第五話 謎の発明家を求めて
「――――ふう。緊張したぁ」
「あたしもよ……セリーヌ先輩ったら、昔と変わらないノリで接してくるんだもの……」
「あははは。カーリーさんの天敵ですもんね」
なんとか王との話し合いを終えた俺達は、豪華な一室でぐったりとしていた。
テーブルには、甘い匂いを漂わせている焼き菓子と紅茶やコーヒーなどが並べられており、エメーラとララーナ、ヴィオレットは美味しそうに食べている。
アメリアは、その様子を笑顔で見ながら俺の頭を撫でてくれていた。
「お疲れ様、パパ。カーリーおばあちゃんも。ごめんね、今日は全然役に立てなくて」
「気にしないで、アメリアちゃん」
「そうだぞ、アメリア。お前は、十分役に立っているんだから」
さて、この疲労を和らげるために熱いコーヒーで。
そう思いカップを手に取った刹那。
「邪魔をするぞ」
「寛いでいるかしら?」
「ファルク王!? セリーヌ王妃!?」
王と王妃が同時に部屋へ訪れた。
いや、誰か来る気配はしていたけど。
あれ? セリーヌ王妃の隣に居る女の子ってまさか。
「見て見て、カーリー。長女のフィリアよ。ほら、ご挨拶して」
「はじめまして。フィリアといいます」
「今年で五歳になったのよ」
五歳にしては、言葉遣いが丁寧だ。これが王族の教養! 俺が五歳の時って確か……あ、母さんから貰った木剣を楽しそうに振っていたっけな。
それに比べて、フィリアちゃんは……いやフィリア様は、なんて理知的。それでいて可愛い。
セリーヌ王妃の血を色濃く受け継いでいるようで、髪の毛は茜色。綺麗に整え、母親とお揃いの白いドレスを身に纏っている。
ただし、肩などは出ておらず、清楚な感じだ。
「ふふ。丁寧にありがとうね。あたしはカーリー。お母様とは、その……先輩後輩同士なの」
「なに、さっきの間は」
「あははは。だって、お互い冒険者を引退した身ですし」
「そんなの関係ないわ。引退しようと、身分が違うくなろうと。あなたは、私の可愛い後輩よ」
「か、可愛いとか。この歳で言われるのはちょっと、いや! もの凄く恥ずかしいので。どうかご勘弁を!」
あー、また母さんが大変な目に。
やっぱりセリーヌ王妃が相手だと、さすがの母さんも調子が崩れてしまうようだ。
「はいはい。あ、それと本当は息子も連れてこようと思ったのだけど。今は、学園に居るか」
レノス王子。
今年で、十七歳となり、今は王立学園に通っている。噂では、妹を溺愛しており、毎日のように妹の可愛さを語っているとか。
「いえ、気にしないでください。あ、フィリア様。あたしの息子と孫を紹介しますね」
うん。そろそろ母さんを助けないとな。
それに、王女様に挨拶をしないのも失礼だ。
とは言ったもの正直自分の作法が合っているかどうかわからないので、自分なりに挨拶をする。幸いにも、ファルク王やセリーヌ王妃は、あまり気にしない人達だったのでスムーズに挨拶が済む。
と、そこでララーナが何かに気づきあっ! と声を上げる。
「お父さん! 私、重要なことに気が付きました!」
「重要なこと?」
ララーナの言葉に、視線が集中する。
じっとフィリア様を見詰め、何を言うのかと思えば。
「アメリアお姉ちゃんも、私もまだ零歳ですよね!」
「え?」
と、フィリア様が目を丸くする。
当然と言えば当然だ。
明らかに自分より年上な容姿をしているのに、年下だと言われたのだから。それも赤ちゃんと同じ零歳だと。
「ということは、フィリアちゃんをお姉ちゃんと呼ばなければならないのでは!?」
「あ、確かに」
アメリアは、天然なのか。それともララーナの発言に乗ってあげているのか。
ぽんっと手を叩く。
