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第十話 無人島での襲撃

「ほれ、炎の花だ」

「わあ、綺麗!」

「あ、触っちゃだめですよ。フィリアお姉ちゃん。花と言っても炎なんですからね」

「エメーラは、本当に器用だな。俺もやってみたけど、ちょっと歪になる」


 船に乗って二日目の昼間。

 そろそろ目的地に到着するという頃、俺達は甲板で今か今かと待ちながら、訓練を兼ねて遊んでいた。

 炎の操作。

 エメーラが一番うまいので、フィリア様を喜ばせつつ炎を色んな形に変えていた。


「……」


 ヴィオレットも、エメーラの炎の花を見て自分の炎を変えようとするも、ぼんっと弾けてしまう。

 明らかに落ち込んでいるので、俺は抱き寄せて一緒に炎の操作をやることに。


「まあ、落ち込むなって。僕は、炎の操作がうまい代わりに火力はないんだからさ」

「で、でも火力があってもそれを操れないと……」

「はいはい。だったら、頑張れー。あ、フィリア。だから触ろうとするんじゃないって」


 そんな緩い感じで訓練をしている横で。


「踏み込みが甘いわよ! カーリー!!」

「ちょっ! 先輩、あんまり暴れると船がもちませんよ!?」

「大丈夫だよー。わたしが空間を歪めてるからー」

「だって!」

「も、もうどうにでもなれよぉ!!」


 大人達が、激しい訓練をしていた。

 アメリアが気を利かせて、空間を歪めることで衝撃が外に逃げないようにしているので大丈夫だろうけど……母さんは、イケイケのセリーヌ様にもう自棄である。

 

「ん? これって」


 昨日とは打って変わって、緩やかな時間が続く中。

 ファルク様から渡された魔道具が光り出す。

 手のひらサイズの板状の魔道具。

 そこに魔石がはめ込まれており、目的地の近くに来ると魔石が光り出すと言っていたので、どうやら到着したようだ。


「えっと、確か光り出したらこうやって掲げて」


 魔道具を掲げると、魔石から光の線が伸びる。

 光の線は、何もない空間に当たり、波紋となって広がっていく。


「島が……」


 空間は歪み、先ほどまで何もなかった海に巨大な火山、森林……自然豊かな島が現れた。


「見てください! 山から煙が出てますよ!」

「ララーナちゃん。あれは火山って言うんだよ」

「おお! あれが本で見た火山!!」


 そのまま船は進み、完全に入ったところで空間の歪みは戻っていく。

 無人島と言っていたが、明らかに人工的に作られた船場がある。

 そこに船は停まり、俺達は島へ降り立った。


「ここに、謎の天才発明家が」

「こんな大きな島を覆う結界を張るなんて……相当な実力者みたいね」

「実は、私も会ったことがないから楽しみなのよね」

「まあ、先輩は身分的にあまり遠出できませんからね」


 最初こそぎこちなかったが、母さんもすっかり先輩呼びが自然になってきている。妻や娘達も、フィリア様と仲良くなっているし、良い船旅になったのは間違いない。

 さて、到着したら出迎えが来るって言っていたけど……誰も居ないな。


「あ、見てパパ。向こうから誰かやってくるよ」

「あれは……人? それも五人」


 どうしようかと困っていると、島の奥から五人の人影が。

 あれ、なんかおかしいぞ。

 

「同じ顔?」

「あら、五つ子ってことかしら。でも……似すぎじゃない?」


 こちらへ向かってくる五人。それは全員女性だが、全員同じ顔だった。双子とか三つ子とか、そういうのは知っている。

 顔が似ている兄妹。だけど、今こちらへ向かってきている女性達は似すぎている。というか、まるで一人の人間がそのまま分裂したかのような。それだけ似ているんだ。

 

 しかも、全員恰好も妙だ。

 肌にぴっちり張り付いたかのような服? を着ており、手や足には魔石をはめ込まれた防具。なによりも目立つのは、手に持っている魔石がはめ込まれた刃のない武器だ。

 剣や槍、斧? まあ棒にしか見えないけどおそらく斧だ。ともかく多種の武器が揃っている。

 

