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第三十四話 リオント防衛線

「……あれが、ヤミノが話してた飛行型ね」

「軽く二十体はいますね」


 リオント警備隊からの報告を受け、カーリーとマルクスは急ぎ北門の高台から望遠鏡で、遠くの空を確認していた。

 目に映ったのは、王都を襲おうとしていた飛行型の鋼鉄の獣。

 着々とリオントへ向かっている。

 

「それに……あいつは」


 そのまま地上の方へと向けると、見覚えのある鋼鉄の獣が一体。

 

「まさかまた見ることになるなんてね」

「ターク警備隊長。いかがいたしますか?」

「直ちに装備を整えるんだ! 相手は、世界を騒がせている敵だ!!」

「はっ!!」

 

 リオント警備隊を束ねる男、ターク警備隊長は、一人の兵士に指示する。

 兵士は、すぐにその場から離れていく。


「……とはいえ、勝てるかどうか。いかがする? マルクス殿」


 戦う準備をするが、相手は聖剣や魔剣などの特殊な力でないと傷をつけられない相手。

 通常武器や魔法で攻撃しても意味がないことはすでにわかっている。


「心配には及びません。僕達には、彼女がついています」


 そう言ってマルクスは、アメリアを紹介する。


「彼女は、闇の炎の」

「ええ。闇の炎ヴィオレットの子であるアメリアちゃんです。彼女の炎であれば、鋼鉄の獣に対抗できる。しかし」

「……数が多いわね。大丈夫、かしら。アメリアちゃん」


 アメリアは、じっと近づいてきている鋼鉄の獣達を見詰める。

 

「飛行型なら、わたしの今の火力でも倒せる。でも、地上のは」

「難しい?」

「……炎を収束させて、一気に解放すれば倒せるかも」

「では、まず飛行型を迅速に倒し、残った地上の敵は」

「我々でなんとか時間を稼ぎ、アメリア殿の炎で倒す。ということですかな?」


 ヤミノとヴィオレットが居ない現状では、それが最善策。

 作戦が決まったところで、門前で待機していた冒険者達にマルクスは指示を出す。

 今は、北側からにしか敵はいないが、もしもということもある。

 冒険者達は、人数を半分にし、もうひとつの出入り口である南門へ向かった。


「カーリー先輩。ターク警備隊長。ここをお任せします」

「了解です」

「んー!! よし! アメリアちゃん。まずは、空の敵をよろしく!」


 そう言って、カーリーは槍を携え他の冒険者達と共に北門から出て行く。

 

「カーリーさん! あいつと戦ったことがあるんですよね?」

「ええ」

「どう、だったんですか?」


 飛行型がアメリアの炎の矢で焼き貫かれている中、カーリーは初めて鋼鉄の獣と遭遇した時のことを思いだす。

 引退し、長く命の危険を冒す戦いに投じていなかったとはいえ、体と技は衰えないように鍛えていた。

 だからこそ、勝てないにしろ足止めぐらいならできると思っていた。

 が……実際はこれまで鍛え上げられた技がまったく通用せず、追い詰められた。


(もし、あのままヤミノが助けに来てくれなかったら、あたしは今頃……)

 