まあ、確かに年齢的にはそうなんだろうけど。
「お姉ちゃん……?」
私が? と言いたそうに自分を指差しながら母親であるセリーヌ王妃を見るフィリア様。
「よかったわね、フィリア。可愛い妹分が二人も」
セリーヌ王妃もかなりノリノリのようで。
「はっはっはっは! それはいい! ほら、フィリアお姉ちゃん。妹達とあっちで遊んできなさい」
「はい!!」
「わーい! なにをして遊びますかー!」
「それとも一緒に本でも読む? フィリアお姉ちゃん」
「え、えっと。それじゃあ」
うん。まあ三人が楽しいならいっか。
そう思いながら、三人を見ていると、ファルク王が何かを言いたそうにこちらへ近づいてくる。
「さて、娘達が遊んでいる間に。話し合いの続きをしよう」
そう言って椅子にどかっと腰掛けるファルク王。
俺達も、無言で頷き座る。
「それで、話と言うのは。やはり計画について、ですね」
率先してマルクスさんが、口を開く。
「ああ。お前達が言う計画は、普通ならできないものだ。だが、空間転移というとんでもない移動手段を使うことで、実現はできる。イア・アーゴントへの対処も永炎の絆により闇の炎の使い手を増やすことでクリア。……だが、大き過ぎる力はそう何度も使えない。だろ?」
そう。計画の要は、空間転移と永炎の絆。
その内のひとつである空間転移が問題となる。
「聞いた話じゃ、燃費が悪く、そう何度も使えない。そうだったな? ヤミノ」
「はい。最初の頃よりは、使える回数も増えてきていますが。もし、予想外の乱戦となれば……」
「それに、永炎の絆も問題点があるわ。確かに、闇の炎を使えるようになってイア・アーゴントに対抗はできるのだろうけど。今の私のように、こんなに小さな炎じゃ、乱戦はおろか倒せるかどうか」
セリーヌ王妃の言う通り、イア・アーゴントと戦える力を得てもそれはまだ小さな炎。
なんとか倒せたとして、その後に追撃があったら……。
「まあ、それは使い方次第。使い手次第ってことでなんとかするしかない。……で、だ。空間転移の燃費についてだが、それは改善できるかもしれない」
「そ、それはどういうことですか?」
俺もだが、ヴィオレットもファルク王の言葉に食いつく。
「普通に考えれば、使い手が成長すればいいんだろうが。それだと間に合わない時がある。だから、こういう時は道具に頼るんだ」
「道具?」
「その通り。お前ら、世界中に凄い魔道具をばら撒いている謎の発明家については知ってるだろ?」
「はい。僕らギルドの方にも役立つ魔道具が多く提供されていますから」
自称天才発明家。
その者は、誰もが驚き、誰もが絶賛する魔道具を作っては世界中にばら撒いている。同じ発明家も、どうやったらこんなものを作れるんだ? と感心しながらも、悔しい思いをしているとか。
「まさか、その発明家に空間転移が使える魔道具を?」
「その通りだ。多くの魔道具は、魔法を術式として刻み込むことによって作られている」
「なるほど。つまりその発明家にヤミノくん達の空間転移を術式として魔道具に刻み込むことで、いつでもだれでも使えるようにする、ということですね?」
マルクスさんの言葉に、なるほどと頷く。
確かに、空間転移を使える魔道具があれば、こちらも消費は抑えられるし、出動に関してもスムーズになる。
「まさか、ファルク王。その件の発明家の居場所を知っているんですか?」
「良い質問だ、ヤミノ。その通り! 俺は、そいつの居場所を知っている!!」
にやりと笑みを浮かべ、ファルク王は叫ぶ。
「海を渡り、北東へ進んだ先に結界に囲まれた無人島がある! そこへ向かえば、更なる力を得られるだろう!!」