「パパ。明らかに歓迎されているって雰囲気じゃないよ」

「……」


 緊迫した空気。

 まさか、と思った刹那。

 光の刃が生成され、女性達がこちらへ向かって突撃してくる。


「どういうことだよ! これは!」


 俺は、腰に収まていた長剣を抜き一番前の剣を持った女性と対峙する。


「知らないわよ! でも、明らかに攻撃の意思があるのは確かよ!」


 母さんも槍で応戦。

 

「パパ!!」


 剣の女性とつばぜり合いになっているところへ双剣と斧の女性が左右から襲おうとしてくるも、アメリアが炎の矢で撃退せんと放つ。

 が。


「え?」


 簡単に弾かれてしまう。

 ならば、そのまま空間を超え死角から攻撃しようとするも。


「また!」


 背後に目でもあるのかというほどの反応で矢を弾く。

 

(あの武器……明らかに普通じゃない。普通の武器なら、とっくにダメになっているはずだ!)


 アメリアの火力は確かに低い。

 だが、それでも普通の武器なら耐えられないはずだ。それがどうだ。相手の武器には破損している箇所がまったくない。

 

「この!」


 母さんもこのままだと押されると思い、槍に闇の炎を纏わせ振るう。

 

「エメーラ!」

「はいよー。ララーナ。二人をしっかり守りなよ」

「お任せください!」


 俺も、普通の武器ではなく闇の炎により生成された武器で応戦することにした。


「はあ!!」


 槍と斧が一斉に襲ってくるも、俺はそれを一薙ぎで掃う。

 

「まだまだ!!」

 

 緑炎を操り、刃に纏わせることで剣を弾く。

 

「……」


 さすがに耐えられなくなったのか。光の刃は砕けてしまう。女性達は、それを確認すると突然後退し、一列に並んだ。

 

「今度はなんだ?」

「油断するんじゃないわよ、ヤミノ。明らかに普通じゃないわ」

「わかってる」


 今度はどう動く? と相手を睨みつけていると。


《よーし、その辺で終わりだ。すまないな、突然襲ってしまって》


 どこからともなく声が響き渡る。

 とても幼い声だ。

 どこからだ? と周囲を見渡していると、剣を持っていた女性が見たことのある魔道具を取り出す。

 どうやら声はそこから響いているようだ。


《闇の炎というものが、どれほどのものか知りたくてね》

「あなたが、この島に居る発明家、ですか?」

《天才! 発明家だ。ミウと呼んでくれ。そして、そこに居るのは人工精霊。ミウの手伝いをしてくれている者達だ》

「人工精霊? 待って。精霊を人工的に作ったってこと?」


 ミウと名乗る発明家の言葉に、母さんは驚きながら問いかける。

 それもそのはずだ。

 精霊とは、この世界の生命エネルギーであるマナによって生まれる存在。そして、知能を持ち強大な力を持つ精霊は上位精霊と呼ばれ、属性ごとに一体しかいない。

 自然が生んだ存在。

 人工的に作られたなんて、俺も聞いたことがない。そもそも、目の前に居るのは明らかに人間にしか見えない。本当に精霊なのか?


《そう言っているだろ? ミウは天才だからな。まあ、ミウ自身も精霊だから、簡単なのだよ! どうだ? 凄いだろ? 凄いよな!?》

「うん、凄い!」

「凄いです!」


 何が凄いのかわからないようだが、とりあえず凄いと言うララーナとフィリア様。


《そうだろう! 凄いだろう!! いい! やはり褒められると気分がいい!! よし、お前達! 客人をミウのところへ案内するんだ!!》


 ミウと名乗る発明家の言葉に女性達はこくりと頷く。


「……行こう」


 突然の襲撃に驚きはしたが、これでようやく天才発明家と対面できる。

 なんだか想像していた人物像とかなり違うけど……それにしても、精霊か。会うのがますます楽しみになってきたな。

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