第二話 聖剣使いトーリ
「よし。到着だな。念のため、王都から離れたところに転移したが……」
「待ち伏せとかはないみたいね」
王都へ向かう時間帯となり、俺は主要人物達を集めて王都近くに転移した。
なぜ王都近くなのかは、色々と理由がある。
まず王都には、光こそが正義と謳う組織があるため慎重に行動したい。そして、突然王都の中に転移したら騒ぎになるかもしれない。
なので用心して、王都から離れた地に転移したのだ。
転移したのは、俺、ヴィオレット、エメーラ、アメリア、ララーナ、母さん、マルクスさんの七人。
ここに、シャルルさんが。
「我も行く! 行くったら行く!!」
などと、子供のように言ってきたが、リオントに残ってもらった。
これも用心してだ。
シャルルさんは、俺以外が闇の炎を扱えるようになる方法を聞き、自分もと頼み込んできた。
俺以外が闇の炎を扱う方法。
通称、永炎の絆。
大元である俺ほどではないが、確かに闇の炎を扱えるようになる。だが、炎を扱う者との確かな絆が必要となる。
大元である俺でも、ヴィオレットでも、娘のアメリアでも。そして、永炎の絆で扱えるようになった者でもいい。
絆を繋ぎし者と触れ合い、相手に炎を灯すイメージをする。
もし、そこに本当の絆があれば炎は灯る。言葉だけじゃ、上辺だけじゃだめなんだ。残酷だけど、炎が灯らなかった場合は、そこに絆はないということ。
……まあ、シャルルさんは普通に炎が灯ったんだけど。ちなみに、母さんから灯してもらった。二重の意味で大喜びしていた。
これで、自分もイア・アーゴントと戦えると。とはいえ、まだまだ小さな炎。俺達の協力で、火力を上げている最中だ。ちなみに、永炎の絆で闇の炎を得た者達は、大元である俺達のように特殊能力は扱えないし、どの色の闇の炎を灯すのかは絆を結んでいる者による。
ここまで、永炎の炎について説明したが。
シャルルさんに残ってもらった理由は、本当にもしものため。またイア・アーゴントが襲ってくるかもしれない。その時のために一人でも対抗できる人はいなくては。
それと……これはあってほしくないが、俺達が王都へ行っている間を狙って、王都側から襲撃があるかもしれない。
「リオントは大丈夫でしょうか?」
心配するようにリオント方面を見るマルクスさん。
「大丈夫よ。あんたもシャルルの実力は知っているでしょ? それに領主様も、かなり張り切っているようだし」
「確かに。というか、領主様は、僕達の方が大丈夫かと心配なさっていましたね」
「そりゃあ、そうよ。王直々の呼び出しなんだから。それに領主としては、領民を心配するのは当たり前でしょ? まあ、あの人は心配しすぎかもしれないけど」
「そんな領主様だから、リオントは良い街なんだよな。母さん」
「ええ、そうね。さて……行きましょうか」
俺達が住んでいる街リオントの領主であるイザークさんは、親しみやすい領主として皆に慕われている。領民のことを考え、交流を大事に。
今回の件でも、何もできない自分が不甲斐ないと嘆いていたらしい。
さすがに領主でも、王に対してはどうすることもできない。だからこそ、せめて街のために! と張り切っているのだ。
「……ん? なんだか人だかりができているな」
「どう見ても、一般人じゃないわね」
おそらく遠目から俺達が近づいてくるのを見て、出てきたんだろう。
ぞろぞろと鎧を纏った者達が、王都内から出てくる。
その先頭には、見覚えのある人物が立っていた。
「お待ちしておりました。王が、城でお待ちしております」
金色の整った髪の毛に、青い瞳。
全身には白銀の鎧を纏っており、腰には明らかに普通じゃない剣が見える。金色の線が入った鞘に収まっており、そこから見える青い宝石からは聖なる力を感じる。
聖剣使いトーリ。
マリアさんの夫であるトーマさんの弟であり、王直属の騎士団団長。
「移動用の馬車を用意しています」
そう言って、俺達を馬車へ導こうとする。
俺達なら空間転移で一瞬にして移動できるが……。
「ありがとうございます」
ここは、あえて使わない。俺達は、用意された場所に乗り込む。
そして、動き出したところで、声を潜め口を開く。
「さすがに、馬車に乗って人気のないどこかへーってことにはならないよな?」
「どうでしょうね。もしそんなことになったら」
「うん。空間転移ですぐに脱出だね」
馬車で移動している間も、警戒は解かない。
馬車自体になにか仕掛けがあるかもと調べたが、特になにかを施されている形跡はなし。馬車を先導しているのは、聖剣使いトーリ。
その周りを、多くの騎士達が囲んでいる。
窓から様子を見ると、明らかに一般人達は警戒している。まあ、闇の炎は謎が多いからな。まだ実害はないとはいえ、何をされるかわからない未知の力があれば警戒するのは当たり前だ。
「お母さん。その漫画楽しいですか?」
「それなりに。なに? あんたも読みたくなった?」
「はい! あ、でもお母さんが読んでいるので。全部読み終わった後でいいですよ」
まったく……緊張感がない二人だ。
最初の頃よりは距離が縮まっているようだから、俺としては嬉しいことだけど。
でもまあ、まだ壁はある。
馬車の座席はかなり広く、向かい合わせになっている。まず馬側には、俺、アメリア、マルクスさんの順に座っていて、向かいの席にララーナ、母さん、ヴィオレット、エメーラの順となっている。
つまり、エメーラの間に母さんとヴィオレットという壁があるわけだ。
なんだかんだで会話はできているから、後は壁がなくなってくれれば良いと願うばかり。娘のララーナは全然気にしていないようだけど……。
「そうだ、マルクス。今ここで、やってみる? 永炎の絆」
「あははは。やってみたい気持ちはあるんですが、もし炎が灯らなかったらと思ったら怖くて」
「なによ。先輩であるあたしとの絆は、その程度だって言いたいわけ?」
「いやいや、そんなことは」
マルクスさんの言いたいことはわからなくもない。永炎の絆で、炎が灯ればそこには本当の絆があるということ。だが、灯らなかった場合はその程度の絆だったんだと。
絆にも色々ある。
家族、友達、師弟。もちろん母さんとマルクスさんのような先輩後輩の絆。
これから、どれだけの敵が現れるか予想がつかない。
だから、戦力アップのためマルクスさんのような強い人が闇の炎が灯れば心強い。
「ん? 馬車が止まった」
「着いたみたいだね、パパ」
馬車が止まり、すぐにドアが開く。
「王城へ到着しました。さあ、王が待っております」