 獲物を見つけ突撃してくる地上の鋼鉄の獣を見て槍を掴む手に力が入る。


「あんた達! 無理だと思ったら、退避すること!! 今回は、攻撃の要であるアメリアちゃんを全力でサポートする作戦! 勝とうなんて考えるんじゃないわよ!!!」


 飛行型は、空を飛び、機動力を重視しているためか耐久度は他より低いようだ。

 カーリー達が移動している間に、全て倒されてしまった。


「おお! 本当に倒してしまうなんて!」

「実際にとんでもない力を感じたけど、いったいどこから」

「てか、あんな硬そうな奴が空を飛んでいるって……これじゃおちおち街でゆっくりできねぇぞ」


 作戦通り、アメリアにより飛行型は全て倒された。

 今は、地上の敵を倒すために力を収束させている頃だろう。

 その間を。


「さあ、あんた達! ここで食い止めるわよ!!」

「や、やってやる!」

「足止めなら氷漬けにすれば解決ね!」

「そういうことなら、土壁で囲んでやるさ!!」


 今回は、足止めが目的。

 そのため、魔法使い。特に足止めができるような魔法を会得している冒険者達を多く編成した。

 そして、前衛は盾で守るより、動きの速さで回避しながら攻撃を誘う方向性でいくことになっている。


「前衛! 攻撃は最小限! ただ攻撃を誘って回避することだけを考えなさい! その間に、魔法部隊! 足止め用の魔法の準備を!!」

《了解!!!》


 カーリーを先頭に、前衛部隊は突撃する。

 同時に、魔法部隊は魔力を練り上げ始めた。


「あの爪に注意!! 当たったら鎧なんてあっさり切り裂かれるわ!!」

「ひえ……」

「絶対当たるかぁ……!」


 まずは手始めにとばかりに右の爪を振り下ろしてくる。

 それを、まず回避し、前衛部隊は三つに分かれる。

 正面は、カーリー。左右は他の前衛。円を組むようにし、前に進ませないようにする。攻撃をしてきたら、それを回避し、挑発をして攻撃を誘い、また回避。

 それを繰り返し、魔法が発動できるようになったら一度距離を取る。


「魔法!! いけます!!」

「よし! 前衛! 一度退避!!」

「りょ、了解!」

「うお!? あ、あっぶねぇ……!」


 図体の割に、動きが早く、前衛部隊も本当にギリギリのところで回避できていた。

 魔法部隊の準備が整ったところで、カーリーの声で一斉に後方へ跳ぶ。

 そして。


「【アイス・ストーム】!!!」

「【アース・ウォール】!!!」


 まずは、氷系統の魔法で凍らせ、土系統の魔法の壁で周囲を覆う。

 二重の壁により、緊迫していた戦場に沈黙が訪れる。


「と、止まった?」

「さすがに、今ので倒せてたりは」


 次の瞬間。


「皆! 構えて!! 破られるわよ!!」


 激しい轟音を鳴り響かせ、中から鋼鉄の獣が姿を現す。

 

「普通の魔物なら、凍らせただけでもいいのに……」

「なんて厄介な敵なんだ!?」

「泣き言言わない!! 今は、アメリアちゃんの準備が整うまで全力で足止めをするのよ!!」


 再び、その牙が、爪が襲い掛かってくる。

 

(とは言ったものの……)


 こうして対峙していると、あの時の悔しさが自然と込み上げてくる。

 

(それと同時に、ヤミノの姿を……闇の炎の力で敵を倒す姿を見て、冒険者だった頃の気持ちを思い出した……)


 どこまでも強さを求めて、ただただ強敵を求めて世界中を旅していた。

 だが、現実を思い知らされた。

 上には上が居る。そして、限界があると。


(だから、あたしはシャルルの助言でしばらくリオントを拠点にして冒険者稼業をする合間に、学園で教官をするようになった。そこから、何かを得られるかもしれないって)

「ぐああ!?」

「大丈夫か!?」

「お前達は下がれ! 大丈夫だ、傷は浅い!! すぐに回復薬を!!」


 リオントを拠点としてしばらく過ごしたカーリーだったが、結局自分はすでに限界だったのだと思い知らされただけ。

 その後、先の人生を考えていた中、行きつけの酒場で今の夫であるタッカルから猛烈なアタックを何度も受け、付き合い、結婚をし子を授かり、強さを求める貪欲さはなくなってきていたのだ。


『準備できたよ!!』

「アメリアちゃん! 皆!! 退避!! 凄いのが来るわよ!!」

「よ、ようやくか!」

「終わらせてくれー!!」


 冒険者達が逃げるように鋼鉄の獣から離れると。


「な、なんだ!?」

「周りに円状の炎が」


 鋼鉄の獣を囲むように、巨大な炎の魔法陣が出現する。

 異変に気付くも、すでに遅い。

 一斉に、巨大な紫炎の矢が体を貫いた。


「おっしゃあ!!」

「これで終わりね!!」


 体中に複数の穴が空き、紫炎に焼かれ、膝をつく。

 その姿を見て、多くの冒険者達が倒したと。勝利を確信した。

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