第十三話 元S級冒険者
ミウの言った通り、第一制作部屋を出て真っすぐ進むと、巨大な魔石が中央にはめ込まれた鋼鉄の扉が見えてきた。
「あそこだよな?」
「でしょうね。それにしても魔力武器か」
移動しながら母さんは、魔力を注ぐ。
すると、魔力の刃が生成され、一本の槍となった。
「よく魔力を武器に纏わせて戦ったりするけど、それと同じようなものかしらね」
「ちょっと違うんじゃないかしら? あれは魔力を纏わせているだけだけど。これは魔力を固定することで刃としているみたいよ。カーリー」
セリーヌ様も移動しながら剣型の魔力武器へ魔力を注ぐ。
「ん? そういえばララーナは?」
「エメーラも居ないわね」
鋼鉄の扉の前に来た時に気づく。
静かだと思ったらララーナとエメーラ、それにフィリア様の姿がない。
「三人なら制作部屋に残っていたわよ。楽しい魔道具もいっぱいあるみたいだから」
「まあ、戦いを見るよりはそっちの方がいいのかも」
フィリア様はしっかりしているが、五歳の女の子だ。
やはり戦いを見るよりは、楽しい道具で遊んでいた方が良いだろう。
「ふふ。今回は、大人同士で楽しみましょう」
「俺も……まあ一応大人か」
「大人も大人よ。酒を飲めるし、妻子持ちでしょ? あんた」
にやにやとしながら横っ腹を小突いてくる母さん。
大人と言えば大人だが。
二人に比べたらまだまだだろう。なんていうかこう……魅力的なものが。
「それで、ここはどうやって入るのかしら?」
「少々お待ちを」
扉の前に立っていたミウズが頭を下げてから、はめ込まれた魔石に触れる。
すると、魔石が輝きだし、扉が開いていく。
「この屋敷には、このようにミウ様。もしくはミウ様のマナから作られた我々の魔力を注がないと開かない部屋が多々存在します」
「へえ、そういう部屋って重要な部屋ってことでいいのかしら?」
「その通りです、カーリー様。許可なく無理矢理入ると」
「入ると?」
「魔石にこめられた魔力が飛び出します」
……なるほど。防犯対策もばっちりってことか。
「ち、ちなみにそれってどれくらいの威力なんだ?」
「込められた魔力にもよりますが、鋼鉄を容易に貫くほどの威力があります。ですので、ご注意ください」
さすが数多の魔道具を発明した者の屋敷。
色々とやばい。
「なかなか広い場所ね」
実験場はかなり広く。思いっきり戦っても大丈夫なほど。天井も高く、魔石の光により明るく照らされていた。
「さて、じゃあさっそくだけど」
にやりと笑みを浮かべ、俺に武器を向けてくるセリーヌ様。
「勝負しましょう、ヤミノくん」
「お、俺とですか?」
「一度戦って見たかったのよ。カーリーが鍛え上げた子が、どれほどの実力なのか。確かめさせてもらうわ」
「ヤミノ」
「母さん?」
「死ぬんじゃないわよ」
……母さん。できれば止めてほしかった。
「ふう……望むところです。こちらこそよろしくお願いします!」
「とはいえ、今回は実験も兼ねての戦いよ。魔力武器が闇の炎にどれだけ耐えられるか」
「じゃあ、武器が壊れた方の負けってことでいいでしょうか?」
「それでいいわ。ヤミノくん、気をつけなさいよ? 君の火力だとすぐ壊れそうだからね」
「その辺はうまく調整しますよ」
実験場にいつの間にかミウズが数人集まっており、各々ミウが持っていたものと同じ板とペンを持って待機していた。
「さあ、いくわよ!」
鋭い眼光。
ぐんっと残像ができるほどの素早い動き。
ここへ来るまで母さんと戦う姿を見てはいたが。
「鋭い……!」
「へえ。初撃は、しっかり避けたわね。さすが」
セリーヌ様の戦闘スタイルは、素早い動きで相手が気づく前に倒すというもの。
初撃は、真正面からの突き攻撃。
まるで瞬間移動でもしたかのような距離を詰め、一気に相手へと剣を突き立てる。これで引退しているって……冗談きついぞ。
常日頃突き攻撃は母さんから食らっているけど、セリーヌ様の突き攻撃は段違いだ。
「わあ、先輩。本当に容赦ない」
「ほ、本当ですよ。避けたからいいもの。完全に頭に穴が空く威力ですよ? さっきの」
ガキィン! と魔力武器を弾き、一度距離を取る。
そして、さっそく刃に闇の炎を纏わせた。
「……よし、これぐらいならまだ大丈夫みたいだな」
ギリギリイア・アーゴントを傷つけれるほどの火力。
「いいわね。じゃあ、私も」
セリーヌ様もここへ来る間で、火力が上がっている。
元々センスがよかったのか。
成長スピードが尋常じゃない。俺よりは低いが、最初に永炎の絆で闇の炎を得た母さんに迫る勢いだ。
「今度はこっちから攻めます!」
「かかってきなさい!」
俺も真正面から攻める……と見せかけ、左へ跳び、剣を振るう。
余裕で回避されるが、逃がすまいと再度攻める。
距離は取らせない。
これは回避できないだろうと、思った刹那。
セリーヌ様はもう一本の魔力武器を振るう。
「―――考えてることは一緒だったみたいですね」
「互いに二本持ってきていたからね」
俺もセリーヌ様と同じく二本目を持っていた。
ただし、違うのはセリーヌ様が普通の長剣型で、俺は短剣型。
「はあ!!」
「そぉれ!!」
今度は、距離を取ることなく攻撃、回避、攻撃、回避と互いに譲らない攻防が始まる。
「あぶっ!」
「まだ速くなるわよ!」
「負けるか!」
相手は王妃だと言うのに、徐々に熱くなっていく。
「そこ!」
「っとと……痛ぁ!」
あ、やば。武器を弾けたけど、骨とか大丈夫かな?
「だ、大丈夫ですか?」
「ふふ。大丈夫よ。あー、でも武器が破損しちゃってるわね」
弾かれセリーヌ様の手から離れた魔力武器の刃にひびが入っていた。
「でも、まだやれるわよね。ひびが入っただけだから」
「そ、そうですね」
大丈夫大丈夫、と武器を拾い、再びセリーヌ様は構える。
「破壊するつもりでやりましょう!」
ミウもそう言っていたけど……本当に壊していいのだろうか? そう思いつつ、俺はセリーヌ様と激しくぶつかり合うのだった。