第四十一話 今後について
緑の闇の炎エメーラを求めて訪れたフォレントリアの森。
そこであったことを、俺は全て母さんを始めとした今回の計画に関わる者達に話した。鋼鉄の獣はイア・アーゴントという総称があり、それを操る仮面の人間が居たということ。
もちろん俺が出会ったのは当人が言っていた通り本物ではないとも。なので、俺が見たのが真実の姿とは限らない。もしかしたら、別の姿かもしれない。
この情報は早急にマルクスさんやシャルルさんが広めてくれた。
マルクスさんは、各地のギルドへ。シャルルさんは、母さん以上に顔が広いようで、任せておけ! と言ってきた。
もちろん勇者を輩出した王都にもこのことは伝わっている。そんなわけで、より詳しい情報が欲しいと王都から呼び出される。
おそらくそこで、俺の……闇の炎に関しても聞かれるだろう。
遅かれ早かれこうなることはわかっていた。
なので、そこまで驚きはない。
王都へは、マルクスさんがついてきてくれるようだ。もちろん母さんも、あることへの証人として。
「そら!!」
「っと! 良い感じじゃないか。母さん」
「あんた達が帰ってくるまで、アメリアちゃん指導の下、時間を許す限り訓練してたからね」
そのあることとは、闇の炎を俺以外が操れるようになるということについてだ。
いつものように家の裏手にある訓練スペースで、俺と母さんは闇の炎を交えた打ち合いをしていた。
お互い腕に紫の炎を纏わせ、父さんが見ている中で。
「はあ……妻と息子が、大変な目にあっている中。俺はいつもと変わらずか」
「なぁにため息漏らしてるのよ。あんたは、酒場の店主でしょ? それで、あたし達は冒険者。適材適所ってやつよ」
打ち合いを一度止め、母さんが父さんを諫める。
「そうだよ、父さん。それに変わらない場所があるっていうのはいいことでもあるんだから」
「そうそう。それに、あんたの酒場が好きな連中は多い。あたしもそう。働いた後の一杯。それをあんたの酒場でやる。これが好きで、現役時代は通っていたんだから」
「あ、でも今色々やることが多くて父さんの酒場で働けてない……」
「その辺りは気にするな、て言うのは無理があると思うが。皆、お前が今どれだけ重要なことをしているかわかっているからな。でもまあ、時々顔を出すぐらいはしてくれれば連中も喜ぶはずだ」
そうだな。たまには、顔を出そう。
あの酒場も、俺の思い入れのある場所のひとつなんだから。
「カーリーおばあさん!! 洗濯物を全部干しましたー!!」
「あら、ありがとうララーナちゃん。アメリアちゃんも」
「ついでに家の掃除も終わったよ。それと朝食の準備も」
ララーナは朝から元気である。
というか、明るい時間が元気なのだ。夕方から夜にかけては、まるで消耗した後の子供かのように大人しくなってしまう。
アメリアは、元気いっぱいな妹を可愛がる姉のように色々と世話を焼いている。夜寝る時も、完全に寝るまで頭を撫でていたり。
「お父さん褒めてくださーい!!」
と、ララーナが飛びつこうとするも。
「わひゃ!?」
「だめだよララーナちゃん。パパは、まだ訓練中なんだから。邪魔しちゃ、めっ」
空間転移の円に吸い込まれ、アメリアの傍へ強制的に戻され、軽く叱られてしまう。
「ごめんなさいです!」
「うん、ちゃんと謝れて偉いよ。よしよし」
「ふふ。ちゃんとお姉ちゃんしてるわね、アメリアちゃん」
ララーナは、行動力と好奇心の塊。
ここ数日で、わかったことだが、彼女は意外と力持ちでもある。男の大人でも苦労するような重いものを、片手で軽々と持ち上げてしまうほどに。
恰好も今はちゃんとしており、いつでもどこでもぴょんぴょんと動くので袖なしのシャツに半ズボンというものになっている。
「そういえば、エメーラだったか? ララーナちゃんの母親はまだ篭ってるのか? ヤミノ」
五本の指一本一本に炎を灯していると父さんがエメーラについて聞いてくる。
「そうそう。特徴とか聞いてるけど。直接挨拶していないん……だけど……! はあ、無理かぁ」
俺の真似をしようと試みる母さんだが、全然できなくため息を漏らす。
「エメーラは……」
紫の炎を消し、俺は緑の炎を手のひらに灯す。
「そ、その内ってことで」
ヴィオレットも、俺の体内で説得しているようだが、まだまだ時間がかかりそうなのだ。力自体は貸してくれるようだけど。
彼女が言うには、俺の体内が予想以上に居心地が良いかららしい。
まあ、それだけじゃないんだろうけど。
そんなこんなで、次回からは新章となります。