連絡を受けたんだろう。
「ようやく出撃ね」
「それにしても、アグリ鉱山ね……確か、以前はフォレストリアの森を襲撃したんだっけ? まさか敵は闇の炎を狙っている?」
「可能性はあります。ですが、あの様子だと教えてはくれないでしょう。それよりも今は、アグリ鉱山へ向かいましょう!」
「そうですね! 怪我人は、私がめらめらー! っと回復しちゃいますよ!!」
「向かうのは良いけど……先輩はお留守番してください」
空間転移をしようと魔法陣を展開すると、母さんがセリーヌ様に言う。
「フィリア様と一緒に」
「……うん、しょうがないわね。これでも私、王妃だもんね」
これでもって……。
「エメーラちゃん、ララーナちゃん……」
転移の準備ができたところで、フィリア様が心配そうに近づいてきた。
そんな彼女を見て、ララーナはエメーラを抱きかかえたまま近づいていく。
「大丈夫ですよ、フィリアお姉ちゃん。悪い奴らをやっつけてすぐ帰ってきますから!」
「本当?」
「本当です! 私達、すっごく! 強いですから!! ね? お母さん!」
「……はあ。めんどくさいけど、やるしかないか」
ため息交じりに、エメーラは手のひらで炎の花を作り出す。
「戻ってきたら遊んだげる。だから、泣きそうな顔しない」
「……うん」
「いい子だね。ほいじゃ、行こうか。ヤミノ」
フィリア様の笑顔を見て、どこか満足げな表情をしながらエメーラは言う。
「ああ。行こう、アグリ鉱山へ!」