第三十九話 エルフの友
「……」
一波乱終え、俺はまだフォレントリアの森に居た。
二日目の夜だ。
あの後、俺がいなかったら今頃大変なことになっていたことを聞き、エルフ達がお礼がしたいと言ってきた。
どうしようかと迷っていたところへ、丁度よくアメリアからの遠話魔法による思念が届く。
どうやら、リオントでも襲撃があったみたいだが、死者を出さず撃退したとのこと。
そこで、今の自分の状況を説明したところ。
ゆっくりしてきてもいいよと言われる。
とりあえず、こちらが得た情報を必ず帰るを伝えた。
そして、エルフ達からの感謝の気持ちを込めた宴に参加。
今日は、新しい家族が増えたということもあり、俺も少し羽目を外した。普段はあまり飲まない酒を、ぐいぐいと。
エメーラも出てくれば、より良かったのだが。完全に引き篭もりモードで出てこない。俺の中から見えてるだろうから、楽しくやってくれと。まあ、代わりに娘のララーナが盛り上げてくれた。エルフ達も、大いに喜んでいたのを思い出す。
「ここに居たか」
「ファリーさん。それにフェリーさんも」
今日も二人の家に泊っていた。
前日と同じで、外で涼んでいたのだが、今回はシャルルさんではなく家主二人が訪れたみたいだ。
「シャルルさんは?」
「あの駄狐は今も一人で飲んでいる。まったく、貯蔵しているものを全部飲むつもりじゃないだろうな」
「ま、まあまあ。まだまだあるんだし。それよりも、今は」
シャルルさんに起こるファリーさんだったが、フェリーさんが諫める。
そうだな……と怒りを鎮め、ファリーさんが俺に近づいてくる。
「これを、お前にやろう。ヤミノ」
そう言って差し出してきたのは、手のひらサイズの木人形。
「これって、猫ですか?」
「そうだ」
「私達が元々住んでいたところでは、認めた相手、友に、こうやって木人形を渡すの」
説明しながら、続いてフェリーさんが狐を象った木人形を、俺の手のひらに置く。
「じゃあ」
「……少なくとも、シャルルよりマシだってことだ」
「も、もう。ファリー。そんなこと言っちゃだめだよ。ごめんね、ヤミノくん。本当は、ファリーもあなたのこと認めているから。その」
「あははは。照れているだけ、てことですか?」
「その通り!! ファリーは、とてもめんどくさい奴なんだ。素直に、好きになったー! と言えばいいものを」
一人で飲んでいるはずのシャルルさんが、ふらっとやってくる。
「好きになどなっていない! 誤解を招く言い方をするな!!」
と、シャルルさんに反論するファリーさん。
その慌てようを見て、シャルルさんはにやっと笑みを浮かべる。
「ん~? なんだぁ、その慌てようは。まさか君~? 本気でヤミノを好きになったのか? だが、二人は男同士……」
「だから違うと言っている! これだから酔っ払いは……!」
「はーっはっはっは!! 確かに酔っぱらっているが、まだまだ意識ははっきりしているぞー!」
「ふ、二人とも落ち着いて! あんまり騒ぐと皆起きちゃうから……!」
なんだかなぁ。
静かで、居心地のいい森だから。静かに夜を過ごしたかったのに……昨日に続いて、騒がしくなってしまった。
「ヤミノ」
「お? ヴィオレット。ララーナは?」
言い争っているシャルルさんとファリーさんの横をちょこちょこと横切って姿を現すヴィオレット。
彼女には、ララーナのことを頼んでいた。
ここに来てからというもの、ちょっとした怪我を見ればすぐ治療をし、更には宴でも盛り上げ役を買って出た。生まれてまだ間もないのに……。
「ぐっすり眠ってる、よ」
「そっか。ご苦労様」
「えへへ」
俺は、ヴィオレットを抱きかかえ、夜空を見上げる。
「明日には、リオントに帰る。娘達は、ちゃんと仲良くできると思うか?」
「大丈夫、だと思う。アメリアも、ララーナもとてもいい子、だから」
「だな。それじゃあ、そろそろ俺の中に。エメーラと色々話したいことあるだろ?」
「……うん。それじゃあ、おやすみなさいヤミノ」
「ああ、おやすみ」
さて、ヴィオレットが俺の中に入ったところで。
「二人とも。そろそろ言い争いはやめましょう? ね?」
「私だって、好きで言い争っているわけじゃない! この駄狐が!」
「我が悪いと言うのか?」
「そうだと言っている!」
「お、落ち着いてー!」
まったく……これはまた長い夜になりそうだな。