第三十三話 襲来者
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「うーん。まだ出てこない」
「まだ数分しか経っていない。お前は、短気過ぎる」
「君にだけは言われたくはないぞ。ファリー」
「私が短気だと?」
「少なくとも、我よりは短気だ」
「ふ、二人とも。喧嘩はだめだよ……!」
ヤミノとヴィオレットが闇の炎エメーラの中に入ってから数分。
すでに、炎の道は消えており、いつもの光景が広がっていた。
二人が戻ってくるまで、特にやることがないシャルル、ファリー、フェリーの三人は、ただただその場で待っていることしかできない。
「しかし、本当に炎の中に入っていくとは」
木に背を預けたままファリーは、湖に浮かぶエメーラを見て呟く。
「我も実際目の当たりにして驚いている。聞いた話だが、ヴィオレットの時はパンツ一丁で炎の中に飛び込んだらしい」
「ぱ、ぱっ!?」
「馬鹿なのか?」
「その時、ヤミノくんの精神状態は普通ではなかったようだ。そして、気が付いたら闇の炎は消えていて、子供が生まれていましたー」
シャルルの言葉に、ファリーとフェリーはわけがわからないと顔を顰める。
「じゃあ、ヤミノくんがエメーラ様から出てきたらまた子供が生まれるってこと?」
「守り神様の子か……」
「なんだ? 気になるのか?」
「気にならない方がおかしい。お前は気にならないのか?」
「気になる! いやぁ、アメリアちゃんはとってもいい子だったからなぁ。今度はちょっと手のかかる子なんてのもいいかもしれない」
「お前の願望が届くはずがないだろ」
刻々と時が過ぎていく中、他愛のない話をして過ごしていた。
ふと、ファリーが空を見上げる。
すると……なにやら空を飛んでいる複数の影を目にする。
「あれは」
「む? こっちに向かってきているようだが」
「鳥?」
「……普通の鳥ではないようだな」
ぐっと弓矢を構えるファリー。
「どうやらそうのようだな。それに……森の中からも」
シャルルも異変に気付き、警戒心を高める。
空を飛んでいたのは、数体の翼を持ちし鋼鉄の獣。そして、森の中からは全体的に細長く、猫背な鋼鉄の獣と仮面の人間が姿を現した。
「なんだ貴様! この森がどういう場所かわかっているのか?」
いつでも射れるように、仮面の人間へ弓矢を向ける。
顔がないのっぺりとした仮面を被り、全体的に茶色い服を身につけている。どこか貴族のような雰囲気を醸し出しており、シャルル達へ静かに頭を下げてきた。
『さあ、行け』
が、すぐに鋼鉄の獣へ指示を送る。
刹那。
一斉に、鋼鉄の獣はシャルル達へ襲い掛かってくる。
「問答無用というわけか!」
「わかりやすくてこちらも助かる! 【風切】!!」
風魔法を纏った矢が猫背の鋼鉄の獣へ飛ぶ。
が、まったく回避する素振りを見せない。
ガキィン!!
矢は鋼鉄の体で弾かれた。
「くっ! 噂通り硬い!!」
「なら!!」
ファリーに続き、シャルルが手のひらから冷気を生み出す。
「【氷結波】!!!」
激しい冷気の波動が襲い掛かる。
「凍るがいい!!」
しかし、無意味。
冷気の波動は当たることなく、跳躍で回避されてしまう。そして、そのまま空中で体を回転させ、シャルル達へ攻撃を仕掛ける。
「くっ!」
なんとか回避するも、跳んだところを狙って飛行型がシャルル目掛けて突撃してくる。
「この!」
ぐるんっと体を捻る。
高速で突撃してきた飛行型は、そのまま木に激突。うまい具合に嘴が突き刺さり抜けなくなったようだ。
「チャンス!」
身動き取れないところへ魔法を放とうとフェリーは構える。
「フェリー! 避けろ!!」
「え?」
ファリーの叫びに気づくも、わずかに遅かった。
「きゃあ!?」
「フェリー!! くっ! 貴様、よくも!!」
鋭き爪が、背後より襲い掛かる。
致命傷は避けたようだが、フェリーは背中から血を流し倒れてしまう。
「……やはり、我らの攻撃がまったく効いていないようだ」
「だとしても、何もしなければ虐殺されるだけだ」
怪我を負い、身動きが取れなくなったフェリーを庇いながら戦うシャルルとファリーだったが、攻撃が通用しないため、じりじりと追い詰められていく。
『ふむ。耐久性は問題なし。敏捷性も向上……』
「なんだあいつ。ぶつぶつと」
「まさか、我らを使って何かをしようとしているのか?」
攻撃は回避できる。
しかし、攻撃が一切通用しないため勝ち筋がない。このままフェリーを担ぎ逃走したとしても、いずれは追いつかれる。
なにより、攻撃対象をフォレントリアに住むエルフ達へ変更される恐れがある。
もし、この窮地を脱せられるとしたら。
(ヤミノ。さっさと戻ってこい……!)
『君達は、相当の実力者のようだ。さあ、もっと足掻いてくれ。簡単に死んでくれるなよ?』
「言ってくれるじゃないか、のっぺり仮面」
完全に、自分達は鋼鉄の獣に勝てないと、馬鹿にされている。
シャルル達は、仮面の人間の言葉へ静かに闘志を燃やす。