第四話 先輩と後輩
「今、世界を騒がせている鋼鉄の獣の名前はイア・アーゴント。そいつらには、聖剣や魔剣の特殊な力しか通用しませんでした。ですが、永炎の絆。それにより、奴らに対抗できる力を得ることができます」
「うん。で、その方法は?」
「闇の炎の大元である俺達。もしくは、永炎の絆で闇の炎を扱えるようになった人物から炎を灯してもらうんです。具体的には、体に触れ、炎を灯すイメージをする。ただ、そこに絆がなければ灯ることはありません」
「つまり、相手に炎が灯らなかった場合は、二人の間には絆がなかったということになるのかしら?」
「……そうなります」
永炎の絆についてあらかた説明を終えると、ファルク王とセリーヌ王妃は、少し考える素振りを見せる。
「わかったわ。じゃあ……カーリー」
「は、はい!」
すると、セリーヌ王妃がどこか懐かしむような表情を浮かべながら母さんの名前を呼ぶ。
なにやら母さんが、変に緊張しているような。
相手が王族だから、もあるだろうけど。
「ふふ。そんなに緊張することはないわ。お互い知らない仲じゃないでしょ?」
「そう、ですけど。今は、立場というものが」
どういうことだ? と俺達は首を傾げる。
だが、マルクスさんはどうやらわかっているようで、微笑ましそうに見ていた。
……いや、そうか。
二人は、元冒険者。それに活動していた時期がほとんど同じ。てことは、二人の関係はおのずと想像できる。
「あら? 私は別に気にしないわよ。昔みたいにセリーヌ先輩って呼んでくれないかしら?」
「こ、困ります! セリーヌ王妃!」
やはりそういうことか。
母さんもかなり有名な女冒険者だったけど、セリーヌ王妃はそれ以上。でも、母さんからも、周囲からも二人が先輩後輩の関係だなんて聞いたことがない。
まさか、誰にも言えない親密な関係だったとか?
「あの頃は、本当に可愛かったわ……目をキラキラさせて、私の後ろを」
「ま、待ってください! あの、息子の前というか。他の目もありますから、それ以上は!」
こんな慌てる母さん、初めて見た。
なんだか若干若返っているようにも見える。
「そうね。この話はまた今度二人きりでとしておきましょう。……けど」
すっと立ち上がり、母さんのところへ歩み寄ってくる。
「今は、その永炎の絆を試してみましょう」
そう言って右手を母さんに差し出す。
「セリーヌ様!!」
また危険だとばかりにトーリさんが出ようとするが、セリーヌ王妃がそれを止める。
「下がりなさい、トーリ」
「……承知しました」
渋々下がるトーリを見て、セリーヌ王妃は再び笑みを浮かべて母さんに話しかける。
「さあ、やりましょう。カーリー」
「で、ですが」
「大丈夫よ。それとも、私のこと嫌いになってしまったのかしら。あーあ……悲しいわ。私は、今もあなたのこと大好きなのに……!」
誰から見てもわざとらしい。
だが、母さんには大分効いているらしく渋々セリーヌ王妃の手に触れる。
「では、やります」
「ええ、お願い」
互いに目を閉じる。
周囲は、自然と静寂に包まれ、二人に視線が集まる。
「……」
「……」
本当に成功するのか? 大丈夫なのか? と、周囲が心配する中。
母さんの体から紫色の光が体を包み込む。
そこから、セリーヌ王妃へ流れ込んでいく。
「……どうやら、成功したようです」
「確かに、感じたことのない力。それに温かい……こうかしら」
どうやら永炎の絆は成功したようで、セリーヌ王妃は手のひらに小さな紫色の炎を灯す。
「あら? 思っていたより小さいわね」
「最初はそんなものです。あたしも、そんな感じでしたから。今ではこれぐらいです。鍛えれば徐々に大きくなっていくので。先輩ならあっという間だと思いますよ」
自分の現状を見せながら、自然と先輩と言う母さん。
しかし、思わず言ってしまったに気づき口を覆う。
「ふふ。別にいいのに。でも、これで私も例のイア・アーゴントに対抗できるのね」
「はい。とはいえ、まだまだ小さな炎ですので、傷をつけられる程度かと思います」
「確かに。……それで、私も誰かに闇の炎を灯すことができるようになったのよね」
「はい。こうやって、炎を広めていくことでイア・アーゴントに対抗するんです。その辺りの計画は、ヤミノとマルクスに」
また出番のようだ。
「そうか。なら、その計画とやらを話してくれるか? ヤミノ、マルクス」
「わかりました」
「では、これまでどのように進めてきたのか。そこから順を追って説明致します。まずは―――」
俺とマルクスさんは、世界を守るため。これまでやってきたことを説明した。
とはいえ、ほとんどマルクスさんが進めてくれていたことなので、俺はこの辺りに関してはあまり役立たなかったんだけど。